第3巻第7号             1998/2/1
KRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKR

KR

Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

KRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKR
不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次


【『教心研』第45巻第4号掲載論文批評】

(その1)

古池若葉論文
5歳から11歳までの子どもたちに、「うれしい木」「悲しい木」「怒った木」の絵を描かせ、子どもたちが感情の描画表現をどう発達させていくかを調べた研究。木に顔を描くような即物的な表現方法から、イメージや状況、そして感情を象徴する方法へと発達していく様子が明らかにされた。特に、6歳から7歳にかけて発達の飛躍があるらしいことが見いだされた。図表も適切で読みやすい好論文。最後に少しだけ触れられてはいたが、木の絵を描かせた研究ならば、すでにかなり研究の蓄積があるであろうバウムテスト研究との関わりについてももう少し論じてもらいたかったところである。
○菅沼真樹論文:
(次号掲載)
酒井・久野論文
75年も前のシュプランガーの価値類型論に基づいて、6種類の価値志向的精神作用を測る尺度を作り、時代遅れの職業興味検査との相関を調べたという「なんとなく古くさーい」研究。「経済的」精神作用と「郵便配達員」という職業が高い相関を示したり、「権力的」精神作用と「セールスマン」が高い相関を示したり、と明らかにおかしな結果が出ているのだが、それを強引に「権力的な志向性は、他者を説得する等、他者に働きかけ影響力を及ぼすような職業への関心に結びつく(だから、セールスマン?)」と解釈してしまっている。価値尺度か職業興味検査かのどちらか(あるいは両方)が妥当性を欠いているのだとは考えなかったのだろうか。
○伊藤裕子論文:
(次号掲載)
岸 学論文
著者はどうやら「手続き的知識」を誤解しているようである。少なくとも論文の記述からは「手続き的知識」を「手続きを書いたもの」や「手続きについての知識」のように解釈しているように読める。しかし「手続き的知識」は「言葉では言い表せないような知識」、つまり技能のようなものである。そこで、Kieras & Bovair(1986)が言うprocedural textも、手続きを明示的に書いたもので、それ自体はむしろ「宣言的知識」の部類に入るものである。それがここでは「手続き的知識を明示的に書いたもの」のように解釈されている。そして、こうした誤解のままに、「手続き的説明文」と「宣言的説明文」の理解の比較実験がなされているのであるが、説明文として書かれてしまえばどちらも「宣言的知識」で文体の違いにすぎなくなる。実験に使われた例文(Figure1)を見ても、結果的にどちらもほとんど同じものになってしまっている。ぜひ著者からの反論を聞きたい。
○澤田忠幸論文:
(次号掲載)
住吉チカ論文
「カバとネコが神経伝達物質としてセロトニンを利用している」という前提から「すべての動物もそうであろう」と結論することを「一般帰納論証」という。このとき、前提に使われたカバとネコがより典型的な動物であるほど結論の確証度は高まるが、一方、カバとネコとはむしろ似ていないもの同士であるほうが結論の確証度は高まると予想される。この研究の第1の目的は、この予想を確認することである。また、何をもって「似ていない」と判断されるのかについて類似度の次元を調べ、次元間の重みの違いの効果を検証することが第2の目的である。研究ではまず12種の動物について多次元尺度法を用いて2次元の類似度布置を作成し、類似度距離の違う動物ペアのどちらが結論の確証度を高めるかを被験者に比較させることによって第1の目的を達成した。動物の類似度は「大きさ」と「捕食性」の2次元で表されるが、どちらの次元を重視するかは被験者ごとに違っており、重視する次元における違いが布置上の類似度距離以上に被験者の確証度判断に影響することも確認された。記述も丁寧で読みやすい好論文である。(なお、Table 3の数値に誤植の疑いあり。確認中。)
○小河原義朗論文:
(次号掲載)
久保信子論文
大学生について英語学習動機を調べる質問紙を作り、英語学習時間、達成動機尺度などとの相関を調べた研究。英語の学習動機は「充実・訓練志向(面白いから)」と「自尊・報酬志向(カッコいいから)」の2つに大別できる。「面白いから」と思う人は、学習時間が多く、達成動機も自己充実的である。一方、「カッコいいから」英語を学習するという人は、動機の強さが学習時間に結びつかず、達成動機も競争的で、他人との比較を重視する。「充実・訓練志向動機と競争的達成動機とに予期せぬ正の相関が見られたこと」を含めても研究結果は予想された範囲を超えず、同じ問題を扱った堀野・市川論文(1997)に比べるとかなり物足りない。
○西出・夏野論文:
(次号掲載)
皆川順論文
中学校理科の教材を用いて、概念地図完成法という教授法の効果を実験的に調べた「いかにも教育心理学らしい研究」であるが、「被験者に与えられる作業時間が少ないために効果がでない」ことが繰り返し述べられるのでは苦言を呈したくなる。筑波大学大学院博士課程在学者による中間論文の一部をまとめたものであるが、一言で言って「習作」なのである。私の後輩なので暖かく見守ってやりたいとも思うのだが、やはり、「習作」を学会誌に掲載して、読者に習作を読ませるおつきあいをさせるのは感心しない。論文公刊の練習をするなら学会誌でではなく、自前の紀要かなんかでやってもらいたいものだ。研究そのものへの提言としては、短い時間でできるお手軽な実験をたくさんやるのではなく、時間や手間はかかっても本質がしっかりとわかる実験をきちんとやることをお勧めしたい。期待しています。
○田村隆宏論文:
(次号掲載)

【『KR』は「すべてに少しずつ」ではなく「一部に重点的論評」をするべきか】

 東大の市川伸一さんから「『KR』は一部の論文だけに絞ってもっと丁寧に論評をするべきだ」というご意見をいただきました。趣旨はよくわかるのですが、「すべてに少しずつ論評する」という方針をしばらく続けたいと思います。詳しくは、http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/mori0130.htmlをお読み下さい。