第1巻第3号 【創刊第3号】 1996/3/1
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KR
Kyoshinken Review, or Knowledge of Results
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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://cert.shinshu-u.ac.jp/facul/psycho/mori/kr/
目次
【KR発刊の目的】(第1巻0号からの抜粋の抜粋)
【『教心研』第43巻第2号掲載論文批評(その1)】
【『教心研』掲載論文「追試」結果報告】
【読みやすい論文のための提案(その1)】
新コーナー
【WWW版だけの特別付録:井口論文】
理化学研究所の井口和基氏が「戦後の日本におけるアカデミズムの問題点」について論じたものです。日本物理学会の話ですが、他の学問分野の研究者にも重要な話です。
【KR発刊の目的】
(第1巻0号からの抜粋の抜粋の抜粋)
学問の発展は互いに批判しあうことでなされるものである。また、学会誌掲載論文の研究結果は「追試」によって確認されるべきである。しかし現状では、「研究論文発表」→「批判」→「著者の反論」という健全な議論も、「追試」による「オリジナル論文」の吟味も期待できない。そこで、『教育心理学研究』掲載論文を批判したり「追試」結果を載せたりするシステムを作った。どうぞよろしくご支援下さい。
【『教心研』第43巻第2号掲載論文批評】
(その1)
元論文へのリンクを張りました。(2014.8.10)
◎
中島論文
:
日常的な観察から得た知識(地面は平らである)と、学校などで習った科学的知識(地球は丸い)とには食い違いがある。幼稚園児から小学生(一部大学生)の被験者を使って、その食い違いの実態を調べ、食い違いを正すための教授法の効果について調べた研究である。面白い研究であるが、模型世界での「上下」と現実世界での「上下」とが問題や教材で同じように用いられていて、著者自身も2つの知識が混乱しているようである。表2のQ1(a)で「球の下側」と言っている。こうしたテーマに取り組む際には、著者自身が相当しっかり勉強して置く必要があろう。
◎塩谷論文:
(次号掲載)
◎平論文:
(次号掲載)
◎下山論文:
(次号掲載)
◎
前田論文
:
全11頁,900行を越える論文に図や表が一つもなく、全面ただただ文が続いている。それに、略語のオンパレードである。とても読む気になれない。査読者もこの論文を本当に読んで審査したのだろうか?研究内容も大事だが、読者にわかりやすい論文を書くこともそれ以上に大事だと思う。
◎坂本論文:
(次号掲載)
◎
根建・田上論文
:
「ハピネストレーニングプログラムが主観的幸福感の変容に及ぼす効果」というタイトルであるが、「ハピネストレーニングプログラムは主観的幸福感の変容に効果を及ぼさない」という内容の論文である。「タイトルは論文内容のもっとも短い要約である」という原則を守らない読者を欺く論文。
◇第2著者・田上氏からの返答抜粋
「頭の中は、ハピネストレーニングの効果を調べるということしかなく、結果から表題を見なおすと、指摘してもらったように適切性を欠く点があったかもしれません。」
◎
福岡・橋本論文
:
研究結果を示す図1から図5がまったく同じ体裁でありながら、実は表しているものが微妙に違っている。図1と2を並べ、図3と4を並べ、そして図5だけは別にして体裁を少し変えてくれたらわかりやすかったと思う。さらに、「GHQ28は高得点ほど健康度が低い」というのであるから、縦軸の数値を逆転させてあればよかった。しかし、「女子学生はストレスが高い事態では家族のサポートが高い方がかえって健康度が低くなる」ことが示されるなど、研究結果は面白い。
◎
内田論文
:
中国人留学生にはナ行の前の「ん」の聞き取りが難しいという。上級者でもその聞き取りの方略は日本人とは違うことが明らかにされた。同じ著者の第41巻4号論文と併せて読むと、研究の意義がわかりやすい。
◎
松永論文
:
学齢前の幼児でも他人の内的特性の基本的部分(意地悪かそうでないか)を把握し、それに基づいた行動予測ができることを巧妙に実証した論文。「行動に一貫性のない子」の理解は子どもでは難しいという結果も面白い。
◎広田論文:
(次号掲載)
◎岩男論文:
(次号掲載)
【『教心研』掲載論文「追試」結果報告】
●内田論文(第37巻4号1989:及び『発心研』1990)の実験を批判的に追試(伊高卒論1993):
予備実験の結果、内田論文の結果は幼児では再現できなかった。幼児では、絵だけから内田論文のようにお話を作れなかった。そこで、小学2年生で追試したところ、満足状況でも絵画ストーリーの種類によっては、欠如情報が与えられるよりも、高いパフォーマンスが示されることがわかった。
◎麻柄論文(第40巻1号1992)を小学校4・5・6年生及び中学校1年生で追試(丸山卒論1993):
内包量を外延量によって暫定的に定義することが内包量の保存概念の獲得に効果があることが再現された。(もっとも、速さの概念についての実験なので、厳密には布施川・麻柄(1989)の追試。)
【読みやすい論文のための提案(その1)】
「略号はやめよう」
このKRもそうですが、昔からよく略号が使われてきました。LTM(長期記憶)、STM(短期記憶)、UCS(無条件刺激)、MAL(ミニチュア人工言語:えっ、知らない?)、etc. 論文中でもこうした略号がよく使われます。論文が手書きであったころは、「長期記憶」と書くよりもLTMと書くほうがずっと早く書けて便利だったのかも知れませんが、ワープロを使うようになった今では、その利点はあまりありません。むしろ意味がわかりにくいという欠点だけが残ることになります。上述の前田論文の一節「AG尺度得点ではAWR群やAR群がTA群よりも有意に多く、他の5群はTA群より有意に少なかった。」何を言っているのかわかりますか?「AG尺度」でなく「攻撃性尺度」と書きましょうよ。中島論文でも「OK/KSI」でなく「観察知識/科学的知識」でいいじゃないですか。
【『KR』はインターネット上
(http://cert.shinshu-u.ac.jp/fcaul/psycho/mori/kr/krhp.html)
で配布している他、オリジナル論文の著者にも郵送しています。】
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