第2巻第1号          1996/9/1
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Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次


【KR発刊の目的】

(第1巻0号からの抜粋の抜粋の抜粋)

  学問の発展は互いに批判しあうことでなされるものである。また、学会誌掲載論文の研究結果は「追試」によって確認されるべきである。しかし現状では、「研究論文発表」→「批判」→「著者の反論」という健全な議論も、「追試」による「オリジナル論文」の吟味も期待できない。そこで、『教育心理学研究』掲載論文を批判したり「追試」結果を載せたりするシステムを作った。どうぞよろしくご支援下さい。反論・コメントを歓迎します。

【『教心研』第44巻第1号掲載論文批評】

(その1)

谷島・新井論文
パス解析を用いた研究であるが、「理科への感情→教材への興味関心」という因果関係の仮定は逆ではないか?『KR』vol.1-4でも述べたことであるが、パス解析で明らかにされる偏相関係数は因果関係をあらわしてはいない。いろいろな因果関係モデルを仮定してそれぞれにパス解析を試み、どのモデルが一番妥当であるかを見るような下山(1995)研究3のようなパス解析の使い方をすべきなのではないだろうか?
○落合・佐藤論文:
(次号掲載)
中川・新谷論文
算数文章題解決のための教授法についての意欲的な実験研究であるが、結果は曖昧であり、著者らの分析方法や結果の解釈には疑問が残る。SCI群(および30-SCI群)はプリテストの段階から一貫して他群より成績が良かった。この結果からSCI条件の有効性を主張するのは強引ではないか。個々の生徒ごとにプリテストとポストテストを比較するなどの細かな分析をしてほしい。また、分析の中心となっているScheffe testとはいったい何だろうか?多重比較のシャッフェ法にしては自由度が変だ。データの欠落や誤植も目立つ。(p.24左頁「予測が失敗し多彩に」→「予測が失敗した際に」。p.27左頁、プリテスト2のEF群のデータがない。p.29筆頭行の「結」は、p.28最終行へ。)
○立林・田中論文:
(次号掲載)
土屋論文
別々のテストを用いた質的なデータ間で各テスト項目間の関連性を見出すための新しい統計手法が紹介されている。この手の論文では数式が出てくると理解が追いつかなくなるのだが、FIGURE 1による「直観的意味の図示」のお陰で大分わかった気になった。人工データと絵画印象データを用いた適用例も理解に役立った。
○落合・佐藤論文:
(次号掲載)
平井論文
英語関係代名詞に関する問題の出し方を3通り用い、解答を「正答」「関係代名詞を用いた誤答」「まったくの誤答」の3分類することにより、関係代名詞使用能力を尺度化した研究。難しい数式や結果のグラフを見せられるとウーンと納得してしまうのだが、よく考えてみるとこの程度の結果なら難しい数式を使わなくてもわかることである。著者には、こうした尺度化が英語教師による通常の評価に比べどこがどう優れているのかを説明していただきたい。(平井さんコメント)
○住吉論文:
(次号掲載)
中村論文
「事実である」とされた学習材料と「架空である」とされた学習材料とは既有知識への結びつけられ方が違い、再認時の文脈によって「反応時間のパターン」が逆になるというPottsら(1989)の研究を、「再生率」と「再認率」を指標にした実験で再確認を試みた研究。残念ながらPottsらが見出したような興味深い交互作用は見出せなかった。 
○榊原論文:
(次号掲載) 
尹・広田論文
小学5年生の教室内の行動を1970分間ビデオ録画し、攻撃行動の生起状況について調べた研究。攻撃行動は初発攻撃者と攻撃対応者との行動の対として記録され、全部で120件の攻撃行動が観察された。各教科の時間や給食時間、休み時間など別に攻撃行動の総頻度と単位時間当たり頻度が表にまとめられているが、ビデオ画面に写る子どもの数の要因が考慮されなかったり、また統計的な検定もなしで、「掃除や休み時間よりも授業時間中に攻撃行動が起きやすい」と結論しているのが気にかかる。ビデオでの観察結果と質問紙調査結果との相関も調べているが、初発攻撃者・攻撃対応者ともに担任教師の評定だけが見事に有意な相関を示していて、教師の観察眼を再認識した。 
○秋田・無藤論文:
(次号掲載)

【読みやすい論文のための提案(その5)】

 
「統計に関する研究論文ももう少しわかりやすく」
 
 『教心研』掲載論文のすべてを読んでコメントするということをしていくと、今回コメントした土屋論文のようないわゆる「統計学の専門家」が書いた論文にぶつかる。統計学に関する論文はわかりにくい。その主な理由は、数式が使われていることにある。そこで、私も普通はこの手の論文は初めからパスしてしまい読まない。そして、論文がわかりにくいことの責任はもっぱら「数学ができない自分にある」と考えてきた。しかし、その一方で、この【読みやすい論文のための提案】欄で主張してきたことの根底にある考えは「読みにくい論文の責任は著者にある」というものであった。そこで、こうした主張を一貫性のあるものにするためにも、あえて次のように提案することにしたい。「統計学の専門家も、『Psychometorika』や『応用統計学』に投稿するのではなく、『教育心理学研究』に投稿する論文は、読者の大部分が理解できるレベルで書く工夫をしていただきたい。」「読者の大部分が理解できるレベル」というのがいったいどのあたりなのか議論が分かれるところであるが、論文の査読委員は3人のはずだから、少なくとも1人は統計学の専門家でない人を入れて、その人がわかるレベルで記述するように求めたらどうであろうか?(「学会誌論文は興味関心の近い者だけに理解できればよい」「学会誌論文はわかりやすさよりもまず最高水準を目指すべきである」という意見もあるだろう。土屋さんやその他の教育心理学会会員の反論・意見をぜひおうかがいしたい。ぜひ『KR』上で議論をしてみたい。)

【ゲストコメンター募集】

 
「あなたも論文批評を」
 
 ゲストコメンターを募集します。第44巻2号以降の掲載論文を読んで、コメントをkazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jpまでお送り下さい。コメントの分量に制限はつけませんが、誌面の都合により200〜300字に編集して掲載します。ただしその場合にも、WWW版ではコメント全文も読めるようにします。どうぞ応援よろしくお願いします。