第3巻第5号 1997/11/1
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Kyoshinken Review, or Knowledge of Results
学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。
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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html
目次
【『教心研』第45巻第3号掲載論文批評(その1)】
吉村さんから返答
が届いています。(1997.11.17)
吉村さんから続伸
が届いています。(1997.11.17)
西垣さんから反論
が届いています。(1997.11.20)
【間違ったときにはきちんと謝る勇気を!】
日垣さんからコメント
が届いています。(1997.11.11)
【『教心研』第45巻第3号掲載論文批評】
(その1)
元論文へのリンクを張りました。(2014.8.10)
○
高村和代論文
:
Grotevant(1987)は「困難な課題に立ち向かう中で自己を見つめ直し、また課題達成の成功や失敗という結果を通してアイデンティティが変容していく」というモデルを提唱したという。この論文では、日本人大学生の就職(または大学院進学)という課題の場合に、このモデルがどの程度あてはまるかを22例について分析している。このうち11例がモデルにあてはまるそうで、残る11例は5つのパターンに分類されている。特に変わった分析方法が用いられているわけでも、特に新しい知見が提供されているわけでもないが、読みやすく、「なるほど」と思わせる論文である。
○谷 冬彦論文:
(次号掲載)
○
中島伸子論文
:
人工的な課題を用いて、既習のルールでは説明できない反例に出会ったときにルールの修正がどのようになされるかを調べた研究。読みやすく分かりやすい好論文。
○進藤・立木論文:
(次号掲載)
○
山口利勝論文
:
聴覚障害をもつ大学生189名(予備調査48名・本調査141名)について、健聴者との関わりの中でどのようなアイデンティティを形成しているかを質問紙調査によって明らかにした研究。聴覚障害者は健聴者との関わりの中で、「障害の未受容」「自信欠如」「疎外感」「健聴者との乖離」「両親との葛藤」という5つの因子で現せるような葛藤を感じており、アイデンティティの構造も(1)聴覚障害者だけの世界に生きようとする「聴覚障害者アイデンティティ」(2)健聴者として生きたいと考える「健聴者アイデンティティ」(3)両者が統合された「統合アイデンティティ」の3因子からなることが明らかとされた。「障害の未受容」や「自信欠如」「疎外感」などの葛藤は「統合アイデンティティ」をもつことで低下し、葛藤の低下が「統合アイデンティティ」を高めるという関連性があることも明らかとなった。むしろ逆の視点から、健聴者の側が聴覚障害者をどう受け入れているかの実態調査(恐らく惨憺たるもの)とそうした実態の改善に向けた研究こそが必要なのではないかと感じた。
○伊藤美奈子論文:
(次号掲載)
○
松尾・新井論文
:
人間の行動の背景には「感情」と「目標」があり、小学校の5,6年生が社会的行動をとるときでもそうだよ、という研究だが、一言で言って「物足りない」という気がする論文である。「社会的スキル」の重要性やその認知的プロセスを考える「社会的情報処理」研究の重要性もわかる。そこから「動機」や「目標」「感情」が重要であることが示唆されていることも理解できる。だから、社会的行動に及ぼす「感情」や「目標」の影響を調べるのだという研究目標もわかる。倫理的な理由から、実際の調査は「仮想の社会的場面」になり、方法論的な制限から「感情」は「自己報告」で調べるしかないことも認めざるをえない。データをきちんと取り、「数量化II類」による分析もやっている、偏相関係数も計算されている。しかし、最後に示された結果を読むと「なんか騙されたような気」がしてしまうのだ。
○笹屋里絵論文:
(次号掲載)
○
西垣順子論文
:
論文の要点は、標題「小学校6年生と中学校2年生の要点が明示されたテキストの要点把握:要約課題予告の有無による影響」のとおりである。論文は読みやすく、結果も図示されていてわかりやすい。ただし、研究結果は予想された範囲内のもので特に重要な発見はない。むしろ、問題点は題材とされた文章そのものである。国語教科書掲載の「木と暮らし」という文章は、Table1から読みとる限りでは、結論が序論・本論とずれているような典型的な悪文である。こんな文章を題材にするのはまずいんじゃないかな。
西垣さんから反論
が届いています。(1997.11.20)
○冨安浩樹論文:
(次号掲載)
◎
吉村 斉論文
:
公立の中学校2校の2年生運動部員342名(男子207名女子135名)と私立の高校1校の2年生運動部員152名(男子98名女子54名)について、「自己表現・主張」「主将のリーダーシップ」「学校生活満足感」「日常生活での具体的行動・意欲」の4種類の測定尺度を用いて質問紙調査を行い、主として主将のリーダーシップ類型と他の尺度との関連性を調べた研究。予測に反して、「主将のリーダーシップのあり方」よりも部員自身の「自己表現・主張」の方が部活動や学校生活に重要な要因であることがわかった。「部活動の目的は基本的に男女共通である」として男女差を分析していないが、男女差も分析してもらいたかった。
吉村さんから
返答
・
続伸
が届いています。(1997.11.17)
○明和政子論文:
(次号掲載)
○沢宮・田上論文:
(次号掲載)
【間違ったときにはきちんと謝る勇気を!】
本号の「広報」欄には、7月19日の「教心研」常任編集委員会で以下のように検討がなされたことが掲載されています。「1993年3月18日投稿のQ24論文(「ちびくろサンボ」----)の著者から1997年3月末日「Q24論文に対する質問状への回答の督促」が委員会に届き、前回(5月17日)の常任編集委員会で話し合われた。その結果、常任編集委員会で質問項目について今委員会までに読んで考えてくることになった。この件について検討した結果、回答についての文章を委員長、副委員長で作成し、次回の常任編集委員会前に常任編集委員に送付して、9月13日の常任編集委員会で検討することになった。」その9月13日の検討結果を受けて、またもや「手続きに誤りはなかった。これ以上審議しない。[守の要約]」という内容のない回答が送られてきました。もはや編集委員会は質問状に回答する気がないのは明らかで、これは学会会員に対する重大な義務違反ですので、正式に「謝罪要求書」を送りました。学会の編集委員会が一会員に謝罪したという前例は恐らくないと思いますが、間違ったときにはきちんと謝るという勇気ある前例を是非作っていただきたいものです。(編集委員会からの回答および謝罪要求書の全文は、私のホームページhttp://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/hp-j.htmlで読めます。)
日垣さんからコメント
が届いています。(1997.11.11)
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