長尾さん@活水女子大学からのお手紙その2(1999.9.24)
長尾さん@活水女子大学からのお手紙その2(1999.9.24)
拝啓
時下、益々御健勝のことと存じます。先日は、「KR」からの回答、有り難とうございました。直接、お会いしてお話しした方が互いの勉強になることを実感しました。一応、再びコメントさせていただきます。
- (1)対象が統一していない点があり、計画的とは思えないというコメントに対して
- 先行研究で学校差、性差、学年差を危機
- 状況尺度で明らかにしていますので、それにもと
- づいて対象選出をしました。
- ただ、調査は、実際上、長崎県の場合、容易に
- はとらせてくれない実状でこれからもどんな対
- 象もデーターをとれるということはできないようです。
- (2)幼児期の親イメージ得点の標準偏回帰係数に支持、不安定、支配に違いがあるにもかかわらず考察していない
- 研究結果の全てを考察するわけにはいかな
- いと思います。問題は、その部分が研究上ど
- れだけ重要かです。理論上、支持があれば
- あるほど、また安定していればいるほど、
- 非支配的であればあるほど、青年期の危機
- は弱いことは当然と思います。とくに枚数の
- 都合上、とりあげませんでした。
- (3)パイロットスタディを学会誌にとりあげるべきでないというコメント
- 私は、このような研究は、始めてまだ10年ば
- かりで中堅でもベテランでもないと思っています。
- また、パイロットスタディでも要因を捜すだけ
- でも価値はあると思えば論文にすべきだと
- 思っています。
- (4)実験研究と調査研究の差について
- 私自身、臨床を25年ぐらいやっていますが、
- 実験をしたことがまだ2~3回ぐらいで
- 実験研究はアマチュアです。ですから、よくわかり
- ません。ただKRの記述から調査は劣っているということを感じました。
- (5)青年白書の研究価値について
- 青年白書は、お役人が書いているが、単なる
- 役人ではなく、一応、教育心理学を学んでい
- る人が書いている。しかし、仮説や理論はない。
- その点で研究ではなく、調査そのものと思って
- います。その中に研究に役立つデーターが入って
- いると思います。
- (6)この程度のあいまいな結果は、明日から役立てるのか
- 逆にどの程度の研究が役立てているのか
- をお聞きしたい。約100年間、行動科学
- の歴史があり、実験によって行動の法則を
- 確立しようと試みているが、今日にいたっても
- 行動法則の辞典もできていない。
- 行動科学は、この世にどの程度役立っている
- のでしょうか。一方、臨床心理学が、世の中に役立っ
- ているとはいい切れない。事例研究ばかりで
- 人の心の普遍的特徴を解明しようとしていない。
- 個別の関わりのみだ。私の考えは、調査によって
- 少しでも普遍的特徴が明らかになれば、それ
- を現場に参考にしてもらうことに気をおい
- ている。実験による仮説の検証によってそれ
- ができてもよいと思う。実験心理の方は、自分
- の世界に閉じこもってはいないか、又、慎重す
- ぎないかとも思う。この程度とはまさしくこの
- 程度でこれぐらいが現実の限界ということも
- わきまえて研究すべきだと思う。
- (7)研究は予算によって決まるものではなく、守先生の研究観「新しい発見」について
- 私の大学では、私立でほとんど教養科目を
- 担当し、研究費というものは少ない。
- しかし、国立、公立の専門科目を担当して
- いる先生は研究費も多くあってうらやましい。
- お金の使い方に役立つよう願っている。
- 守先生の研究観は価値あることと思います。
- ただ、それが一番とは私は思いません。
- 仮説のオリジナリティ、新奇性を検証すること
- はすばらしいものですが、新たな発見とは研究
- でなくても日常生活の経験で人々は行ってい
- ます。正しくは、新たな発見を科学的(行動
- 科学的方法によって)に検証することと思い
- ます。これは、従来から研究者としての余裕
- ある態度ですが、今日、激動の時期を迎え、
- 研究者にこの余裕が今、あるのでしょうか。
以上、勝手なことばかり申しあげて失礼致しました。また、教えていただく点があれば御遠慮なく御連絡下さい。FAX(0958-30-****)でもかまいません。守先生は、岩波で本も書いておられ、認知科学では有名な先生ですので、私のような者がこのような反論をするのも恐縮です。
敬具
守註:いただいたお手紙を守がテキスト入力したものです。原文での下線は強調文字に、またFAX番号は伏せ字にしました。