「わたしたちのしっぽにおもいもよらない高値がついたのよ。あの鉄橋をわたるしかないわ。向こう岸についたら高い木にのぼって太陽に近付いてもう一度エネルギーをとりいれましょう、このお札のおかげで息がきれるわ、このままじゃとても走れない。」
2匹は急いで鉄橋をわたっていきましたが、たぬきたちももうすぐそこまで追い付いてきています。でも、命封じのまじないをしていない二千円札はキツネが思うより、ずっと恐ろしいものでした。息が苦しい、と思った時たぬきが投げたブリキの十字手裏剣のひとつがささり、イナリーの左足は真っ赤になりました。
それを見た臭いたぬきは遠くから雄叫びをあげました。
赤い模様の白キツネ、さぞかし高くうれるぞよ。
コンチは手裏剣を抜きイナリーを抱きかかえると鉄橋を渡り切り、四角いれんが色の建物の駐車場に出ました。駐車場の周りは高い木で囲まれていますのでその木に登ろうと思いました。川の向こうには沢山の臭いたぬきがひしめいています。そして、一匹、また一匹、鉄橋を渡ってこちらへむかって来るのが見えました。
ピー、ピー、ピー、ピー、車のバック音でした。コンチが鉄橋のたぬきをみているうちに中型の保冷車がバックして、こんなに近くまできていたのです。鉄橋を渡ったたぬきがせまっていました。背中のイナリーはぐったりとして、足は血でにじんでいます。
「イナリー」
コンチは心の中でさけびました。
君を山へ連れて行きたかった。コンチの脳裏には色付く木の葉の舞飛ぶ風景が浮かびました。次の瞬間かっと目を見開くと大股でバックしてくる保冷車をけり、高い木によじ登りました。そしてイナリーをこずえに横たえると木をかけおり、たぬきにむかっていきました。たぬきたちはすごむように肩を怒らせてコンチを取り囲みました。
そのときです。ピシ、ピシッ。なにかが当たる音がして、取り巻いたたぬきの一角がくずれ、ちりじりになっていきました。コンチが目をあけてみると人間の男の子ータカシが息をきらせて立っていました。
「これが、助けてくれたんだよ」
タカシは見覚えのあるゴム鉄砲2連発を持っていました。
「約束のチョコレートを買おうとコンビニにきたら、君が汚いたぬきに囲まれてるんだもの。」
タカシはアーモンド入りのチョコレートを袋から出してコンチにわたしました。そのとき、コンチはキズついたイナリーを思い出し、木の上を見あげました。こずえのイナリーをだきかかえるようにして降り、顔をのぞきこむと。
「わたしは大丈夫。木のうえにいるあいだに元気がもどってきたわ。」
心配するコンチを振り切るように足を引きずりながら動き出しました。
「怪我、してる」
タカシが手を伸ばすとビリッと静電気のような火花が散り、思わず手をひっこめました。さっきまでの友愛に満ちたイナリーはどこへいってしまったのか。そこにはまるで知らない女キツネがいました。
「街へもどるなら、おくるよ」
コンチの声が聞こえないみたいに歩き去ろうとしています。
コンチは後を追いたいと思いました。しかしキツネ銭のかわりの
チョコレートをもって山へもどらなければなりません。
「コンチ、僕も学校へ行く時間だ。楽しかった、さよなら。」
タカシはコンチから二千円札をうけとり、自転車をこぎだしました。さわやかな朝の風が吹き抜けました。