豊田さん@立教大学の2次因子分析についてのご意見(1998/11/19)

豊田さん@立教大学の2次因子分析についてのご意見(1998/11/19)

Date: Thu, 19 Nov 1998 18:51:26 +0900
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Subject: [fpr 1293] 2次因子分析
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豊田@立教大学です

ちょっと長いメールになりますので,雑誌「教育心理学研究」の論文に興味
の無い方は読み飛ばして下さい.KRに転載していただいても結構です.

雑誌「教育心理学研究」の最新号第46巻第3号に
著者:小塩真司
題名:青年の自己愛傾向と自尊感情、友人関係のあり方との関連
という論文があります.この論文を読んで考えたことを書きます.守さんの

http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/kr0405.html

を引用して紹介すると以下のような論文です.
「「自己愛人格目録(NPI)」と「自尊感情尺度(SE-I)」と「友人関係尺度」を
大学生・専門学校生265名に実施して、各尺度間の相関を調べた研究。友人関
係尺度の結果は二次因子分析によって、友人関係が「広いか狭いか」(第T
二次因子)と「浅いか深いか」(第U二次因子)の2つの因子にまとめられた
。「友人関係がその広がりと深まりの2つの直交する次元で説明できる」とい
うこの結果は一見妥当なもののようであるが、抽出された2つの因子に無理矢
理そうした解釈をあてはめたように見える。一次因子分析の「F2積極的楽しさ」
「F4集団同調」「F5自己開示的関わり」因子が第U二次因子にまとめられてい
るが、これを「友人関係の広さ」因子とするのは強引に思える。特に、F5は質
問項目から見ても、「広さ」よりも「深さ」に関わるものである。第T二次因
子はむしろ「能動的・積極的関わり」であり、第U二次因子は「配慮」ではな
いだろうか。「友人関係のあり方の4型(FIGURE 1)」も「配慮しつつも積極的
:理想的友人関係」「配慮なしに積極的:脳天気」「配慮しすぎで消極的:引
っ込み思案」「配慮も積極性もなし:一匹狼」とする方がいいと思う。
(引用ここまで)」

この論文の TABLE3 にプロマックス解の因子間相関行列として

f1 1.00
f2 0.10 1.00
f3 0.14 0.05 1.00
f4 0.08 0.25 -.01 1.00
f5 0.00 0.12 -.02 0.12 1.00

と出ています.絶対値の最大が 0.25 であり,次が 0.14 です.全体的に絶対
値が低く,比較的無相関に近い因子を抽出しています.斜交解なのに絶対値が
低いのでよけいに5つの因子は概念的には,ほとんど関連がないと解釈されま
す.ところが論文を読み進めると,著者は「5因子の因子間相関と因子内容を
見ると,5因子間の関係は均等ではなく,まとまりがあると考えられた.」と
考察しています.なぜ,上記の因子間相関でそのような解釈がなされるのだろ
う.均等とは何だろう.半ばいぶかり,半ばびっくりしながら読み進めると,
「二次因子分析と称する方法」を使ってもう一度.プロマックス解を求め(二
次因子は,ここでは FF と表し)

FF1 FF2
F1 0.10 0.72
F2 0.69 0.18
F3 -.12 0.76
F4 0.72 0.01
F5 0.57 -.23

という因子負荷行列(TABLE4)を示しています.非常にきれいな(コントラスト
のハッキリした)2因子構造です.因子間相関は

FF1 1.00
FF2 0.09 1.00

です.これをみて2度びっくりです.上記のような絶対値の小さな要素からな
る相関行列から,0.09というほぼ無相関の因子を2つ抽出して,高い因子負荷の
単純構造が得られることは,経験的にまずないからです.そう思って1次因子の
相関行列を自分で分析してみると,はたしてプロマックス解は,(最尤法と主因
子法でそれぞれ)

FF1 FF2
F1 0.07513 0.32651
F2 0.47868 0.09172
F3 -0.09280 0.44860
F4 0.51200 -0.02432
F5 0.25721 -0.07372

FF1 FF2
F1 0.04904 0.37279
F2 0.47814 0.08557
F3 -0.09270 0.39962
F4 0.51119 -0.02681
F5 0.26521 -0.08529

となります.論文に掲載されているようなはっきりした単純構造ではなく,1次
因子間相関行列からの素朴な解釈を支持する分析結果です.5つの1次因子を 2
分して考察するのは無理であると結論せざるを得ません.

