第1巻第6号   【創刊第6号】     1996/6/1
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Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次


【KR発刊の目的】

(第1巻0号からの抜粋の抜粋の抜粋)

  学問の発展は互いに批判しあうことでなされるものである。また、学会誌掲載論文の研究結果は「追試」によって確認されるべきである。しかし現状では、「研究論文発表」→「批判」→「著者の反論」という健全な議論も、「追試」による「オリジナル論文」の吟味も期待できない。そこで、『教育心理学研究』掲載論文を批判したり「追試」結果を載せたりするシステムを作った。どうぞよろしくご支援下さい。反論・コメントを歓迎します。

【『教心研』第43巻第3号掲載論文批評】

(その2)

◎叶論文:
(前号掲載)
渡部論文
小学校2・4・6年生計238人に「一方の欲求に非があることが明白な対人葛藤場面(2人のゴミ捨て当番の一方が雨が降っているのでもう一方にごみ捨てを押しつける)」を想定させ、その解決方略(相互作用前方略)と、その解決方略が「いやだ」と拒否された後の解決方略(相互作用後方略)の変化を年齢・性・人気のあるなしと関連づけた仮説を検証しようとした研究。「仮説が2つとも支持されなかった」という研究がどうして原著論文として認められるのだろうか?
前田論文
前論文(43巻2号)より表が3つある分読みやすくなったが、それでもまだわかりにくい。問題は著者に「結果を読者にわかりやすく示そう」という配慮が欠けていることにあると思う。
進藤論文
わかりやすく面白い好論文だが、実験の中心となる4つの群に「ABCD」という機械的な命名をしていることが致命的欠陥となり、「ベスト論文賞」を瓜生論文にさらわれた。著者は東北大大学院出身のハズだが、「ドヒャー型・じわじわ型」などわかりやすい命名では定評のある細谷先生の薫陶を受けなかったのだろうか。著者反論
◎一二三論文:
(前号掲載)
瓜生論文
【KRベスト論文賞】「意味もなく英語から略語を作って使う」ことをまったくしていないなど全体に大変わかりやすく書けている模範的論文。カップを普通に置くこととかぶせて置くことによって「隠すもの」と「隠されるもの」とが逆になることを利用した実験手法のアイディアもいい。(Schankの綴りが違っていることと、瓜生(1992)が2つあってどっちが言及されいるのかわからないところあり。瓜生(1992)『教心研』の引用ページも間違っている。)
◎小林論文:
(前号掲載)
◎成田・下仲・中里・河合・佐藤・長田論文:
(前号掲載)
◎藤村論文:
(前号掲載)
◎羅論文:
(前号掲載)
尾形論文
「父親の育児と幼児の社会生活能力:共働き家庭と専業主婦家庭の比較」というタイトルの論文であるが、「父親の育児と幼児の社会生活能力とには明確な関連性が見られず」また「共働き家庭と専業主婦家庭とで幼児の社会生活能力に差がない」という結果の詐欺のような論文。しかも、「重回帰分析の結果、父親の育児参与と子どもの社会生活能力に関連性がみられ、父親の影響は程度の差はあれ、否定することはできないように思われる」と書いているが、これに対応する実験結果がまったく見あたらない。著者反論
池田論文
テスト問題の項目バイアスを検出する方法に、項目特性曲線を比較する方法(ここではこれがDIFと呼ばれる)とその簡便法(ここではMH法)とがある。この研究では、小学生国語の採点済みテストにこの2つの方法を適用し、その実用性を検討した。しかし、種々の要因が関わるために1600人分程度のデータでは結局断定的なことは何も言えない。毎年莫大な数の受験生のデータが得られる大学入試センターで、こうした研究をやったらいいのではないだろうか?論文の中心概念である(DIF:Differential Item Functioning)の適訳を添えて欲しい。

【KR第1巻4号掲載「パス解析大流行に思う」へのコメント】

◎平@大学入試センターさんのコメント(抜粋:コメント全文はこちら)
[守が挙げた3つの論点のうち]「いろいろな方法が取り入れられることはよいことだ」という2点目には賛成です。「検定力分析が流行してほしい」という3点目には賛成しかねます。所詮、統計手法は統計手法でしかないと思うからです。1点目が最も大切な議論だと思います。「パス解析は偏回帰係数であり、基本的には相関係数の強さを表しているだけ」ということは全く正しいと思います。それを因果関係的に捕らえるのは解釈の問題であり、統計の論理の外側です。しかし、だから「『因果関係を記述できる』かのように記述するのは間違いなのではないか?」という部分にはそれだけでは(原文では下線)一般的には賛成しかねます。この部分の論理は「統計のロジックを越えた解釈を行ってはならない」と一般化することができ、その論理でいくと、因果関係分析だけには止まらず統計的手法を用いたほとんど全ての研究が壊滅的な打撃を受けるからです。しかし、先生が仰ったように「まず、因果関係が想定できることをいろいろな根拠に基づいてしっかりと示した上で、想定された因果関係を量的に記述してみるというのがパス解析の使い方だ」ということは大切な指摘であり、この限定条件がついたために結論として、この部分は大賛成です。(守記:どなたか、3点目についての平さんの反論への反論をお寄せ下さいませんか?)
南風原さんから反論が届きました。(1996/5/22) 

【読みやすい論文のための提案(特別版)】

 
「『教心研』にも著者の連絡先住所を」
 
この『KR』は、インターネットで公開しているほか、論文著者本人には郵送していますが、これが結構手間がかかります。基本的には、自宅に送るか、論文に記載の所属大学あてに送るかするのですが、どちらにせよ『会員名簿』で住所を探さなければなりません。大学院生などの若い著者が多いので、就職して自宅・所属先が変わっている可能性もあり、自宅がいいか所属先がいいか迷います。さらには、入会間もない会員だと名簿に載ってなかったりします。とにかく、いちいち名簿を見て著者の住所を探すのは一苦労です。外国の雑誌では、著者の連絡先が必ず書いてあります。(日本でも『心理学研究』は英語でだけ書いてあります。あれは外国雑誌のマネでしょうか?どうせマネるなら、日本語でも書いてくれればいいのに。)結局、日本では、編集委員会自体が「読者が論文著者に連絡しようとしたりしないハズだ」と決めてかかっているのですね。掲載論文には著者の連絡先を載せて、著者と読者のやりとりがもっと容易にできるようにしてもらいたいものです。

【『KR』のURLが http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html に変わりました。どうぞよろしく。】