長尾さん@活水女子大学からのお手紙その3(1999.10.6)

長尾さん@活水女子大学からのお手紙その3(1999.10.6)

拝啓

 毎回のコメント有り難く思います。貴方のもつ研究観
は何も価値がないとは思っていません。互いのこれまでの生
き方が違うばかりに研究観のズレ、考え方のズレがあるだ
けだと思います。大かたの実験心理の方々は、貴方のような考
えをおもちということは今回、わかり、確認し、自分の勉強にな
っています。

KRへのコメント

(1)標準偏回帰係数の件、確認しましたが、まちがいあり      
ませんでした。幼児期に親イメージが不安定であれば      
あるほど青年期の危機は高いこと理屈上もおかしく      
ないと思いますが・・・

(2)研究1と研究2の対象選択、デザインのくみ方について  
理論上は、貴方のとおりです。しかし、尺度の数が多く      
現実的なものをふまえて、このような収集のデザインと      
なったわけです。いっていることは、貴方の方が正しいのです。

(3)解釈の恣意的という御指摘について  
解釈は、研究目的(何をねらった研究か)に即して      
行うもので、この場合、研究目的と幼児期の親イメージ      
の具体性がそれほど重要ではないから、恣意的にカット
しているのです。恣意的という意味について、互いに
とらえていることがちがうようです。私は、恣意的とは気ま
ぐれ、その場しのぎととりましたが、貴方は、主観的という
意味でみているようです。

(4)パイロットスタディ(探索的研究)は、学会誌に
のせるべきでないという点について  
学会誌では、資料と原著に分けられ、パイロットス      
タディは資料でよいというふくみの内容が書かれて      
います。価値としては、劣るかもしれませんが、第一
段階で論文にし、このようなコメントをしてもらう意
味から、論文化してもよいのではと思います。
貴方のいう厳しさがあれば、学会誌の論文のほ
とんどがのせるべきでないものになってしまいます。
問題は、次へ続く研究をしているかです。

(5)今回の研究結果が役立たないこと、及び研究
の慎重さについて  
それは、読まれた研究者によると思います。守先生は      
役立たないと判断されましたが、現在まで実証的に      
どの要因がもっとも影響を及ぼしているか明らかに
しなかったわけですから、一歩進んで自我の強さや
幼児期の親子関係を基盤とする社会化の発達が
重要であることがわかっただけでも役立つと思います。
実際に、臨床では、無意識のコンプレックスの意識化、
家族療法、認知療法、コラージュ療法と百花僚乱
で何がもっとも大切かを流派によってまちまちに論議
しているわけですから、実証的(貴方にいわせれば実証
的ではないというかも)に挑戦しただけでも理解し、
価値をおいて下さい。

また、慎重さについては、慎重にこしたことはないでしょう。
しかし、研究者は、一生の間に何本、論文を書くのでしょう。
私たちのできる研究はしれています。すぐれた着想の研究
は、すでに20代でなされるはずです。慎重さも大切です
が、自分がこの世で貢献できる研究を少しでもやれば、
あとは次の世代がうけつぎ慎重さの確認をしてくれると
信じたいです。私がいっているのは、実験心理の方々は、その
考え方に柔軟性や社会性をもつべきではないかといっ
たまでです。

(6)余裕をなくしたら研究者も世も末について  
前回のべたように、実際に世も末になっているわけで、      
カントやデカルトのように余裕をもって人生、心を考える      
ものではなく、心理学は社会変動、時代変動ととも
に成立しています。慎重さやかたくなな研究観(行動科
学にもとづく)も大切ですが、知性の研究や心なき心
理学の探究に今、いきづまりがあるのではない
かと、私はみています。そうではない、自分は、今の考えを
全うしたいのもいいのですが、今の研究は、一体、何の意味
をもつか考えてみることも自分の道を捜すことによいものと
思っています。

勝手なことばかり、私の主観ばかりで申し訳
ありません。このへんで打ちどめにしていただけ
ませんか。勝負としてみれば、当然、貴方の
勝ちです。勝ち負けではありませんが、私なり
に勉強させられました。
 お元気で御活躍下さい。

                         敬具


いただいたお手紙を守がテキスト入力しました。(1999.12.7)