第1巻第7号   【創刊第7号】     1996/7/1
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Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次


【KR発刊の目的】

(第1巻0号からの抜粋の抜粋の抜粋)

  学問の発展は互いに批判しあうことでなされるものである。また、学会誌掲載論文の研究結果は「追試」によって確認されるべきである。しかし現状では、「研究論文発表」→「批判」→「著者の反論」という健全な議論も、「追試」による「オリジナル論文」の吟味も期待できない。そこで、『教育心理学研究』掲載論文を批判したり「追試」結果を載せたりするシステムを作った。どうぞよろしくご支援下さい。反論・コメントを歓迎します。

【『教心研』第43巻第4号掲載論文批評】

(その1)

岡田論文
(1)大学生を友人関係尺度によって「群関係群」「気遣い関係群」「関係回避群」に3分できること、(2)それぞれの群は自他認知尺度(現実自己像・理想自己像・親友像)でも互いに異なる回答パターンを示すこと、がわかった。学会誌論文では無理かも知れないが、啓蒙誌などで「テニス同好会所属のA君は典型的な群関係群の大学生で・・・」などと具体例を添えて内容紹介をしてくれるときっと面白い研究なのだろうと思った。
○天貝論文:
(次号掲載1996/8/1発行予定)
高橋論文
漢字表記とかな表記とのストゥループ課題を小学校2・4・6年生と成人に行わせた結果が報告されている。4年生ではさらに、漢字の読み書きテストの上位下位で別々にデータがとられている。その結果、2年生・4年生下位・4年生上位・6年生と順番に成人データに近づくことがわかった。4年生における漢字の知識が日本語能力全般に関連しているらしいことが示唆されているのが興味深い。
○平他論文:
(次号掲載1996/8/1発行予定)
上淵論文
Dweck(1986)の達成目標と達成行動のモデルの検証を小学校6年生被験者に算数課題を用いて行ったもの。研究方法も論文の記述も丁寧で教育への含意を含む好論文であるが、独立変数としての自己効力の操作がうまくいっていない。自己効力高群と自己効力低群の差は統計的に有意だとしてもあまりに小さい。
○栗山・吉田論文:
(次号掲載1996/8/1発行予定)
田中論文
「課題解決場面において精神遅滞児は課題の要求をいかにとらえるか?」という表題であるが、読んでいくと少し裏切られた気になる。与えられた課題は「ABCでかけっこする。Bが一番速い」という情報だけから、AとBとでどちらが勝つか、AとCとでどちらが勝つか、を答えさせるものだけで、これだけから精神遅滞者の課題認知を論ずるのは無理がある。細かな点でも、表1と表2をなぜ一緒にしないのかや、解答理由のカテゴリー分けの基準が明確でない(特にCとD:丸数字4と5)など疑問点が多い。結果4では、健常児でのデータがないのに、「解答がBへと変化した点では健常児と同様である」という不適切な記述もある。
○城・近藤論文:
(次号掲載1996/8/1発行予定)
笠井他論文
小学校5・6年生と中学校1・2年生それぞれ約2千名ずつ計4千人を対象に「無気力感とその関連要因」について調べた大調査。しかし、残念ながら特に面白い結果は得られていない。
○西松・千原論文:
(次号掲載1996/8/1発行予定)
落合他論文
「進路指導において生徒に望まれる教師の対応」を普通科と商業科の高校生を調査対象として調べた研究。正に表題通りの内容で記述もわかりやすく、「温かく親身の配慮をする」ことと「鋭く広範囲な展望をもつこと」が進路指導担当教師に望まれているという調査結果も納得がいく。また、商業科の生徒は後者をより強く求めていることも明らかにされている。一つだけ気になったことは、「温かく・・」を母性的、「鋭く・・」を父性的と表現していることである。直感的にはわかりやすいが、性役割観を助長するものではないだろうか?
○藤井論文:
(次号掲載1996/8/1発行予定)

【『教心研』掲載論文「追試」結果報告(特別版)】

「追試研究も投稿できます。」

新潟国際情報大学の松井孝雄さんが、「学会誌に載らないような、それでも有用な論文・資料」のアーカイブpda-j(電子的に検索できる文書保存庫)を作りました。投稿および問い合わせ先は、pda-j@nuis.ac.jpです。(「原則として対応は電子メールに限る」とのことです。)いずれ松井さんのアーカイブが本格稼働するようになれば、ここで紹介してきた追試研究の詳細がそちらで見られるようになると思います。

【読みやすい論文のための提案(その3)】

 
「表中の文字を本文と同じ大きさに」
 
 私自身が老眼になったせいか小さい数字が並んでいる表が見づらくて困ります。本文以上に大事な実験結果が本文より小さい字で印刷される理由はどこにあるのでしょう?「個々の数字にはあまり意味がない、全体的な傾向を示したいだけなのだ」ということなのかも知れませんが、それだったら、図にして下さい。私には、「ほらホントにデータもあるんですよ」ということを示すためだけに表が使われているような気がしてなりません。そういう表もあるのかも知れませんが、その場合は資料として後につけるようにしましょう。そうでないと「表中の字は小さく」という変な慣習ができてしまい、本文以上に大事な表までが小さい字で印刷されてしまいます。

【ゲストコメンター募集】

 
「あなたも論文批評を」
 
 『KR』は私が個人的にやっているものですので、第43巻分については全部1人でコメントをするつもりですが、先行き息切れしそうな不安があります。そこで、早めに手を打っておこうと思い、ゲストコメンターを募集します。第44巻1号以降の掲載論文を読んで、コメントをkazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jpまでお送り下さい。コメントの分量に制限はつけませんが、誌面の都合により200〜300字に編集して掲載します。ただしその場合にも、WWW版ではコメント全文も読めるようにします。どうぞ応援よろしくお願いします。