第5巻第3号             1999/8/1
KRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKR

KR

Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

KRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKR
不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次


【『教心研』第47巻第2号掲載論文批評】

(その1)

◎倉盛美穂子:
児童の話し合い過程の分析
--児童の主張性・認知的共感性が話し合いの内容・結果に与える影響--
小学校5年生410名を主張性・認知的共感性それぞれの高低を考慮した4群に分けた後に、道徳性の発達段階が下位の子ども46人を被験児に選び、それぞれ上位の子どもとペアリングした。こうしたペアで道徳性判断課題について話し合いをさせたとき、話し合いをすることや被験児の主張性・認知的共感性が道徳レベルの向上にどう影響するかを調べた研究である。話し合いを通して、被験児はペアとなったパートナーより課題成績が向上することが確認されたが、被験児の主張性・認知的共感性がともに低い場合には他の被験児に比べてその伸びが有意に低いことがわかった。好論文であるが、もっと図を使ってわかりやすく書くことを心がけてほしい。また、標題はちょっと認知心理学っぽい内容を読者に予想させる。副題をそのまま標題にしたほうが良かったと思う。
○佐藤 徳:
自己表象の複雑性が抑鬱及びライフイベントに対する情緒反応に及ぼす緩衝効果について
(次号掲載)
●長尾 博:
青年期の自我発達上の危機状態に影響を及ぼす要因
各種の質問紙を中学生から大学生までに実施し、標題のような要因を探ろうとした2研究からなるが、データの取り方が行き当たりばったりで、結果の解釈の仕方も恣意的である。多くの尺度間の相関を調べて、得られた有意な相関を適当に拾い出して都合のよい解釈をしている。Table 5「高校生女子」の「life change units得点」欄の標準偏回帰係数.43はマイナスの記号が足りないのでは?
○杉澤武俊:
教育心理学研究における統計的検定の検定力
(次号掲載)
◎伊藤順子・丸山(山本)愛子・山崎晃:
幼児の自己制御認知タイプと向社会的行動との関連
幼稚園児33名を被験児に、自己主張と自己抑制について自分自身でどれだけ認知しているかを測定し、向社会的行動との関連性を調べた研究である。自己主張と自己抑制とは関連がなく、両方とも高い「両高型」一方のみ高い「主張型」「抑制型」、両方とも低い「両低型」の4タイプが存在することがわかり、「両高型」の子どもに向社会的行動がよく見られることがわかった。図の使い方も適切で分かりやすい好論文である。ただ、知能とか一般的発達段階とかの第3の要因が自己制御と向社会的行動の両方に影響を与えている可能性はないのだろうか?
○柏木恵子・永久ひさ子:
女性における子どもの価値
--今、なぜ子を産むか--
(次号掲載)
○榎本淳子:
青年期における友人との活動と友人に対する感情の発達的変化
中学生から大学生までの908名について、青年期の友人関係の様子を活動的側面と感情的側面から質問紙調査した研究である。因子分析や重回帰分析が使われてはいるが、もう一工夫ないと役人が書いた「青少年白書」と同レベルになってしまう。次の研究に期待したい。
○杉浦義典:
心配の問題解決志向性と制御困難性の関連
(次号掲載)
◎岡本直子:
親密な他者の存在と成功恐怖の関係について
「恋人や親友が競争相手となる状況での成功」と「親密な他者が競争相手にならない状況での成功」について、奨学金獲得の仮想状況を用いて、質問紙で男女大学生320名に、(1)成功した主人公の心境(2)周囲の同性学生の反応(3)周囲の異性学生の反応などを回答させた研究。回答内容に「成功に対して否定的と思われる表現が1つでも見られた場合に、成功恐怖あり」と判定した。その結果、男性の場合には「恋人・親友」とも「成功恐怖」が現れやすいのに対し、女性の場合には全体に「成功恐怖」が現れやすく「恋人」に対しては特に著しいことがわかった。また、女性の成功恐怖がもっぱら対人的懸念によるものであるのに対し、男性の場合には「成功に伴う過度の期待に対する重荷感」があることもわかった。質問紙に頼った方法的限界には著者も気づいているようであるが、次はぜひ方法的限界を超える研究を期待したい。
○小林春美:
共同注意手がかりと場所知識手がかりが語の意味の推測における相互排他性利用において果たす役割
(次号掲載)
●長峰伸治:
青年の対人葛藤場面における交渉過程に関する研究
--対人交渉方略モデルを用いた父子・母子・友人関係での検討--
なんともわかりにくい論文である。「Selmanら(1986)による対人交渉方略(INS)モデルを用いた青年の対人葛藤場面における交渉過程に関する研究」であるらしいが、調べられたのはINSモデルに関わるごく一部である。にもかかわらず、INSモデルの余計な説明や枝葉の用語の使用のために、研究内容が埋没してわかりにくくなっているのである。1992年に書かれた修士論文を1996年に紀要論文にまとめ、さらにそれを分析し直したものなのだから、もう少しすっきりとわかりやすく記述できないものだろうか。
○天貝由美子:
一般高校生と非行少年の信頼性に影響を及ぼす経験要因
(次号掲載)
●田邊敏明・堂野佐俊:
大学生におけるネガティブストレスタイプと対処行動の関連
--性格類型およびストレス認知・反応を通した分析--
大学生がどのようなストレスを体験しどう対処しているかを調べた「研究1」と、どのような性格・ストレス認知・反応がそれに介在しているかを調べようとした「研究2」からなるが、「研究2」は目的をまったく達せず報告の価値のないものになってしまった。いくつかの尺度を組み合わせて用いてはみたもののそれらの尺度間に有機的な関連がなく、結果もデータの羅列に終始している。『教心研』論文に多く見られることであるが、この論文や上記の長尾論文には「記述にメリハリがない」という共通の問題点がある。重要度に関係なく、やったことすべてを書いているために、「目的・方法・結果」の流れがかき消されてしまっているのである。もっともこれは「確信犯」なのかもしれない。余計なことを省いて、目的と方法と結果だけをすっきりと示すと、「重要な発見は何もえられなかったこと」があからさまになりすぎてしまうのであろう。
○岡本清孝・上地安昭:
第二の個体化の過程からみた親子関係および友人関係
(次号掲載)