KRから相良順子さん@お茶の水大学へのお返事(2000/10/24)

Date: Tue, 24 Oct 2000 09:37:05 +0900
To: "相良順子" ,kazmori@gipwc.shinshu-u.ac.jp
From: kazmori@gipwc.shinshu-u.ac.jp (守 一雄)
Subject: Re: KRのコメントへの返事

相良さま:守@KRです。

At 4:42 PM 00.10.20, 相良順子 wrote:
> 守 一雄先生
>
>  「児童期の性役割態度の発達―柔軟性の観点からー」へのコメントありがとうござ
> います。
> お返事が遅れてしまいまして申し訳ありません。
>
 批判ばかりのコメントにお返事がいただけて嬉しく思います。

> 先生の主な意見は、人数に対してわずかな得点の差をもって
> ”学年が上がるにつれ柔軟性が高まる”というのは言い過ぎではないか、
> というものでした。
>  Figure1(「感情的態度の柔軟性の発達的変化」というタイトルは、
> 「認知的態度の柔軟性の発達的変化」の間違いです)の職業の柔軟性、家庭内の柔軟
> 性について
> SDは1年から3年まで0.20、0.19、0.27、家庭内の柔軟性は、0.26、0.31、0.31です。
> 1学年の人数を約180名とすると1項目あたり0.04〜0.06程の平均値の差があれば有
> 意となります。
> 問題は、その差をどう考えるか、という点だと思います。
>  得点の差に意味があるかという点は、客観的な判断がむずかしい問題だと思います。

 客観的な指標の一つとして、
検定力を考慮する方法があります。
「差がない」という帰無仮説を確率によって棄却する統計的検定法では、
被験者数を増やして検定力をどんどん上げていけば、
原理的にはどんなわずかな差でも有意差として検出することができます。
 そこでまず、
「どの程度の差を検出することが研究の目的なのか」を決めておき、
その差を検出するにはどの程度の検定力が必要かを調べ、
その検定力を得るためには被験者は何人必要か
というような研究計画を取ることにすれば、
微少な差を「有意差」としてしまうことはなくなると思います。

> たとえば、平均値だけではわかりませんが、「職業的態度」得点の3点以上の子ども
> の数が、14名、32名、52名と学年が上がるにつれ増加していることは、私は十分意味
> があると思います。
 
 『KR』では被験者数が多いことに加えて、
質問項目数が少ないことも問題点としました。
これくらいの質問数ならば、むしろそれぞれの質問項目ごとに
「どの項目が男女どちらでもいいと考えられるようになるのか」
を調べる方がいいと思います。
 読者としてもそちらの方が興味があります。
「3点以上の子どもの数が14名、32名、52名と学年が上がるにつれ増加」
という結果もぜひ論文に示してもらいたかったし、
さらには、どの項目で加点されるようになるのかも知りたいところです。
 たとえば、「トラック運転手が女でもいい」となっていくことと、
「ウエイトレスが男でもいい」となっていくこととは意味が違います。
相良さんの分析方法ではこうした差も見えなくなってしまいます。

> 「感情的態度」についても同じです。
> なお、4件法の中身は、「好きでない」、「あまり好きで無い」「好き」、「大好き」
> です。
>
 『KR』では、
KR>「好きでない」から「大好き」までの4件法を使ったとあるが、
KR>間の2段階が明示されていない。
KR>「どちらでもない」「好き」だったとすると、
KR>Figure 2の一番高得点の6年生女子でも6項目4件法の合計が12点ということは
、KR>やっと「どちらでもない(2点)」に届いたにすぎない。
KR>Levyら(1995)の
KR>「性にふさわしくない行動をすることは年齢に関係なく否定的に捉えられる」
KR>という結果は、ここでも再現されたと考えるべきである。
と書きました。
 2段階目が「どちらでもない」(中立)ではなく、
「あまり好きでない」(否定的)だったとすると、
やはり、相良さんの結果でも
「年齢(学年)に関係なく、否定的に捉えられていた」ことになりますね。
 ここも、「好き」か「好きでない」かというカテゴリカルな尺度を
安易に数字に置き換えたために大事なところを見失ったんだと思います。

>  ただ、職業の柔軟性は家庭内役割と比べると、得点が低い方に片寄っていること、
> 女子は得点が単純に増加しているわけではないことから、
> 職業の柔軟性と家庭内の柔軟性を一緒にして
> 「職業、家庭内の役割に対して学年が上がるにつれ柔軟性が高まる」という表現は
> 適切ではなかったかもしれません。
>
 ここも、6項目程度の少ない質問項目で
「柔軟性」という概念を代表させてしまったことが
まずかったんだと思います。
因子分析や回帰分析よりも、
生のデータを中心に項目ごとの分析をしていただきたかったところです。

 次回の研究に期待しています。
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