第4巻第2号             1998/6/1
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Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次


【『教心研』第46巻第1号掲載論文批評】

(その2)

◎小林春美論文:
(前号掲載)(著者との間に6通のコメントのやりとりがあります。)
水野りか論文
集中学習よりも分散学習の方が学習効率が高い現象が知られていて「分散効果」と呼ばれている。分散効果は教育実践にも活用されるべき現象であるが、その原理が解明されていなかったために、教育にうまく応用できないできた。著者は「記憶の再活性化量の違いが分散効果を生じさせる」という仮説に基づいて一連の実証研究・シミュレーション研究を行ってきており、この論文は反復プライミング法を用いて「再活性化量と記憶量との対応」を直接的に証明しようと試みたものである。「基礎と応用の見事な結合」と言える研究で、論文も明快な記述と的確な図表の使用で大変わかりやすい。文句なしに【KRベスト論文賞】である。再活性化説は、条件づけのレスコーラ=ワグナー説とも類似しており、神経回路モデルとも整合性の高い優れた仮説であると思う。
○松尾・新井論文:
(前号掲載)(著者を含め、どなたからもコメントはいただけませんでした。)
平 直樹論文
作文のように本来いろいろな観点から評価がなされるべきものも、複数の評価者の評点を単純に合計してしまうと1次元的な評価になってしまうことはわかった。しかし、そうは言っても、入学試験などでは1次元的評価にならざるを得ないわけで、多次元評価構造をどう役立てるのだろうと考えながら読んだ。「作文能力の育成」などを考える際には、確かに有効なのだということが朧気ながらわかったように思う。(こんな感想でごめんなさい。)
◎●松田・原・藍論文
(前号掲載)(著者とのコメントのやりとりがあります。)
牧野・田上論文
「主観的幸福感」と「社会的相互作用の質」・「社会的相互作用の量」との相関研究である。「研究1」では「幸福感」と「質」との間に正の相関があることが確認された。「研究2」では「改訂版認知的アプローチによるライティング法」(カウンセラーとの文書のやりとりを通して原因帰属の柔軟さや非論理思考の修正を行う方法)によって「質」が向上し「幸福感」も高まることがわかった。注目すべきなのは、「量」はむしろ減少したことである。社会的相互作用の「質」が最大で幸福の絶頂期にある恋愛中の恋人同士は他人とはつきあわなくなるので「量」は減少する、という例が適切でよくわかった。
○有川・丸野論文:
(前号掲載)(著者からコメントが届いています。)
土井康作論文
これは面白い研究である。いろいろな作業をする前にきちんと「段取り」をすることの有効性は経験的によく知られているが、学校での作業実習では「段取り」の有効性が確立されてなく、指導要領にも位置づけられていないという。本研究では、中学1年生男女71名を被験者に、2種類の組立課題を行わせ、作業の様子をビデオカメラで記録分析するという方法で、「段取り」の有効性を調べた。その結果、「段取り」をすることは「組立所要時間」や「作業動作エラー」を減少させることが確認された。また、被験者を作業の速い者と遅い者とに分けて分析することによって、「段取り」の効果が「作業が遅いタイプの被験者にのみ有効」なことがわかった。実験2で「段取り」をするための時間が明記されていないのが気になる。その結果、「段取り」のための時間を含めても全体の作業時間が短くなるのかどうかがハッキリしない。
○笠井孝久論文:
(前号掲載)(豊田@立教大学さんからも分析方法への批判が届いています。)
遠藤・橋本論文
Bem(1974)の「性役割尺度の日本版(下仲ら,1991)」と村山ら(1982)の「自己実現尺度」とを大学生男女214名に実施して、相関を調べた研究。第1の研究目的は「先行研究で一貫した結果が得られていない、青年の自己実現に『両性具有性』と『男性性』のどちらがより重要であるかについて検討すること」なのだそうだが、ただ同じように調査を繰り返しても、一貫しない研究結果が積み重なるだけである。この論文でも研究結果は散漫で結局何がわかったのかわからないものになってしまった。だいたい、既存の尺度を使って、講義時間に200名程度に集団で調査をやるというような「お手軽な調査」で、新しい有意義な発見が得られるはずがない。調査実習のレポートのようなものを学会誌に載せるべきではない。文献欄に、村「上」正治と誤植あり。
●塘・真島・野本論文:
(前号掲載)(著者との間に8通のコメントのやりとりがあります。)
河内・四日市論文
障害者問題に関心を持つ健常大学生301名に「障害学生とのキャンパス内相互交流に関する自己効力感質問紙」(Fichtenら,1987の翻訳)を実施し、他の要因との関連を調べた研究。交流する対象としては同性の視覚障害学生と聴覚障害学生が想定された。「自己効力感質問紙」の因子分析の結果「建前的な関係でつき合う場合」と「本音を漏らさねばつき合えない場合」とに関わる別々の因子が抽出された。疑問点としては、対視覚障害学生と対聴覚障害学生との結果はほとんど同じなのだが「当該分野の自己効力感尺度を作成する場合には、障害者一般を対象とすることは避けるべき」とされていることである。この結果からなぜそう結論するのだろうか。

【「心理学文献書庫(pda-j)」を活用しよう】

 前号で「図表を英文表記すること」を問題にしたところ、「英文派」の小林春美さんから反論が届き、メールをやりとりする過程で、インターネットのサイト「心理学文献書庫」を活用するアイディアが出てきました。村越@静岡大さんからも賛同のメールが届き、「もっと宣伝が必要」とのことでしたので、ここで取り上げます。「心理学文献書庫」というのは、新潟国際情報大学の松井孝雄さんが管理している日本の心理学関係文書集積のためのアーカイブ(電子書庫)で、誰でも自由に文書を登録でき、検索機能も備えています。心理学の教育・研究に有用であると思われるものならなんでも登録OKです。そこで、圧倒的に日本人読者の多い和文雑誌には、和文で図表を載せておき、英文読者のためには英文要約や英文の図表を「心理学文献書庫」に登録しておけばいいわけです。 論文中に、English version is available from the pda-j(Psychological Documents Archive in Japan) site, http://www.nuis.ac.jp/pda-j/ と書いておけば、世界中から利用可能です。登録の方法も同じウェブに記載されています。最近やや登録が停滞気味です。ぜひ、どんどん登録して利用して下さい。