第5巻第8号             2000/3/1
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Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次


【『教心研』第47巻第4号掲載論文批評】

(その2)

○坂上裕子:
感情に関する認知の個人差
--感情特性と曖昧刺激における感情の解釈との関連--
(前号掲載)
◎河野理恵:
高齢者のメタ記憶
--特性の解明、および記憶成績との関係--
高齢者45名(65歳以上・平均73.3歳)と大学生45名を被験者にメタ記憶質問紙と記憶テストを個別に行い、メタ記憶と記憶テストとの関係を調べた研究。高齢者の方が記憶に対する自信が高く、記憶に対する不安は低い、しかし、記憶成績は悪いという結果が得られた。記憶に対する自信と記憶成績には負の有意な相関も見出された。読みやすくわかりやすい好論文である。
●岡田 努:
現代大学生の認知された友人関係と自己意識の関連について
(前号掲載)
○姜 信善:
社会的地位による幼児の仲間に対するコミュニケーション・スキルの差異
--エントリー及びホスト場面からの検討--
幼稚園の年長児69名について、ソシオメトリックテストで調べた社会的地位と、個々の幼児について3人のグループ内でのコミュニケーションの様子をビデオ録画して調べたコミュニケーションスキルとの関係を分析した労作である。しかし、研究の焦点が絞りきれず、研究目的が膨大なデータに埋もれてしまった感がある。結果の記述にも問題がある。Table 3-1から3-4は角変換値が示されているが、統計分析には角変換値を用いたとしても、表には度数を示すべきだと思う。
◎丸山(山本)愛子:
対人葛藤場面における幼児の社会的認知と社会的問題解決方略に関する発達的研究
(前号掲載)
◎進藤聡彦・麻柄啓一:
ルール適用の促進要因としてのルールの方向性の適用練習
--経済学の「競争と価格のルール」の教授法に関する探索的研究--
自然科学領域の教材を用いて研究されることが多かったルールの適用や誤ルールの修正について、社会科学領域の経済学分野の教材を用いて行った研究。「企業間に競争があれば価格は安くなる」という経済学の一般ルールがどのような状況で適用され、またされないのかが調べられた。著者らはこの領域における第一人者で、模範的な仕上がりの論文になっている。研究内容とは関係ないことだが「山梨大学はいつから首都圏の大学になったんだ!!」と思った。(同じ関東甲信越にある信州大学のやっかみ)
○河内清彦:
視覚障害学生を交流対象とした「キャンパス内交流自己効力尺度(CISES)」の作成
(前号掲載)
○高田利武:
日本文化における相互独立性・相互協調性の発達過程
--比較文化的・横断的資料による実証的検討--
Markus & Kitayama(1991)に基づく「相互独立的−協調的自己観尺度(高田・大本・清家、1996)」の小中学生版を作り、信頼性と妥当性を確認した[研究I]。次に、小学校高学年から老人までの7世代グループ計11,382人に、この尺度を実施し、横断的に相互独立的−協調的自己観の発達的変化を検討した[研究II]。さらに、オーストラリアとカナダの大学生の西欧的背景を持つ者とアジア的背景を持つ者、および日本人大学生、計1,250人を被験者に比較文化的調査を行った[研究III]。その結果、研究IIから、日本人の中学生から大学生までの青年期には相互独立的自己観が低く、相互協調的自己観が高いことが明らかにされた。また、研究IIIから、日本人青年はオーストラリアやカナダの青年に比べても、相互協調的自己観が強いことがわかった。なんとも大規模な研究であるが、こうした研究の基となったMarkus & Kitayama(1991)論文の影響力にも改めて感心する。
◎一二三朋子:【KRベスト論文賞】
非母語話者との会話における母語話者の言語面と意識面との特徴及び両者の関連
--日本語ボランティア教師の場合--
(前号掲載)
◎山田尚子:
失敗傾向質問紙の作成及び信頼性・妥当性の検討
個人のさまざまな失敗傾向を捉えるための質問紙を作成し、その信頼性・妥当性を検討した研究。大学生622名を対象に行った調査から、「物忘れや不注意によるアクションスリップ」と「処理できる情報の範囲縮小による失敗(認知の狭小化)」、「状況の見通しが悪く行動のプランが不十分であるため起こる衝動的失敗」との3因子構造を持つ「失敗傾向質問紙」が作成された。内的一貫性や再テスト法による信頼性も十分高いことが確認された。さらに、短期記憶課題との関連や、注意や対人関係をコントロールする能力を測る質問紙であるTAISとの関連を通して、失敗傾向質問紙の妥当性も確かめられた。失敗傾向を3つに分類することにより、アクションスリップ傾向得点が高い人も、注意しっかり向けていれば、むしろ一般に種々の課題遂行成績は高いことなどの説明が可能になり、大変面白い研究だと思った。
○久保信子:
大学生の英語学習における動機づけモデルの検討
--学習動機、認知的評価、学習行動およびパフォーマンスの関連--
(前号掲載)
○伊藤美奈子:
スクールカウンセラーによる学校臨床実践評価ならびに学校要因との関連
スクールカウンセラー(SC)制度について一連の研究を行ってきている著者による、首都圏の86名の臨床心理士の資格を持つSCから質問紙調査で得られた回答を分析した研究。質問紙では、(1)SC役割遂行度、(2)SCガイドラインの遂行度、(3)SC事業への評価、(4)SC役割満足度、(5)教師との情報交換スタイル、(6)SCの学校での居場所と居心地が調べられた。SC制度のよりよい運用のためには、こうした地道な研究データを積み重ねていくことも必要だとは思うが、残念ながら特にこれといった面白い知見はえられなかった。現状を見る限り、SC自身や受け入れる学校側ともいろいろな面で個々の違いが大きすぎてすべてが手探り状態という気がする。
○水野治久・石隈利紀:
被援助志向性、被援助行動に関する研究の動向
「help-seeking」に関する研究論文156論文をデータベースなどを使って検索し、最近30年間の研究動向を展望した研究である。内外の文献を網羅し、この領域での研究動向を分類し、今後の課題を示した、展望論文の書き方の模範となるような論文である。