計算機が発達していなかった時代には,統計モデルの簡便解というものが重宝さ
れました.パス解析を重回帰分析の繰り返しで行なうという便法も旧き慣習のな
ごりです.探索的な2次因子分析にも同様な,簡便解があります.一つは,小生が
上述したような「因子間相関行列を,もう一度因子分析する方法」です.観測変
数の相関行列が示されていないのでしかたなく,使用したのですが,これは1つ
の統計モデルに対して誤差関数を2回評価する(誤差が累積する)という意味で,
望ましくない前時代的方法です.

ところで小塩論文ではもう一歩非効率的な(無意味な)ことをしています.1回目
の因子分析を行い,因子スコアを推定し,そのスコアをもとに,もう一度因子分析
をするという手順です.誤差関数を3回評価してる.誤差の累積の悪影響は,因子ス
コアから外部基準を推定する場合などは,経験的には,比較的小さいのですが(こ
れとて数理的には気持ちが悪いですが),ここの例のように1つのデータだけを何
度も「煮たり,焼いたり,蒸したり」すると実態から離れた結論が出てきます.

ずれの方向に確証はないのですが,スコアの推定はデータの重み付き和だから,
全体的に相関の絶対値が低い場合は,結果が主成分を回転したものに近づいて
因子負荷が高めに(著者に有利な方向に)出るのではないでしょうか(2回目の
分析に,因子分析ではなく主成分分析をすると,確かに掲載された解に近づき,
この考えは,このデータに関しては支持されました).

この論文とは直接関係しないのですが...

因子や構成概念は,所詮,実在しません.思考の経済のための「夢」のようなもの
です.2次因子は「夢のまた夢」のようもので,それを探索的に見出すのは不安定
すぎます.心理学的思考(仮説の構成を)をサボリすぎているということです.直
交解と斜交解で同じ変数の分類を与えるような因子負荷行列はしばしば観測される
のですから,因子間相関行列を探索的にもう一度分析するのは(最初の因子分析で
どのような回転解を用いるかに強く依存し)安定的な結果は期待できません.探索
的な2次因子分析は(特に因子間相関行列を探索的にもう一度分析する方法は(スコ
アもとに2度目の因子分析をする方法は論外です))使用を止めるべきです.2次因
子分析は,心理学的仮説を利用し,1次因子も2次因子も数理的に識別させた状態で
確認的に(仮説検証的に)行なうべきです.解は,データを入れたり出したりダラ
ダラ誤差を累積させるのではなく(SEMのソフトなどを用いて)一気に全ての推
定値を求めるべきです.

方程式モデルが実用段階に達し,「一見高度な」モデルが利用できるようになっ
りました.そのモデルの表現力を過度に探索的に使用すると,分析者の言い訳に
利用できてしまいます.高度な夢の夢を聞かされているようで,マユツバな気が
してしまいます.高度なモデルは,データを取る前(分析する前)に分析者が,
心理学的仮説を確認的に(検証的に)表現し,データによってその仮説を鍛える
という方向で,(分析者が自分を追い込む方向で)利用すべきです.

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TOYODA Hideki Ph.D., Associate Professor, Department of Sociology
TEL +81-3-39852323 FAX +81-3-3985-2833, Rikkyo(St.Paul's)University
toyoda@rikkyo.ac.jp 3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan
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