第4巻第3号             1998/8/1
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Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次


【『教心研』第46巻第2号掲載論文批評】

(その1)

伊藤美奈子・中村健論文
中学校教師312名とカウンセラー108名に対する「学校カウンセラーの役割」についてのアンケート結果の報告論文。カウンセラーは教職歴のあるなしで2群に分けられ、「教師」群と合わせて、「教職歴ありカウンセラー」「教職歴なしカウンセラー」の3群の回答が比較検討された。結果はFigure2(p.127)に端的に表されている。論文著者たちはいろいろな有意差が検出されたことを報告しているが、3群の回答には基本的にほとんど差がなく、見るべき差としては、学校カウンセラーの「教師への援助」といった間接的な役割に対する期待に比較的大きな差が見られたことである。カウンセラーは子どもたちの相談に乗るだけでなく、「教師の相談にも乗るよ」と言っているのに、教師側は「そんなことまでしなくていいよ」と考えているようである。その他、誰しも自分の専門にしてきたことを重視したがる傾向がはっきり現れていて面白かった。この調査は文部省の進めるスクールカウンセラー派遣事業が本格化する前のものであり、そうした中で、自らの位置づけに一番近い「教職歴のあるカウンセラー」がこの制度を最も肯定的に評価しているのもそうした理由だろう。
○水間玲子論文:
(次号掲載)
岩槻恵子論文
「説明文には図表があった方がわかりやすい」という経験的によく知られた事実を確認してみた研究。編集や出版に関わる人たちは、図表の種類や誌面上の位置などの効果まで経験的に知っているはずで、そうした人たちからは「心理学者は今頃何やってんの?」と言われそう。
○酒井・山口・久野論文
(次号掲載)
山岸明子論文
3つの架空の対人葛藤場面を示して、9種類の対人交渉方略のどれを使うかを小中大学生に選択させ、方略選択の発達を調べた研究。9種類の方略を因子分析でせっかく5つに要約したのに、因子分析の結果を活用しないでデータの解釈がなされている。いったい何のために因子分析したんだ。小4・小6・中3・大の4年齢群を男女別にして8群について、9種類の方略の選択結果を表にしたTable3は、とても見にくい。どうして図にしてくれないの?とブツブツ言いつつ論文を読んで、「それでもこうした架空場面での回答は実際の行動とは違うんじゃないかな」という批判でもしてやろうと思っていたら、なんと最後の段落に、「本研究の質問紙法で測定しているものは、行動観察によって測定される実際にとられる行動とは異なる」というこの著者自身による先行研究(山岸、1997)が紹介されているではないか。ガビーン。じゃ、なんでこんな論文を書いたの?
○水野りか論文:
(次号掲載)
渡部玲二郎・佐久間達也論文
小学校5,6年生312名と、担任教師15名に対し、18の算数学習場面で「どの程度不安を感じるか」「教師からどの程度サポートしてもらいたいか(児童)」「どの程度サポートをしているか(教師)」を質問紙調査し、不安とサポートの関連を調べた研究。研究の意義は大いに認めるが、相関研究の典型的な誤解釈に陥っている。「教師のサポート得点と算数不安得点は正の関係にあり、教師のサポート量が多い児童の方がむしろ算数不安は高く、教師のサポート量が多ければ、児童の算数不安が低減するわけではないことが明らかになった。(p.187)」と結論しているけど、これは逆でしょ?「児童が不安を感じそうな場面ほど教師はサポートをたくさんするよう心がけている」というだけのこと。頭痛薬を飲む量(サポート)と頭痛(不安)とは明らかに正の相関があると思うが、このことから「頭痛薬を飲んでも頭痛が軽減するわけではない」と結論づけるのは明らかにおかしい。
○下村英雄論文:
(次号掲載)
三木和子・桜井茂男論文
小中学校の教師について研究されてきた「教師効力感」を保育場面に拡張し、「保育者効力感」尺度を作成し、保育実習の前後でこの「保育者効力感」が増すかどうかを調べた研究。被験者は保育科女子短大2年生142名。著者らは、尺度の有効性も実習後の効力感の増加も認めているが、評者の目からはどちらも不十分に見える。たとえば、実習後の効力感の増加は確かに5%水準で有意になっている。しかし、Cohenの検定力分析をやってみると、142名の被験者について対応のあるt検定をすれば、検出しようとする差がかなり小さな場合(d=.2)でも検定力はPower=.38とかなり高い。「実習後の効力感の増加」は当然予測されることなのであるから、d=.5かそれ以上を考えるべきで、そうすると検定力は.99を越えてしまう。この条件で検定を行えば有意になって当然なのである。むしろ、有意水準1%の場合でも検定力が.96もあるにもかかわらず、有意水準1%には達しなかったことから逆に考えると、「実習後にも目立った効力感の変化はない」という結論か「新しく作成された尺度の妥当性は低い」という結論の方が正しいと考えるべきである。
○崎原秀樹論文:
(次号掲載)
堀田美保論文
大学生に世間の男女の性役割期待がどうなっているかを推測させた研究であるが、いったい著者はこの研究で「先行研究にはないどんなこと」を調べたかったのだろうか?世代間の比較がなされているわけでもない。新聞などの調査結果の影響が調べられているわけでもない。特に被験者数が多いわけでもない。特に新しい分析方法を用いたわけでもない。ただただ漫然と大学生に質問紙を郵送し回答を求めただけである。この郵送代に20万円くらいかかっているはずであるが、郵送代をかけるなら、大学生の地域差を調べることだってできただろうに。見慣れない分析としては、p.224右下から「回答者の希望の男女差」と「推定差の信頼区間」との比較がなされているが、これはこれでいったい何を分析しようとしたものかわからない。「考察」にもこの部分に対応するものはない。「考察」のところに「男女間の格差情報の反復提示は、男女差というステレオタイプ的認知を強化する」可能性を危惧する記述があるが、だったら、分布推定課題として使った意見項目がそもそも男女の役割ごとに違っていること自体も問題にすべきで、自己矛盾に陥っている。その他、%の差に対する記述法に問題あり。「36.6%から25.1%へ11.5%減少」という表現は誤り、「11.5ポイント減少」とすべきである。
○三すぎ奈穂論文:
(次号掲載)