第3巻第1号 1997/5/1
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Kyoshinken Review, or Knowledge of Results
学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。
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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html
目次
【『教心研』第45巻第1号掲載論文批評(その1)】
山形さんからのお返事
が届きました。(1997.5.14)
工藤さんからの追加情報
が届きました。(1997.5.14)
陳さんからのお返事
が届きました。(1997.5.19)
【「原著」と「資料」の区別をなくすことについて】(「執筆要項改定」へのコメント)
「編集委員長あて要望書」
を書きました。
【『教心研』第45巻第1号掲載論文批評】
(その1)
元論文へのリンクを張りました。(2014.8.10)
●
山田論文
:
おにぎり・コップ・帽子・虫かご、など16項目を3−5歳児に記憶させる際、実験室内での通常の記憶課題としてよりも、「遠足の準備のために買い物に行く」という意味づけをしたゴッコ遊び状況での方が、記憶成績も良く、記憶方略も活用されるだろう、といういかにもうまく行きそうな実験をしてみたのだが、残念ながらうまく行かなかったという研究。仮説そのものは間違っていないと思うのだが、実験結果の解釈はかなり強引で「買い物ゴッコ状況の方が・・動機づけが高まる傾向という傾向が示された」などと考察しなければならないほど苦しい。この種の実験では明確な仮説を持った研究者が実験者を兼ねること自体がアンフェアで問題である。
○藤岡論文:
(次号掲載)
○
山形・清水論文
:
1歳半から3歳半までの保育園児91名について個別実験で、お母さんの顔やウサギをどう描くかを調べた研究。もちろん2歳児以下はほとんど何を書いたのかわからないのであるが、それでも、「大人があらかじめ輪郭を書いてやると2歳児では描画が促進される」「目が最初に描かれることが多く、右・左の順になる」など、いくつかの興味深い事実が見いだされている。
山形さんからのお返事
(1997.5.14)
○三浦・嶋田・坂野論文:
(次号掲載)
◎
工藤論文
:
既有の間違った信念のために新しい情報を間違って読みとってしまう「信念依存型誤読」がどういう状況下で起きやすいか、また、どうすれば防げるかを巧妙な実験によって明らかにした模範的論文。論の進め方、図表の使い方も適切でわかりやすい。読解のレベルに3段階あり、「信念依存型誤読」はその最も深いレベルで起こりやすいことなどが見事に実験データに現れてきていて読んでいて小気味よい。「ヒマワリは花を太陽に向けて回るのか」という実験の題材そのものも面白く、思わず瀧本敦『ヒマワリはなぜ東を向くか』(中公新書)まで買ってしまった。[
工藤さんからの追加情報
(1997.5.14)]
○日下・中村・山田・乾原論文:
(次号掲載)
○
溝上論文
:
Self-esteem(「自尊心」でいいと思うのだが、なぜか英語が使われている)と自己評価との間には関係が見られてしかるべきだと思われる。自尊心の高い人は自己評価も高く、理想自己と現実自己の差も小さいだろうことは充分予想される。ところが、先行研究では必ずしもそうした関係が見られない。著者は「自己評価の観点が調査者から与えられる(=外在的視点)か、評価者自らが作り出す(=内在的視点)かがこの謎を解く鍵と考え、それぞれの視点による自己評価と自尊心の関係を調べている。しかし、その結果はなんだかよくわからないものになってしまっている。もっとハッキリしたことがわかってから論文にしてほしいものだ。
○片岡論文:
(次号掲載)
●
天貝論文
:
生涯発達心理学の重要性が指摘される中で、成人期から老人期にかけての892名に及ぶ被験者を用いた貴重な調査研究である。しかし、あまりに安易な被験者の標本抽出方法のために研究そのものがすっかり無意味になってしまっている。30代から50代までの被験者を「幼稚園児・専門学校生・大学生の父母および親類」から集める一方、60代以降の被験者は「特別養護老人ホーム・老人センター・老人デイサービスセンターへの来所者・通所者および居住者」から集めている。50代までの成人と60代以降の老人とが年齢だけの異なる同一の母集団からの標本とはとても思えない。「それでも特に60代以降の被験者に際だった違いは見られないからいいではないか」と著者は主張するかもしれないが、「こんなに性格の違う被験者を使いながら際だった差が見られない」ことこそこの研究が無意味であることを示していると思う。
○坂本論文:
(次号掲載)
◎
星・草薙・陳論文
:
【KRベスト論文賞】
「よく泣く恐がりの子は、うれしいときもよく騒ぐというように、何かと表出が激しい子とそうでない子に分かれるのか」それとも「泣き虫・恐がり・はしゃぎ屋のように感情ごとに表出しやすさがちがうのか」について実験的に確かめた研究。こんなことはできないだろうと思っていたが、親の同意を得た上で、「おもちゃで喜ばす」「蜘蛛などで脅かす」「意地悪をして怒らせる」という標準化された実験室内での気質評価バッテリーを用いて実際に調べたところがすごい。その結果、恐れ・怒り・快の感情表出がそれぞれ独立で、感情ごとに一貫していることを確認した。親への質問紙調査の結果は実験結果と異なることも確認され、「こんなことは親に質問紙で聞けばわかるはず」という見解が正しくないことも証明した。教育心理学の「財産」となる知見の積み重ねに貢献する貴重な研究である。
陳さんからのお返事
(1997.5.19)
○豊田論文:
(次号掲載)
【「原著」と「資料」の区別をなくすことについて】(「執筆要項改定」へのコメント)
『教育心理学研究』の編集規程及び執筆要項が10年ぶりに大改定され、1年後発行分から適用されることになった。今回の改定のポイントは、「原著論文」と「資料論文」の区別を廃止(「原著」に統一)したことである。もともとハッキリとした差がなかったのだから、今回の改定には基本的に賛成である。ただし、せっかくの改定の機会なのだから関係者だけで討議するのではなく、広く会員からも要望等を聞いてもらいたかった。「要望があったら、会員の方から編集委員会にどんどん提案すればいい」ということなのかも知れないし、小改定ならいつでもできるのかも知れないので、一応KR子からは以下の4点の要望を編集委員会に送っておくことにした。
「編集委員長あて要望書」
A.「略語は一般に用いられているものに限る」の徹底。(『KR』第1巻3号での提案)
B.「表と図は必要最小限」ではなく、「できるだけ図示する」こと。(『KR』第1巻4号での提案)
C.著者連絡先住所(とできればe-mail)を各論文に明記すること。(『KR』第1巻6号での提案)
D.英文editorの交替・英文アブストラクトは編集委員会で用意すること。(『KR』第2巻7号での提案)
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