第5巻第7号             2000/2/1
KRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKR

KR

Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

KRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKRKR
不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次


【『教心研』第47巻第4号掲載論文批評】

(その1)

○坂上裕子:
感情に関する認知の個人差
--感情特性と曖昧刺激における感情の解釈との関連--
登場人物の感情がいろいろに読みとれる曖昧な図版から、人は自分自身が日常よく経験する感情を読みとる傾向があることを大学生169人を使った集団実験で明らかにした研究。日常どんな感情を持ちやすいかの傾向を「感情特性」、今実際に感じている感情を「感情状態」と区別し、それぞれを質問紙で測定すると同時に、TAT図版のような「感情解釈図版」を8枚自作して図版に描かれた人物の感情を解釈させた。その結果、「感情特性」「感情状態」とも、「感情解釈」と弱い相関、偏相関があることがわかった。(Table2/3に誤植あり。)
○河野理恵:
高齢者のメタ記憶
--特性の解明、および記憶成績との関係--
(次号掲載)
●岡田 努:
現代大学生の認知された友人関係と自己意識の関連について
人はだれも「周りのみんなはそういう傾向があるけど、私自身はそうじゃない」と考えがちであることが古くから知られているが、この研究によれば、新潟県の大学生も「現代の青年に特有とされる特質について、自分自身よりも友人によりあてはまると認知していることが見出された」という。研究の本来の目的であった「仮説1、2」が検証されれば面白い研究になったんだろうが、よく知られた上述の「仮説3」だけしか検証されなかったので、つまらない研究になってしまった。(理想自己評定のα係数の値が本文とTable1とで食い違っている。)
○姜 信善:
社会的地位による幼児の仲間に対するコミュニケーション・スキルの差異
--エントリー及びホスト場面からの検討--
(次号掲載)
◎丸山(山本)愛子:
対人葛藤場面における幼児の社会的認知と社会的問題解決方略に関する発達的研究
「せっかく作った砂場のトンネルを友達に壊されてしまった」というような対人葛藤場面での幼児の問題解決方略の発達を4・5・6歳児計130名を被験者に個別実験で調べた研究。それぞれの葛藤場面について、敵意のあるものとないもの(偶発的なもの)を用意し、問題解決方略の選択の違いがどう発達するかを調べたものである。その結果、「相手に敵意があるかどうか」の認知は4歳児でも十分になされていることが確認された。そして、敵意のある場合には「言語的主張による葛藤の解決」方略が年長児ほど多くなり「消極的解決」方略が少なくなること、敵意のない場合には逆に「言語的主張」が減り「消極的解決」が増えることが見出された。「敵意の認知」という次元を導入したことがこの研究を面白いものにしたと思う。ただ、[大変良くできた論文であるが「幼児の対人葛藤場面」というのが、紙芝居で見せて対応方法を尋ねるという「架空事態」であることが残念である。被験者の一部でもいいから、実際に幼児を葛藤場面に置いて結果を確認し、架空事態での結果が一般化できることの確認がなされていたら一層素晴らしい研究となったであろう。](角カッコ内は同じ著者の1995年論文へのKR記述の再録。)
○進藤聡彦・麻柄啓一:
ルール適用の促進要因としてのルールの方向性の適用練習
--経済学の「競争と価格のルール」の教授法に関する探索的研究--
(次号掲載)
○河内清彦:
視覚障害学生を交流対象とした「キャンパス内交流自己効力尺度(CISES)」の作成
標題にあるようなCISESという尺度を作り、その信頼性・妥当性を確認したという研究である。疑問に思うのは、大学生の対人交流自己効力を測定するような単なる「キャンパス内自己効力尺度」ではなく、「視覚障害学生を交流対象としたキャンパス内自己効力尺度」であるのに、標題でもまたCISESという命名にも「視覚障害学生を交流対象とした」という部分が外されていることである。同じ著者らの先行研究(河内・四日市,1998)では、障害種別間で尺度に有意差が見られるので「当該分野の自己効力尺度を作成する場合には、障害者一般を対象とすることは避けるべき」と結論している。つまり、障害種別ごとに尺度を作る必要があるということだ。それなのに「視覚障害者を交流対象とした」尺度にこんな命名をしちゃったら、次に作る「覚障害者を交流対象とした」尺度にはどんな名前を付けるつもりなのだろうか?(self-efficacyは「自己効力」ではなく「自己効力」としてほしいんだけどなあ。)
○高田利武:
日本文化における相互独立性・相互協調性の発達過程
--比較文化的・横断的資料による実証的検討--(次号掲載)
◎一二三朋子:【KRベスト論文賞】
非母語話者との会話における母語話者の言語面と意識面との特徴及び両者の関連
--日本語ボランティア教師の場合--
同じ著者の先行研究である一二三(1995)へのコメントとして「質問紙調査だけからでは、わかることはこの程度だろう。その他の問題点も「(3)今後の課題」に著者自身が自分で書いているとおりである。」と書いたが、この研究は、非母語話者と母語話者との実際の会話を録音し、先行研究の結果を参考にしながら分析したものである。「今後の課題」として書いていても、その課題をその後ちっとも実行せずに、単なる「決まり文句的な言い訳」にしている論文が多い中で、この著者は有言実行を果たしたわけである。研究内容も魅力的である。特に評価したいこととして、記述の明快さがある。これはカッコ書きの使い方がうまいことなどに現れている。発話カテゴリーの略語も必要に応じて「OP(意見)」と付記されているし、「母語話者は、相手(非母語話者)の知識」のように読者が迷いそうなところでも適切なカッコ書きがなされている。対話者の知識や言語能力に配慮しながら対話をすることの重要性についての研究内容が実践に活かされている好例でもある。
○山田尚子:
失敗傾向質問紙の作成及び信頼性・妥当性の検討
(次号掲載)
○久保信子:
大学生の英語学習における動機づけモデルの検討
--学習動機、認知的評価、学習行動およびパフォーマンスの関連--
大学生の英語学習に関して、学習動機、認知的評価、学習行動、パフォーマンス相互間の関連モデルの構築と検証を目指した論文である。FIGURE1(p.513)の循環的なモデルは魅力的で、面白そうな論文だと期待して読んだが期待はずれだった。期限内に書き上げなければならない学位論文のための研究だったからだろうか、さしあたって手に入るデータで共分散構造分析を行ったら「ある程度の妥当性がある」モデルができたというだけの論文になってしまった。著者にはp.518の「今後の課題」をぜひ実行に移してもらえるよう期待したい。
○伊藤美奈子:
スクールカウンセラーによる学校臨床実践評価ならびに学校要因との関連
(次号掲載)
○水野治久・石隈利紀:
被援助志向性、被援助行動に関する研究の動向
(次号掲載)