KRから長尾さん@活水女子大学へのお答え(1999.9.14)

KRから長尾さん@活水女子大学へのお答え(1999.9.14)

拝復

 「KR」へのコメントありがとうございました。日本心理学会への出席などで時間がとれず、お返事遅くなりました。

長尾さんの防衛的コメント      
>1)データーの取り方は行き当たりばったりと書か      
>れているが、ライターとストロツカの危機理論の      
>要因を基盤に要因が多いので2回にわけて      
>データーをとりました。
KRからの回答      
「研究1」では大半が「私立学校」で「女子校」      
「研究2」では「公立学校」だけで「中高のみ」と      
「要因が多いので2回にわけて」というような      
計画的なデータ収集には思えません。

長尾さんの防衛的コメント      
>2)結果の解釈が恣意であると書かれているが、      
>他の解釈の方法があれば教えていただきたい。      
>3)Table 5「高校生女子」のlife change units得点      
>欄の標準偏回帰係数.43は間違いではあり      
>ません。幼児期の親子関係が、不安定ととった場合、      
>最近1年間でライフイベントが高くあった者が、青年期      
>の危機状態(親子関係の葛藤やアイデンティティ      
>の葛藤)が高いことを意味します。
KRからの回答      
Table5では、「幼児期の親イメージ得点」が「支持」「不安定」「支配」の場合に分けて                  
その他の予測変数の標準偏回帰係数を比較していますが、      
上記の.43が-.43の間違いでないとすると、
「支持」や「支配」の場合は-.37、-.37なのに、「不安定」の場合だけが+.43となり、      
この部分が最も著しい違いが見られたところです。      
にもかかわらず、この部分への「考察」がまったくないのは      
著者が「恣意的に考察している」ことの紛れもない証拠です。

長尾さんの防衛的コメント      
>4)「記述にメリハリがない」という御指摘のこと、      
>この研究は、危機状態に影響を及ぼす      
>要因をさぐったパイロットスタディなので、読者にとっては      
>メリハリがないかもしれない。
KRからの回答      
長尾さんはもう中堅あるいはベテランの研究者ですので、                  
ちょっときついことを申しあげますが、      
パイロットスタディを学会誌に投稿するのではなく、      
要因が明らかになった時点で投稿していただきたいと思います。

***

長尾さんの挑戦的コメント      
>1)KR全体を読んで、読者(記述者)のできあ      
>がった研究観(価値観)を感じた。それは、自分      
>の育てられた研究観からきているようだ。きっと読者      
>(記述者)は若い人たちと思う。何がよい研究かの      
>観点をもう少し考え返すことも次の展開ができる      
>と思う。とくに実験研究を評価し、調査研究を      
>あまり評価していないようにとらえた。
KRからの回答      
「読者(記述者)」=KRのコメント執筆者、を複数ととらえているようですが、      
守が1人でコメントを書いています。      
守が個人で批評しているものですから、      
ハッキリとした研究観を持ち、それを前面に出しているつもりです。      
「実験研究を評価し、調査研究をあまり評価していない」というのは      
たしかに結果的にそうなっていることは事実です。

長尾さんの挑戦的コメント      
>2)たしかに実験研究のほうが、わかりやすく      
>クリヤーな結果が出るが、仮説(問題)そのものが      
>軽いことも考えたほうがよいのでは。調査研究でも      
>扱っている内容が、実践的、役立つことが明確であれ      
>ばその価値はあると思う。「青少年白書」を価値がない      
>ように書いているが、事実を整理しているものとして      
>価値あるものと思える。
KRからの回答      
「調査研究」でも「わかりやすくクリヤーな結果」は出せます。      
結果がわかりにくいのは、研究のやり方がまずいからです。      
「青少年白書」の価値を認めていないわけではありません。      
大量のデータに基づいて事実を整理したものとして高い価値があります。      
しかし、「青少年白書」が「研究」と言えるかどうかというと疑問です。      
お役人にもできることを教育心理学者がやっても仕方がないと思うのです。      
しかも、榎本論文は「白書」のように大量のデータに基づいているわけでもありません。

***

長尾さんの最後のコメント      
>私の研究は、メリハリがないと書かれているが、      
>青年期の迷い、つまづきは、その個人のもつ自我      
>の強さ(心の強さ)の程度が何よりも大きく左右      
>しており、発達的迷い(親子関係の独立と依存、      
>自分の確立)は、幼い頃よりの社会化の完成の      
>程度が、また不適応に陥るかどうかは、ライフイ      
>ベントがきっかけとなり自我の強さの程度が左右      
>していることが明らかになったということです。これは、      
>明日からの教育や臨床に役立つと思います。
KRからの回答      
この程度の曖昧な研究結果を      
「明日からの教育や臨床に役立て」てしまっていいのでしょうか?

長尾さんの研究観      
>莫大な予算をつかって研究をしている大学もありますが、      
>私の研究観は、少しでも実践に役立つものでなけ      
>ればならないし、研究者という形をつくるための研究は価値が      
>ない(自己愛的研究)と思います。
KRからの回答      
研究の価値は予算の多寡で決まるものではなく、      
実践に役立つかどうかで決まるものでもないと私は考えています。      
研究の価値を決める一番の基準は「新しい発見があるかどうか」です。

 さらなる反論をお待ちしています。
   今後もどうぞ「KR」をご支援下さい。

                     敬具