副題に「内的ワーキングモデル(IWM)の観点からの検討」とあるので、どんなにすごいモデルが出てくるのかと思ったら、何にもモデルらしいものは登場しない。そこで、このモデルの提唱者だというBowlby(1973;黒田他訳1977)を読んでみたのだが、それらしいものは見当たらない。たった一つの英語文献Hazen & Shaver(1987)を読んでやっと謎が解けた。著者はBowlby(1973)もHazen et al(1987)も読んでいないのだ。おそらくどこかで聞きかじったIWMがちょっとカッコイイので、使ってみたのであろう。行動理論全盛の時代から認知理論の時代への過渡期に発達の理論を提唱したBowlbyは、認知心理学のメンタルモデル(というかその前の「認知地図」)の概念を拝借して、「人は人間関係を頭の中にworking models(訳書では「作業モデル」)として作るのだ」と考えたのである。(Hazen et al(1987)ではちゃんとmental modelsとなっている。)認知理論全盛の今、今更「内的ワーキングモデル」を副題やキーワードにしたらBowlby博士の方が恥ずかしがりそうだ。