第4巻第5号             1998/11/1
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Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次


【『教心研』第46巻第3号掲載論文批評】

(その1)

○伊藤裕子:
高校生のジェンダーをめぐる意識
女子高校生747名・男子高校生726名に、「性差観」を中心に質問紙調査を行った研究の第2報。第1報(伊藤,1997)では、重回帰分析を用いたが、ここでは、異性意識・性役割指向性・性差の自覚経験・性差の原因帰属を説明変数にして数量化T類による分析を行い、「性差観」がどう形成されるのかを調べた。男女とも、性格や学力などについて小さいときから性差を意識していた者ほど、性差観が強いことがわかった。また、第1報と同様に、女子では身体的な性差を早い時期から意識することが性差観に影響を与え、男子では「共学か別学か」が性差観に影響を与えることが再確認された。労作。データはたっぷり貯めてあって「第3報」もありそうである。
○豊田秀樹・村石幸正:
双生児と一般児による遺伝因子分析−Y・G性格検査への適用−
(次号掲載)
◎田中美由紀・山崎瑞紀・柳井晴夫・鈴木規夫: 
個人の資質と大学の専門分野での適応に関する因 果モデルの検討
大学生2201名を対象に、「表現力」「自己統制力」などの個人の資質と、「能力発揮」「生き方満足度」などの適合度との関連を共分散構造分析を用いて検討した研究。a)能力発揮という意味での適応には「表現力・発想力」が重要であること、b)興味・性格の適合には「自己統制力」を備えていることが望ましいこと、c)興味・性格の適合は「生き方の満足感」を導くことが明らかとなった。大学入試センターのプロジェクト研究によって収集されたデータを再分析したものであるが、本格的な研究で、分析方法も納得がいくもので、研究結果も興味深い。大学入試センターにはこうした研究をもっとどんどんやってもらいたいものである。
○上原泉:
再認が可能になる時期とエピソード報 告開始時期の関係 −縦断的調査による事例報告−
(次号掲載)
○小塩真司:
青年の自己愛傾向と自尊感情、友人 関係のあり方との関連
「自己愛人格目録(NPI)」と「自尊感情尺度(SE-I)」と「友人関係尺度」を大学生・専門学校生265名に実施して、各尺度間の相関を調べた研究。友人関係尺度の結果は二次因子分析によって、友人関係が「広いか狭いか」(第T二次因子)と「浅いか深いか」(第U二次因子)の2つの因子にまとめられた。「友人関係がその広がりと深まりの2つの直交する次元で説明できる」というこの結果は一見妥当なもののようであるが、抽出された2つの因子に無理矢理そうした解釈をあてはめたように見える。一次因子分析の「F2積極的楽しさ」「F4集団同調」「F5自己開示的関わり」因子が第U二次因子にまとめられているが、これを「友人関係の広さ」因子とするのは強引に思える。特に、F5は質問項目から見ても、「広さ」よりも「深さ」に関わるものである。第T二次因子はむしろ「能動的・積極的関わり」であり、第U二次因子は「配慮」ではないだろうか。「友人関係のあり方の4型(FIGURE 1)」も「配慮しつつも積極的:理想的友人関係」「配慮なしに積極的:脳天気」「配慮しすぎで消極的:引っ込み思案」「配慮も積極性もなし:一匹狼」とする方がいいと思う。
○中谷素之:
教室における児童の社会的責任目標 と学習行動、学業達成の関連
(次号掲載)
○相良順子:
幼児・児童のジェンダー間勢力の知 覚
「パパとママとどっちが権力を握っているか」を子どもがどう認知しているかを6歳8歳10歳の子どもたちを被験者に調べた研究。Emmerich(1961)に倣って、「これあげますよ」という発言が父母の間のどちらの発言かを子どもに判断させるという方法が用いられた。その結果、「勢力を示す」発言の話者を6歳では「母親」とすることが多く、年齢が上がるにつれて「父親」選択が増え、10歳ではほぼ同等となることがわかった。Emmerich(1961)では「父親」優位だったので、日本が特別に母親優位なのか、と思ったが、使われた発言が「より女性的だった」という実験方法の欠陥によるものだと思う。Emmerich(1961)では勢力側の発言「You can have it.」と劣位側の発言「I want it.」の両方が用意されていたのに対し、この研究では勢力を示す側だけが使われていたために、言葉遣いの「女性らしさ」に子どもたちが反応してしまった可能性が高いと思う。
○冷水來生・冷水啓子:
日本手話の動作成分に内 在する意味について
(次号掲載)
●康智善:
刺激−反応間の概念的距離の次元から みた連想スタイルの分析 −非制限教示下における言語連想検査とロールシ ャッハ・テストの関連から−
大学生44名に言語連想テストとロールシャッハ・テストを実施し、その関連性を調べようとした研究。引用文献のほとんどが1960年代以前であり、30年前の論文のような印象を受ける。臨床心理学者による研究とはいえ、被験者は正常成人なのであるから、認知心理学における豊富な言語連想研究や連想記憶研究がほとんど無視されているのは残念である。言語連想反応を8つのカテゴリーに分類し、そのカテゴリーごとに反応頻度の上位群と下位群とに分けてから、それぞれの上位群下位群でロールシャッハ・テストの23ほどの指標の現れ方に差があるかどうかを対比較するという分析方法にも問題がある。脈絡がないままに有意差があったとされているだけで、結局何がわかったのかがさっぱりわからない研究になってしまっている。その他、ロールシャッハ・テストの23の指標が記号だけで、意味がまったく説明されていないのは、学術誌だとしても読者にあまりに不親切なのではないだろうか。
○生月誠:
バイオフィードバック情報の不安制御 に及ぼす効果 −不安症状を持つ被験者を対象にして−
(次号掲載)
○小高恵:
青年期後期における青年の親への態 度・行動についての因子分析的研究
男女大学生約800名に父母それぞれに対する態度や行動を質問紙で探索的に調べた研究。一次因子分析で5つの因子が抽出され、さらに二次因子分析によって「親への親和志向の因子」と「親からの客観的独立志向の因子」の2つ二次因子にまとめられた。これら2因子からなる2次元平面の4象限として「密着した関係:+親和−独立」「葛藤的な関係:−親和−独立」「離反的な関係:−親和+独立」「対等な関係:+親和+独立」を考えると、これは親子関係の発達の過程とよく対応していることがわかった。(分析手続きにおいて、因子分析の解を次々に変換していく手法が用いられているのだが、どなたかこうした手法についてのやさしい解説をしていただけませんか。)
○廣瀬英子:
進路に関する自己効力研究の発展と 課題
(次号掲載)
日本教育心理学会のホームページ(http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/jaep/)ができました。】