第1巻第4号   【創刊第4号】     1996/4/1
KRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKR

KR

Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

KRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKR
不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://cert.shinshu-u.ac.jp/facul/psycho/mori/kr/


目次


【KR発刊の目的】

(第1巻0号をご覧下さい。)


【『教心研』第43巻第2号掲載論文批評】

(その2)

(「なんだ単なる感想ぢやないか」とご批判下さるな。『KR』はまだ「赤児」徐々に育っていきまする。)
塩谷論文
【KRベスト論文賞】中身の濃い論文である。読むのにずいぶん時間がかかったが、統計的な用語が難しかったり、文献が豊富に引用してあったりしたためで、文章そのものは明快で構成もよい。研究結果も有意義なものである。この結果を活かして、「テスト不安」を低減させるための介入方略を考案し(塩谷氏でなく他の研究者でもいい)、さらにその効果を実証する実験研究(これも誰か別の人がやってもいい)へと繋がっていけば、教育心理学の大きな成果となろう。
平論文
「作文能力の育成には、文章を書くことが「好き」という感情を持たせることが重要で、他発的な訓練はあまり有効ではない」というパス解析の結果は面白い思うが、以下に述べるようにパス解析という解析方法自体に疑問があるため、この結果の信憑性がどれくらいあるのか判断ができない。
下山論文
この研究のハイライトは、男子大学生の無気力形成に関して、「授業や学業への意欲低下と大学そのものへの意欲低下とが別のプロセスによって生じること」を明らかにした研究3だと思う。Abstractでもそう書かれている。しかし、本文ではそのことを知るまでに、その前置きとなる研究1研究2を延々8頁も読む必要がある。確かに、研究の時間的流れは研究1・2・3であるが、研究3を前面に押し出した書き方にすべきだと思う。
坂本論文
いい研究なのかもしれないが、文章構成がまずく、きわめてわかりにくい。その原因を2点だけ指摘する。(1)用語の使用が不正確で一貫していない。(たとえば、「説明変数には既有知識、知能、記憶容量の3要因を用いた。(p.171右下)」とあるのに、p.172のTable3では、これとは違う4つの説明変数が並んでいる。)(2)パラグラフ単位で一つのまとまった考えを述べるというパラグラフの使い方ができていない。
広田論文
小学5年生の教室内の行動をビデオカメラで40時間分録画し、教室内での愛他行動の種類・生起頻度を調べた研究。「40時間分のビデオ起こし」が必要となる研究は結構大変なのかも知れないが、まだまだ「半端」である。1視点からの固定カメラで40時間観察した程度のことは、クラス担任を1カ月も勤めればわかることばかりである。観察時間を少なくともこの10倍にして、教師がいるときといないときとで愛他行動の種類・生起頻度に差があるかどうかを調べていただきたいものである。
岩男論文
大学生225名に自分自身の発話傾向を評定させ、因子分析で「他人とのおしゃべりである社会的発話」因子と「独り言のような私的発話」因子が分けられることを確認した上で、この2つの因子の因子得点を基にクラスター分析をしたもの。社会的発話と私的発話のどちらも多いタイプ・私的発話だけ多いタイプ・社会的発話だけ多いタイプ・どちらも少ないタイプの4タイプに分けられた。読みやすい好論文。

【パス解析大流行に思う】

  本号に掲載された論文12篇のうち、実に4篇(原著論文に限れば5篇中3篇)までがパス解析を用いたものである。私が大学院生だった頃には習わなかった分析法なので、誤解している部分があるかも知れないが、以下のような感想を持った。(1)パス係数は偏回帰係数であり、基本的には相関関係の強さを表しているだけだから、パス解析で「因果関係を説明できる」かのように記述するのは間違いなのではないか?(たとえば、平論文「それを因果的に説明するパス解析を行った。p.140」)まず、因果関係が想定できることをいろいろな論拠に基づいてしっかりと示した上で、想定された因果関係を量的に計算してみるというのが、パス解析の使い方だと思うのだが、この解釈は間違っているのだろうか?本号で紹介した論文の著者からお教えをいただければ幸いである。(2)それでも、新しい分析方法が取り入れられることは教育心理学の発展にもつながるので基本的には喜ばしいことである。いつまでたっても、統計処理は分散分析か因子分析だけというのも問題である。(3)要因が複雑に絡み合う教育の分野では多変量解析のような解釈的な分析も有効だとは思うが、因果関係を一つずつ明らかにして研究の蓄積をするという意味では、検定力分析(パワーアナリシス)を誰もが使うようになることの方が大事だと思う。パス解析よりも検定力分析が大流行してもらいたいものだ。

【『教心研』掲載論文「追試」結果報告】

(今回はなし)


【読みやすい論文のための提案(その2)】

「もっと図を使おう」
 図や表がワープロで簡単に作れるようになったとはいえ、どうしても図を作るのはめんどうなものです。その結果「図があればもっとわかりやすいのに」と思われる論文が多くなりました。(いや、昔から多かったのかも知れません。)結果はぜひわかりやすく図で示してもらいたいものです。とにかく、もっと図を描きましょう。
 しかし、図であれば何でもいいというわけでもありません。結果のわかりやすい図示の仕方も工夫して下さい。私たちは「教育心理学者」じゃないですか。日本心理学会編『執筆・投稿の手びき』に書かれていることは最低限守りたいものです。誌面での図表のレイアウトも大事だと思います。前号で指摘した福岡・橋本論文が悪い例です。中島論文のTable 4とTable 5はどう見ても「図」です。こうした無頓着さが論文をわかりにくいものにしています。

【『KR』はインターネット上
(http://cert.shinshu-u.ac.jp/fcaul/psycho/mori/kr/krhp-j.html)
で配布している他、オリジナル論文の著者にも郵送しています。】