第5巻第6号             1999/12/1
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Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次


【『教心研』第47巻第3号掲載論文批評】

(その2)

◎栗田佳代子:
実際のデータを用いたt検定および検定力分析の「観測値の独立性」からの逸脱に対する頑健性の検討
--人工データによる研究結果との対比および項目の尺度化の影響を中心に--
(前号掲載)
○塙 朋子:
関係性に応じた情動表出
--児童期における発達的変化--
小学校2年生から5年生まで各学年300-400名、計1466名について、種々の情動表出物語を提示し、母親・父親・友達のそれぞれにどの程度、感情を表出するかを質問紙によって尋ねた研究。仮想場面を使った質問紙調査という限界はあるが、修士論文としてはよくまとまった優等生的研究。結果の記述に図がまったく活用されていないことが残念。
●ト部敬康・佐々木薫:
授業中の私語に関する集団規範の調査研究
--リターン・ポテンシャル・モデルの適用--
授業中の私語の多寡に集団規範が大きく影響していることを中学・高校・専門学校33クラスでの調査から示した研究であるが、なにかよくわからない論文である。まず「リターン・ポテンシャル・モデル」がわからない。アメリカのJackson(1960;1965)が唱えたものとされるが、要は図1のような図示をすることらしい。内容的にもあえて「リターン・ポテンシャル・モデルの適用」と明記するほどの重要性があるものにも思えない。統計的な分析もヘンだ。表2・表3では代表値として「中央値」が使われているのに、検定は「対応のあるT検定」である。中央値とt検定はなじまないと思うのだが。しかも、表2での「対応のあるT検定」では何を対応させているのだろう?有意水準だけを書いて、t値も自由度も明記しないのも論文の書き方として失格。
◎下仲順子・中里克治:【KRベスト論文賞】
老年期における人格の縦断研究
--人格の安定性と変化及び生存との関係について--
(前号掲載)
●夏堀 睦:
児童の物語創作における創造性に関する一考察
--物語−解決構造の枠組みによる分析--
(前号掲載)
○高井範子:
対人関係性の視点による生き方態度の発達的変化
男女1695名(18歳から88歳まで)について、「実存的生き方態度インベントリー」を中心に、5種類の尺度による質問紙調査を行い、尺度間の関連性を年代ごとに比較検討した研究。これだけのデータを集めたり分析したりするのは苦労が多いと思うが、データの集め方が「友人や知人に近隣などにおける配布、回収を依頼」というのはずさんすぎないか。これだけのデータを集める調査だからこそ、しっかりとした標本抽出をしてもらいたかった。
○皆川 順:
概念地図作成法におけるリンクラベル作成の効果について
(前号掲載)
○坂田成輝・音山若穂・古屋健:
教育実習生のストレスに関する一研究
--教育実習ストレッサー尺度の開発--
教育実習期間中に実習生が経験するストレッサーを継時的に測定する尺度の開発を目的とした研究。既存の尺度を組み合わせ、教育実習中に想定される34の刺激事態項目との相関を基に、33項目からなる「教育実習ストレッサー尺度」が作られた。尺度を構成する下位項目はそれぞれ種々の先行研究の成果を用いているにしても、たまたま選んだ1大学の157名の実習生への質問紙調査を1回(継時的に5回繰り返してはいるが)やっただけで尺度が開発されちゃっていいのだろうかと思った。
○伊藤寛子・和田裕一:
外国人の漢字記憶検索における手がかり
--自由放出法を用いた検討--
(前号掲載)
◎郷式 徹:
幼児における自分の心と他者の心の理解
--「心の理論」課題を用いて--
幼児における自己の(過去の)心的状態の理解と他者の心的状態の理解とがほぼ同時になされることを2つの実験を通して明らかにした研究。種々の課題を使って、3・4・5歳児計68 人に「自分は今どう思っているか」「他人は今どう思っているか」「自分は過去においてどう思っていたか」に相当する質問をした。多義図形課題を用いるなどの実験の工夫が面白い。さらに質問方法を変えた実験刺激だけでなく、実験結果も図で示してほしい。
●黒沢 学:
訳語間の派生関係について推論を求める教示が外国語語彙の獲得に及ぼす影響
(前号掲載)
◎外山美樹・桜井茂男:
大学生における日常的出来事と健康状態の関係
--ポジティブな日常的出来事の影響を中心に--
大学生におけるストレスと健康との関連について調べた研究。人生に変化を及ぼすような大きな出来事(結婚、失業など)ではなく、「バイトがきつかった」とか「クラブが楽しかった」とかいった日常の些細な出来事を取り上げたことと、そうした些細な出来事のうちポジティブなものに焦点を当てたことがこの研究の特色である。まず「日常的出来事尺度」を作り、大学生406名に実施して、同時に実施した既存のストレス反応尺度との関連を調べた。日常的出来事は4つのネガティブな下位尺度と2つのポジティブな下位尺度から構成されること、ネガティブな出来事は健康に悪影響を、ポジティブは出来事は健康に好影響を与えることが確認された。特に、こうした出来事に出会う頻度とストレス反応尺度得点から被調査者を5タイプにクラスター分けした結果(Figure 1)が面白いと思った。(この図は、ポジティブな出来事を明るい色、ネガティブな出来事を暗い色に塗り分けてあればさらに見やすくてよかったのだが。)
○山内香奈:
論文評定データの解析における多相Raschモデルと分散分析モデルの比較
(前号掲載)

【日本の心理学雑誌も誌面に著者の電子メールアドレスを】

 『KR』は紙版でスタートしましたが、現在はWeb版が中心になりました。1999年1年間はWeb版へのアクセスが14,576件となりました。(本号は12月号ですが、発行は2000年にずれ込んだので年間統計も取れました。)そして、『KR』に対する原著者からの反応も電子メールでいただくことがほとんどです。しかし、本体の『教心研』は相変わらず昔のままです。電子メールアドレスどころか、誌面には原著者の連絡先さえ掲載されていません。1997年5月に編集委員会に要望書を出したのですが、まだお返事もいただけないままです。実は、『教心研』だけでなく、日本の心理学関係の学術雑誌にはどれも著者の電子メールアドレスが載っていません。外国雑誌ではもう数年前から当たり前のことがどうして日本の雑誌ではできないのでしょうか?(そうしたなかで、『心理学評論』vol.42(2)には、特集の編集にあたった太田先生@筑波大の英断で著者すべての電子メールアドレスが掲載されています。)