第1巻第5号   【創刊第5号】     1996/5/1
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Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://cert.shinshu-u.ac.jp/facul/psycho/mori/kr/krhp-j.html


目次


【KR発刊の目的】

(第1巻0号をご覧下さい。)


【『教心研』第43巻第3号掲載論文批評】

(その1)

叶論文
鉄棒運動技能(手続き的知識)の習得に伴って(1)宣言的知識の増加と(2)努力帰属の増加が起こることを示そうとした好研究であるが、主要な2つのポイントそれぞれに関して、以下の2つの重大な問題点がある。(1)著者は宣言的知識と手続き的知識とを逆の意味に解釈している。(2)原因帰属のχ2検定の方法と結論が間違っている。審査者は気づかなかったのだろうか。
◎渡部論文:(次号掲載)
◎前田論文:(次号掲載)
◎進藤論文:(次号掲載)
一二三論文
外国人にボランティアで日本語を教えている103人が、外国人と日本語で話すときにどんな点に配慮し、その配慮の仕方が、相手の言語レベルや自身の教授経験によってどう変わってくるかを調べたもの。質問紙調査だけからでは、わかることはこの程度だろう。その他の問題点も「(3)今後の課題」に著者自身が自分で書いているとおりである。
◎瓜生論文:(次号掲載)
小林論文
小学校2・4・6年生の「忘れ物」について、親の働きかけの程度、忘れ物を防ぐための知識や工夫を子ども達がどれだけもっているかを調べたユニークな研究。これもまた質問紙調査だけで終わっているのが残念。「忘れ物」の発生頻度に学年差はなく「ほとんどの子どもは忘れ物をしない」のだとすれば、「忘れ物」をよくする子どもの方に焦点をあてて研究したらもっと面白い結果が得られるのではないだろうか。
成田・下仲・中里・河合・佐藤・長田論文
13歳から92歳まで1641名を層化2段無作為抽出法で選び出し、専門の調査員による面接法を用いて、Shererら(1982)による「人格特性としての一般的自己効力感」尺度の日本版を作ってみたという本格的でお金のかかった研究。信頼性・内的妥当性や他の尺度との相関も高く、十分に使える尺度にできあがっている。ただし、皮肉なことにオリジナルのShererら(1982)の尺度とは異なる因子構造が得られている。(細かいことだが、表の題に使われている英単語や本文中の英単語の大文字と小文字の使い分けが不統一。キーワードや、本文中の英語表記は小文字が原則である。)
藤村論文
小学校3・4・5年生に濃度と速度の問題を解かせたもの。通常の定量的な設問に加えて、定性的な設問をして、両者の関連性を発達的に調べている。オレンジカルピスの濃さに関する質問4問とミニ四駆の速度に関する4問だけで、濃度・速度に関する知識や推理能力すべてを論じていることが気にかかる。全体にそつなくまとめているのだが「箱庭」のような印象を受ける。(群名・方略名などに略号標記が多くわかりにくい。)
羅論文
「身体に障害がある人が、施設を出て一人暮らしを始めたが、身体の状態が悪くなり一人暮らしに困難が生じた事態」など「思うようにならない事態」に対して、身体障害者と健常者がどう対処しようとするか、類似経験の有無がそれにどう影響するかを質問紙で調べた研究。障害者は類似経験があるほど「断念しない」で生き続けようとするのに対し、健常者は反対に類似経験があるほど「断念」しがちであるという。障害者と健常者の溝の深さを改めて痛感した。それにしてもこの研究で明らかにされている健常者の回答は冷たい。
◎尾形論文:(次号掲載)
◎池田論文:(次号掲載)

【『教心研』掲載論文「追試」結果報告】

◎麻柄論文(第38巻4号1990)の追試(伊藤卒論1991):
麻柄(1990)は大学生でも持っている「チューリップにはタネはできない」という誤ルールを修正するには「タネができる」という知識だけでなく「なぜタネがあるのに球根で育てるのか」という情報も与えた方が効果があることを示した。伊藤卒論ではこの結果をほぼ再現し、さらに「タネ無しスイカ」の話によっても同様の効果があることを発見した。
○藤生論文(第40巻1号1992)の追試(熊谷卒論1994):
藤生(1992)は、教室での挙手行動を規定する要因として、自己効力・結果予期・結果価値の3要因を想定し、小学校6年生の算数の授業で、これら3要因が独立していることを確かめようとしたが、3要因間の分離は観測できなかった。「学級会のような場面では3要因が分離するだろう」という藤生の予測を確かめるため、熊谷は小学校4年生の道徳の授業で追試を行ったが、やはり3要因の分離はできなかった。これらの要因の分離はできないと考える方が正しいのかも知れない。
●菊野論文(第41巻1号1993)の追試(傳田卒論1996):
菊野(1993)では12場面からなる3分間程度の紙芝居を小学校2・5年生に見せ、その後の質問によって記憶の変化が生じたことが報告されている。しかし、傳田の追試では、同じ小学校2・6年生でも、30秒程度の「2人の女の子が水遊びをしている」という程度のビデオ映像の記憶では後続質問による記憶の歪みは生じなかった。

【『KR』はインターネット上
(http://cert.shinshu-u.ac.jp/fcaul/psycho/mori/kr/krhp-j.html)
で配布している他、オリジナル論文の著者にも郵送しています。反論・コメントを歓迎します。】