第2巻第2号          1996/10/1
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KR

Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次


【KR発刊の目的】

(第1巻0号からの抜粋の抜粋の抜粋)

  学問の発展は互いに批判しあうことでなされるものである。また、学会誌掲載論文の研究結果は「追試」によって確認されるべきである。しかし現状では、「研究論文発表」→「批判」→「著者の反論」という健全な議論も、「追試」による「オリジナル論文」の吟味も期待できない。そこで、『教育心理学研究』掲載論文を批判したり「追試」結果を載せたりするシステムを作った。どうぞよろしくご支援下さい。反論・コメントを歓迎します。

【『教心研』第44巻第1号掲載論文批評】

(その2)

○谷島・新井論文:
(前号掲載)
落合・佐藤論文
中学生から大学院生総計540名に親子関係に関する質問紙調査を行い、心理的離乳の段階的変化を調べた研究。落合(1995)の5段階過程仮説を基に新たな5段階仮説が提唱されているが、その両者は大きく違っていて、しかしどちらも同じ5段階仮説で紛らわしい。そもそも、なぜ「5」段階なのかが疑問である。データを素直に見れば、「中学生に特徴的な段階」と「大学生・院生に特徴的な段階」と「その中間」の「3」段階説になるはずだと思うのだが。その他にも、落合 (1995)の5段階仮説を引きずっていると思われる箇所がいくつかある。 (Figure3の段階1と2、段階4と5はそれぞれ逆にした方がデータにあう。)
○中川・新谷論文:
(前号掲載)
立林・田中論文
小学校の理科の分野で「特異な行動を示す児童」についてその特質を解明し、そうした児童が正当に評価されているかどうかを調べた研究。わずかな「特異な児童」を発掘しようとした現場的直感を研究に結びつけた新鮮な発想には敬意を表するが、そうした「特異な児童」を各クラスから4名ずつ(最終的には2名ずつ)選ぶという研究手続きに問題はなかっただろうか。各クラスに2〜4名ずつ必ず見つかるような児童を「特異な児童」とみなしてその後の分析を行ったために、「特異な児童」の特徴が曖昧になってしまったように思う。
○土屋論文:
(前号掲載)
落合・佐藤論文
中学生から大学生にかけての青年期の友達づきあいの仕方は、「浅く−深く」と「広く−狭く」の2次元で記述でき、中学時代の「浅く広く」から大学時代の「深く狭く」へと発達することが明らかにされた。高校生時代はそのちょうど中間である。素人が考えると当たり前のことのようであるが、こうしたことを客観的なデータから2段階の因子分析を通して「あぶりだして」くることができることが心理学的研究の素晴らしいところである。
○平井論文:
(前号掲載) 
住吉論文
佐々木・渡辺(1984)によって漢字圏被験者では英単語課題でも「空書」行動が見られることが報告されているが、課題がやや不自然なものであった。本研究では課題をより日常的で自然なものに変えて、日本人・中国人被験者について空書の出現の有無を調べた。さらに実験を積み重ねて、空書に2種類あること、日中の被験者では空書の使い方が違うことなどを検証していく。卒業論文をまとめたものだそうだが、見事なできばえである。というわけで【KRベスト論文賞】進呈。(アブストラクトのkushoはイタリックにすべき。Figure3のヒストグラムの横軸の数値が変。)
○中村論文:
(前号掲載) 
榊原論文
同じ音楽を繰り返し聞いていると、だんだん好きになってくるものと反対のタイプがある。また、印象が変わらないものもある。なぜだろう。この研究では、リズムパターンの冗長性とハーモニーの典型性という2つの特徴をそれぞれ独立に変化させた曲を用いて、この謎を見事に解いてみせた。その答えは論文を読んでもらうためにここには書かない。図の使い方も適切で読みやすくおもしろい。これは文句なく【KRベスト論文賞】である。(影の声「KRは若手女性研究者に甘いんじゃありませんか?これまで6人の受賞者のうち5人まで女性ですよ。」KR「そんなことはありません。男性研究者が単に不甲斐ないだけです。男性研究者諸君もっと本気で研究しましょう。」)
○尹・広田論文:
(前号掲載) 
秋田・無藤論文
幼稚園に通う幼児の母親が絵本の読み聞かせを「どんな目的のために」やっているのかを質問し調査で明らかにしようとした研究。調査対象の母親は、都内山の手の私立幼稚園児の母親で、「絵本を20冊から50冊程度自宅に所有し、図書館や本屋へ2週間に1回程度連れて行き、家では読み聞かせを時々行い、読み聞かせをする時は10分程度読んでいる」そうである。そしてその目的は「親子のふれあいを楽しむ」というものと「文字や知識を習得させる」の2因子で説明でき、 3/4は「ふれあい」をより重視、「知識習得」の方を重視するのは2割だった。著者たちも気づいているようだが、全体に「山の手の母親が模範解答をした」という感じである。

【『KR』教育心理学会総会に華々しくデビュー】

 
今まで「知る人ぞ知る」という存在だったこの『KR』を11月に筑波大学で行われる日本教育心理学会第38回総会で、大々的に宣伝します。
(1)11月2日(大会初日)に「原理・方法」部門で「『KR』という試み」という口頭発表を行います。
(2)11月4日(大会最終日)の午前中には、「学会誌審査のあり方をめぐって」という自主シンポジウムの中でも『KR』を宣伝します。
(3)続いて、同じ日の午後に「教育心理学におけるインターネットの利用」という準備委員会企画シンポジウムがあり、そこでも「インターネットによる学会誌掲載論文批評の試み」という話題提供をします。
『KR』に賛同してくれる方も、批判的な方も、ぜひご参加の上、学会で活発な議論を闘わせましょう。