第1巻第8号   【創刊第8号】     1996/8/1
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KR

Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次
祝・第43巻批評完了


【KR発刊の目的】

(第1巻0号からの抜粋の抜粋の抜粋)

  学問の発展は互いに批判しあうことでなされるものである。また、学会誌掲載論文の研究結果は「追試」によって確認されるべきである。しかし現状では、「研究論文発表」→「批判」→「著者の反論」という健全な議論も、「追試」による「オリジナル論文」の吟味も期待できない。そこで、『教育心理学研究』掲載論文を批判したり「追試」結果を載せたりするシステムを作った。どうぞよろしくご支援下さい。反論・コメントを歓迎します。

【『教心研』第43巻第4号掲載論文批評】

(その2)

○岡田論文:
(前号掲載)
天貝論文
「高校生について、信頼感と自我同一性地位とを調べ、前者の後者に及ぼす影響を調べた」という研究であるが、相関研究がなされているだけで、「信頼感が自我同一性に影響する」と結論できる根拠は何も示されていない。研究結果の重要でない部分だけが図示されていて、肝心の部分が表だけなのもいただけない。
○高橋論文:
(前号掲載)
平他論文
在日朝鮮・韓国人大学生93名について、本名と通名(日本名)の場面による使い分けを中心に民族アイデンティティのシフトを質問紙調査によって調べた研究。一貫して本名を使うタイプ・本名を使うが日本語読みを併用するタイプ・本名と通名を使い分けるタイプの3タイプに分けられることがわかった。こうした名前の使い分けパターンは民族アイデンティティの強さや民族的要素の保持と関連していたが、いわゆる同一性地位とは関連が見られなかった点が注目される。
○上淵論文:
(前号掲載)
栗山・吉田論文
【KRベスト論文賞】公教育における十進法の経験がまだ浅い小学校1年生では、5がまだ特別の意味を持っていて、5を含む加算演算は反応時間が小さいことを実験的に検証した好研究。それでも、気になった点として、2+3の計算が2+4や2+6よりも速いことの解釈がある。筆者らは「2という小さい数の操作は容易であるから」であると解釈しているが、「答えが5になる演算もやさしい」と解釈する方が自然なのではないだろうか?この部分に(p.407右l.38)「3を含む問題」を「2を含む問題」とミスプリがあるのも気になる。(吉田氏反論)(吉田氏への再質問)
●田中論文:
(前号掲載)
城・近藤論文
「戦闘的で興奮を誘うようなコンピュータゲームは心拍数を増大させる」ということを9人の児童(5-11歳)で見出した研究。このことだけから、あたかも「コンピュータゲームは子どもの自律神経系反応にストレッサとして働き、子どもの発育にとって望ましいものでない」かのように匂わせていることはきわめて問題である。この論調に従うと、心拍数を増大させるものは何でも発育に悪いことになってしまう。(Figure2の△PNSに有意な相関が見られて、△SNSに相関が見られないという分析結果も疑問が残るものである。) 
○笠井他論文:
(前号掲載)
西松・千原論文
「個人内評価は『生徒のコンピテンスを高めるため』内発的動機づけを高める」というDeci&Ryan(1985)の認知的評価理論を基に、個人内評価と絶対評価、相対評価、評価なしの4条件の内発的動機づけの効果を実験的に調べた研究。実験結果は個人内評価条件の内発的動機づけが一番高まることを示したが、「コンピテンスが高まったから」というわけではなかった。実験結果が有意になったとしても、理論が否定されていたのでは、結果を信用する気になれない。分析方法に関しても、群間の比較だけでなく、生徒個人個人の評価結果と内発的動機づけとの関係も調べるべきではないだろうか。(千原氏反論) 
◎落合他論文:
(前号掲載) 
藤井論文
「テスト不安研究の動向と課題」という展望論文であるが、海外の研究は1980年代までしか引用されていない。テスト不安に関する研究はもう外国ではここ10年研究が途絶えてしまったのだろうか?そんなハズはないと思って、PsycLITで検索してみたら、1990年以降も317件もの研究論文がある。藤井氏はこれら317件の研究には言及すべきものがないと判断したのだろうか?最近10年間を無視したような展望論文はまったく意味がない。

【『教心研』掲載論文「追試」結果報告】

今回もお休み


【読みやすい論文のための提案(その4)】

 
「学会発表論文集の字数制限を守ろう」
 
 ワープロの普及によって原稿がそのまま縮小印刷される総会発表論文集が読みやすくなりました。ただ、それと同時に、論文集の文字数制限を守らない原稿が続出しています。小さい字で詰め込めるだけ詰め込んで「読みたい人は各自が拡大コピーでもして読んで下さい」といわんばかりのひどい原稿もあります。第37回総会(茨城大学)の論文集では、規程の文字数が22文字×40行であるのに対し、最悪の2例は、人格L3040の堀川・郷間論文(19文字×61行)と発達P2093の村山・山下・澤田論文(表だからとはいえ、なんと101行)です。特に堀川・郷間論文は行間が狭く文字間隔が広いので、特に読みにくいものになっています。

【ゲストコメンター募集】

 
「あなたも論文批評を」
 
 『KR』は私が個人的にやっているものですので、第43巻分については全部1人でコメントをするつもりですが、先行き息切れしそうな不安があります。そこで、早めに手を打っておこうと思い、ゲストコメンターを募集します。第44巻1号以降の掲載論文を読んで、コメントをkazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jpまでお送り下さい。コメントの分量に制限はつけませんが、誌面の都合により200〜300字に編集して掲載します。ただしその場合にも、WWW版ではコメント全文も読めるようにします。どうぞ応援よろしくお願いします。