KRから、加藤司さん@関西学院大学へのお返事#2(2000/9/28)

Date: Thu, 28 Sep 2000 09:27:54 +0900
To: 加藤 司
From: kazmori@gipwc.shinshu-u.ac.jp (守 一雄)
Subject: Re: KRvol.6-4

加藤 司さま:守@KRです。

 9.27のメール拝見しました。

 基本的には
(1)尺度作りを先行させて、よい尺度ができてからその尺度を活用する
という立場と
(2)ある程度の尺度ができたら尺度の活用を先行させる
という立場との「好みの違い」ということになりそうです。

 ただ、尺度作りを先行させる立場の研究者との
貴重な意見交換の場になりそうなので、
もう少し私の意見を述べさせていただいて、
加藤さんのそれに対する意見もお聞きしたいと思います。

At 7:01 PM 00.9.27, 加藤 司 wrote:
>  しかし、ほとんどの学術雑誌には紙面に制限があります。教育心理学研究にも
> 制限があります。本論文は、ISI(対人ストレスコーピング尺度)の信頼性と妥
> 当性の検証したところで、紙面がつきてしまいました。従って、ISIを使用して
> の、新たな研究結果は報告することができませんでした。限られた紙面で、いか
> に研究を報告するかというのは研究者の能力によるところだと思いますが、私
> は、ISIの信頼性と妥当性を検証するだけで、紙面を使い切ってしまいました。

 これも上記の立場の違いをよく示していると思います。
私なら、「ISIを使用しての研究結果」を先に報告し、
ISIの信頼性・妥当性の検証結果は紀要などに掲載します。

> それでも、まだ、ISIの信頼性と妥当性の検証は十分であるとは考えていませ
> ん。私は信頼性と妥当性の検証が不十分な手続きや尺度を使用した研究をするこ
> とに抵抗を感じます。例え、新しい発見が確認されようとも、その手続きに問題
> があったのでは、せっかくの発見も無意味であると思います。だからこそ、本論
> 文はISIの信頼性と妥当性の検証で終わってしまったのです。信頼性と妥当性に
> 関する記述部分を短縮し、十分な論議のないまま、ISIを使用した新たな発見を
> 報告した研究論文として、発表したくなかったのです。

 ISIの信頼性・妥当性に自信があれば、
新たな発見を堂々と発表できるのではないでしょうか?
「新たな発見」が魅力的なものなら、
おのずと他の研究者の追試を誘発して、
信頼性・妥当性が追試によって確認されるでしょう。

 一方、
上で「まだ、ISIの信頼性と妥当性の検証は十分であるとは考えていません。」
とありますし、確かに教心研論文でも妥当性は問題ありという結果ですね。
そうすると、
加藤さんの基準ではこの尺度を使用した研究はできないことになります。
ところが、
前のメールでは「この尺度が広く汎用されることを望んでいます」とあります。
 さらには、加藤さんご自身も
「現在も、ISIを使用した研究は続けております。」とも言っています。
 ISIは研究に使える尺度なんでしょうか?
それとも、まだ使えない尺度なんでしょうか?
どうもいろいろなところで自己矛盾に陥っているように思うのです。

 もう一つ、新しい尺度作りについての方法論的な疑問点を述べます。
それは、加藤さんの作ったISIの作り方が
「いわゆる尺度作りの典型的パターン」にしたがったものでしかないことへの疑問です。
「予備調査で尺度項目の候補を探し、それを用いて本調査を行い、因子分析をして、
α係数を求め、既存の尺度との相関を調べる」というおきまりのパターンです。
「特性的コーピング」や「対人関係ストレス」に的を絞った項目選択をしたことが
加藤さんの工夫した点だと思いますが、
この程度の工夫で
「既に数百も作られているという自己報告式コーピング尺度」よりも
優れたものがすぐにできるものなのでしょうか?
 「従来の尺度よりも信頼性係数が高かった」としても、
信頼性係数の信頼性自体があやしいですよね。
(加藤さんの論文にはCOPEの信頼性係数が.45から.92までの幅があることが書かれて
います。)

 と考えてくると、やっぱり結論としては、
「尺度作りはもういいから、尺度を使った中身のある研究を期待したい。」
ということになってしまうわけです。

 お返事お待ちしています。
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