初級用ピアノテキストの研究


 それぞれのテキストには、それなりの編集方針があり、その限りにおいては他のテキストにはない特徴があります。そして、一般的にその特徴が、そのテキストの長所でもあるわけです。しかし、とても残念なことですが、どのテキストもその特徴の裏には、往々にして無視できない多くの欠点があるのが、実状です。ですから、これらのテキストを使う先生方は、長所にばかり目を向けて、お気に入りのテキストを信頼しきってしまうのではなく、そのテキストの持っている問題点もよく知った上で、何らかの方法でその問題点を補うように工夫しつつ、バランスのとれた指導をすることが大切だと思います。

 この頃は、バイエルはもう古い教則本だということが、謳い文句になっているようです。指導内容の体系的な配列という点を一つとっても、バイエルにはそのような配慮が大変に欠けています。その限りにおいては、確かにバイエルは古い時代の教則本と批判されても仕方がない面があります。

 しかし、それでは現代の新しいテキストは、その点万全の配慮で書かれているかといいますと、実はこちらもかなりずさんな計画のもとに書かれたようなところが、多々見受けられます。今回の私の研究では「グローバーピアノ教本」シリーズを取り上げてみましたが、その「総合音楽教育」の新しい理念と、多くの現代的な感覚の曲、ポピュラー音楽風な曲の導入による、新しいセンスに満ちたテキストといった一面の裏側には、調の合理的な配列とそれに習熟するための学習曲の用意、あるいは音階の導入とその活用といった観点からは、かなり無計画でいい加減な編集がなされていることが分かりました。

 その意味から、ただ流行語のように「バイエルはもう古い」という言葉に踊らされて、無批判に短絡的に新しいテキストへ飛びつくのは、如何なものかと思います。バイエルは時代的にいって、確かに古いテキストには違いありません。しかし、下巻の中には、今でも多くの子どもたちの感情を高ぶらせることのできる、明快で躍動感あふれた曲が、たくさんあると思います。それらの曲の多くは、グローバーの単純な繰り返しで陳腐なタイプの曲に比べれば、はるかに生命力がみなぎっていて、今でも新鮮に聞こえます。

 ですから、いいテキストを考えるとき大切なことは、決して古い新しいの問題ではないと思います。大事なことは、冒頭にも書きましたように、各テキストにはそれぞれ問題があるのですから、その問題が具体的にどこにあるのかをよく知って、より問題の少ないテキストを選ぶこと。それでも避けられない問題に関しては、その欠点を補うことのできる他のテキストも活用しながら、万全の指導体制を整えることではないかと思います。

 そこで、皆さんの今後のご指導の参考にしていただければと考えて、私のささやかな研究の一端をご報告させていただくことにしました。もちろん、テキストを研究するには、私の方法ばかりでなく他にいくつもの視点があることと思いますので、違った見方の研究があってもいいと思います。その意味から、別の先生が全く異なった角度からの研究結果を報告されるのも、大いに参考になるのではないかと思います。そのような報告が、いろいろなホームページ上で報告されることを期待しています。

《後日追記》
 私のピアノテキスト研究には、才能教育に関する研究もありました。ただ、その内容に関しては、当初計画していた内容の半ばまで書き進んだものにすぎませんでした。それでも皆さんの参考になる部分が多々あると思って、あえて発表させていただきました。残りの分については、いずれ時間がとれるようになってまとめることができた時点で、発表させていただくつもりでおりました。

 しかし、残念ながら私の多忙の度合いは悪化するばかりで、全く時間がとれないでいるのが実情です。このままでは、自分が計画していた全体像の半分が欠けたまま公開された状態を続けなければなりません。そのような状態の論文は、文字通り不完全ですし、私の意図するところを十分に伝えることができないままに、お読みいただくことになってしまいます。それが誤解を生むことにもなりかねません。そのようなことを考慮して、今回当分の間、この論文のタイトルとリンクを削除することにいたしました。この論文の続きを期待するメールもいただきました。心苦しい限りですが、どうぞ事情をお汲みいただきご了承願いたいと思います。(2004/12/15)
「グローバー・ピアノ教本(音友)」の研究
「新版こどものバイエル・下巻(全音)」の研究
ピアノテキストの加線学習プログラム研究
バスティン・ピアノベイシックスの調学習プログラム研究
トンプソン:「現代ピアノ教本」の研究

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