第3巻第2号             1997/6/1
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Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次


【『教心研』第45巻第1号掲載論文批評】

(その2)

●山田論文:
(前号掲載)
藤岡論文
ダンスのような動作の習得がどのようになされるかを調べたユニークな研究。約10秒間、16拍分の動作系列を大学生にビデオで繰り返し自由に見せて、同じ動きができるようになることが課題とされた。習得過程をビデオカメラで録画し、被験者の内省報告をも加味して結果を分析してみると、動作系列を「部分的に少しずつ習得する」タイプと「全体を一連の流れとして習得しようとする」タイプがあることがわかった。ユニークな研究で期待を持って読んだが、分析方法はありきたりで結果も予想される以上のものではなかった。今後の研究の発展に期待したい。
○山形・清水論文:
(前号掲載)
三浦・嶋田・坂野論文
中学生を対象に、第2学期の中間テスト前後の約1ヶ月間のストレス状況を継時的に測定した研究。既に作成されている「心理的ストレス反応尺度」などの5つの尺度が用いられた。中学生のテスト不安を継時的に調べた研究は希少価値があるらしいが、「テスト不安はテスト前の方がテスト後より有意に高い」など研究結果はほとんど常識的に予想される範囲内のもので、特に有用な結果が得られたわけではなかったのが残念である。一方、テストに対する自信の程度(セルフ・エフィカシー尺度)を測ると、テスト不安の高い生徒の方が自信の程度は低い。そして「テスト不安が高い生徒と低い生徒との自信の差がテスト4日前に最も顕著となる」という結果は面白いと思ったのだが、その結果の裏付けとなるデータは曖昧で解釈過剰のように思える。
◎工藤論文:
(前号掲載)
日下・中村・山田・乾原論文
阪神淡路大震災の6ヶ月後に、大学のセミナー参加者・学生など602名にPTSD(心的外傷後ストレス障害)診断尺度などの調査を行った研究。タイムリーな企画であったが、被験者(被災者)の選び方などがやや安易な感じがする。「大学の公開セミナー受講者と学生」は被災者のサンプルとしては明らかに「偏り」がある。個人的な感想としては、こうした大きな災害を被った人には「体験を他者に話すこと」が「心の傷」の回復に効果があること、そして、そうした行為に「トーキングスルー」という命名までがなされていること、を初めて知り、興味深かった。
○溝上論文:
(前号掲載)
片岡論文
「攻撃及び非攻撃児の敵意帰属に及ぼすムード操作の効果」についての4要因の実験計画による研究である。ただし、敵意帰属は図版を用いての仮想状況でのものである。ムード操作は、実験者が勝敗を操作できるパソコン用ルーレットゲームが用いられた。標題にもあるように、主たる研究目的はムード操作を行った前後の比較であるにもかかわらず、結果を示すTable2/3/4の要因の配置が悪く、結果がとても見にくい。「ネガティブムード操作によって敵意帰属傾向が高まる」ってホント?とTable2を何度も見直してしまった。このような表の書き方をしているのでは、4要因の分散分析を繰り返しのある混合計画として正しく計算しているのか疑りたくなる。
●天貝論文:
(前号掲載)
坂本論文
効果的なCAIを作るためには、学習者のつまづきの診断ができることが必須である。それには、研究者自身が述べているように、「児童の発話を利用する」ことが最も有効な方法なのだが、コンピュータには児童の発話が「理解」できない。そこで、コンピュータに「理解」しやすい「選択式の診断質問」によって解決を試みるということになる。この研究では、小学校5年生を被験者にして、小数の割合についての文章題における学習者のつまづきを「選択式の診断質問」によって診断することが可能かどうかを調べたものである。パソコンは進化し、Visual Basicも使いやすい言語であるが、発想はスキナー時代のままである。市販のCAIソフトもいつまで経ってもこのレベルに留まっている。画期的なアイディアを誰か出してもらいたいものだ。坂本さんからのお返事(1997.6.19)
◎星・草薙・陳論文:
【KRベスト論文賞】(前号掲載)
豊田論文
「A・Bの2つの単語のうちどちらがよりCと関連が深いか」という課題を行わせる際に、A・BがともにCに関連していて判断が難しい場合の方が、後でA・Bを思い出しやすいことが知られている。これを「符号化困難性効果」と呼ぶ。さて、それはなぜであろうか?豊田はこの論文で、既存の3つの仮説に加えて新たな仮説を提唱し、2つの実験によって新たな仮説の優位性を証明している。「符号化」「方向づけ課題」「精緻化」など、この研究分野独特の用語が出てきて難しく感じられるかも知れないが、研究方法は丁寧で論理的であり、仮説検証型の実験研究の面白さが味わえる好論文である。豊田さんからのお返事(1997.6.17)

【KR巻号別アクセス統計】

(信州大学教育学部内(160.252.121.xxx)からを除くアクセス件数)
 『KR』がzenkojiサーバで公開を開始したのは、1996年4月25日です。その後、丸1年間(1996.4.25〜1997.4.30)の各巻号ごとのアクセス件数を調べてみました。総数は5820件、ホームページでカウントした「『KR』への公式なアクセス件数」は2954件でした。また、アクセスして下さった方々のIPアドレスは1517箇所となりました。1500人以上の方がアクセスして下さったと考えられます。今後もどうぞよろしくお願いします。

発行月 巻号 アクセス件数(グラフ表示)
97年4月 第2巻8号 264
97年3月 第2巻7号 201
97年2月 第2巻6号 294
97年1月 第2巻5号 371
97年2月 第2巻4号(追加分) 245
96年12月 第2巻4号 311
96年11月 第2巻3号 352
96年10月 第2巻2号 501
96年9月 第2巻1号 437
96年8月 第1巻8号 325
96年7月 第1巻7号 293
96年6月 第1巻6号 360
96年5月 第1巻5号 295
96年4月 第1巻4号 258
96年3月 第1巻3号 239
96年2月 第1巻2号 326
96年1月 第1巻1号【創刊号】 387
95年12月 第1巻0号【刊行予告号】 354
総合 ホームページ 2954

KRにアクセスして下さった方々のIP一覧

【月間アクセス件数も記録更新】
先月は月間アクセス件数も526件となり、2ヶ月連続の記録更新となりました。