第2巻第4号          1996/12/1
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Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次


【KR発刊の目的】

(第1巻0号からの抜粋の抜粋の抜粋)

  学問の発展は互いに批判しあうことでなされるものである。また、学会誌掲載論文の研究結果は「追試」によって確認されるべきである。しかし現状では、「研究論文発表」→「批判」→「著者の反論」という健全な議論も、「追試」による「オリジナル論文」の吟味も期待できない。そこで、『教育心理学研究』掲載論文を批判したり「追試」結果を載せたりするシステムを作った。どうぞよろしくご支援下さい。反論・コメントを歓迎します。

【『教心研』第44巻第2号掲載論文批評】

(その2)

○内田・今井論文:
(前号掲載)
○大浦論文:
(前号掲載)
下村論文
大学生3年生と4年生の就職活動に伴う情報探索をパソコン上で 模擬的に行えるようにして、情報探索方略を調べた研究。著者らの先行研究で 作られた「職業レディネス尺度」も用いられ、就職活動を既に経験した4年生 とまだ経験していない3年生をレディネス高低に分けて種々の分析を行ってい る。結果は著者によれば「交互作用が見られた」ということである。3年生と 4年生とで結果が違うことがしばしばで、著者はそれを「就職活動経験の有無」 で説明している。しかし、そんなに決定的に違うはずの3年生と4年生で主効 果には差が見られず、交互作用だけに差が見られるのは納得がいかない。「結 果はシッチャカメッチャカである」というのが評者の印象である。そもそも 「パソコンに向かって平均でわずか11分間情報を検索する」ということで、自 分の一生を決めるかも知れない就職活動を模擬的に行っているとみなすことに 無理があるのではないだろうか。
田中・中澤・中澤論文
単身赴任家庭268組の母子に父親不在に伴う種々の問 題点を郵送法によって調査し、同じ方法によって調べた統制群(帯同赴任家庭の 母子215組)と比較した研究。調査結果は意外にも「父親不在が思ったほど大き く有害な影響を与えてはいない」というものだった。この結果から著者らは「転 勤以前から勤労者家庭では夫の不在が日常化しており、既に父親抜きの生活サイ クルが母子に確立している」のだという刺激的な解釈を提示している。(ほとん ど毎日、家族全員で朝食・夕食を食べているKR家の方が異常なんだろうか?)
○高橋論文:
(前号掲載)
○秋田論文:
(前号掲載)
○土肥論文:
(前号掲載) 
浦上論文
女子短大2年生186名を対象に、就職活動前の5月と就職活動後の 12月とに質問紙調査を行い、就職活動を通して「進路選択に対する自己効力」感 や「自己概念」がどう変化するかを縦断的に調べた研究。教養学科生では就職活 動を経験することによって自己概念の明確化、さらには職業的自己概念の明確化 が起こるが、幼児教育科生では、大学志望の段階で職業選択がある程度なされて いるために、そうした現象が見られない。ところで、「進路選択に対する自己効 力」というのがこの研究のキー概念の一つであり、career decision-making self- efficacyという単一概念を意味しているのだが、「に対する」という動詞句が挿入 されているために、「進路選択に対する」の部分が一般的な修飾語に感じられて しまう。また、ここで問題となっているのは「自己効力」ではなく「自己効力感」 である。そこで、「進路選択自己効力感」と表現した方がわかりやすいと思う。
浦上さんからの反論(1997.9.5) 】
○浅村論文:
(前号掲載)
中川・松原論文
「学習結果だけでなく課題解決方法をも自己評価させるという 自己評価法」が、「学習結果だけの自己評価法」に比べ、学習成績を有意に上昇さ せ、内発的動機づけも高めることを小学校3年生2学級58名の被験者を用いた実験 研究で見出した。教育的示唆に富む好研究である。
安藤論文
遺伝的要因が教授・学習にどれだけ影響するかという大問題に関する 論文であるので、同じ著者による「人間行動遺伝学と教育」という展望論文(1992) などと併せて、別稿としてもう少し長いコメントを書きたい。少し時間を下さい。 (どなたかこの論文に対する本格的批評を書いて下さいませんか?)安藤論文特集号発行(1997.2.7)
栗田論文
教育心理学の研究でよく用いられるt検定は、本来個々の観測データ が独立なものでなければない。しかし、実際の研究ではこの「独立性」が仮定でき ない場合の方が多い。(「独立性」が仮定できないというのは、言い替えれば個々 のデータ間に相関があるということである。)そこでこの研究では、データ間に相 関がある場合にt検定の結果がどれくらい影響を受けるかを、架空のデータを用い ていろいろな条件で1万回ずつ試してみている。統計的検定においては、有意とな るかどうかを決める「危険率(帰無仮説が正しいのに間違って棄却してしまう確率)」 が重視されるが、それと同様に「検定力(帰無仮説が間違っている時にちゃんと棄 却できる確率)」も重要である。この研究では「検定力」に与える影響についてよ り詳細に分析を行っている。はじめの方に出てくる数式は難しそうだが、結果はわ かりやすく図示されており、一般読者でも理解できると思う。研究結果によれば、 独立性の仮定からの逸脱はかなり影響が大きく、しかも現実に最も起こりやすい 「クラス内での相関(小集団の大きさ40程度)」がある場合や「効果量中程度」の 場合に特に顕著であるという発見は重視すべきであると思う。
栗田さんからメールが届いています。(1997.1.21)

【1996年のホットな話題】

 今年レビューした『教心研』掲載論文を通して、KRが見出した教育心理学におけ る最近のホットな話題は、「パス解析(共分散構造分析)」「行動遺伝学」「検定力 分析」でした。「パス解析」は多くの論文で使われるようになりました。それに対し 「行動遺伝学」と「検定力分析」はその重要性が指摘されるようになったばかりです。 前者に関しては『教心研』第40巻の安藤氏による展望論文、後者は『年報』第34集の 南風原氏の展望論文をご覧下さい。ちなみに、『教心研』第44巻第2号には3つの話 題のすべてが登場しました。