加藤司さん@関西学院大学からのメール#3の添付書類(2000/9/28)

守 一雄先生へ

 息をつくまもなく、お返事いただき誠にありがとうございます。

   先生の見解は、
(1)尺度の作成を先行させ、信頼性と妥当性が保証された後、その尺度を活用する、という立場と、
(2)ある程度の信頼性と妥当性が保証された尺度が完成したならば、尺度の活用を先行させる、という立場の2つの立場があり、
どちらの立場をとるかは研究者の好みである、とメールには書かれてありました。

 はたして、それは研究者の好みの問題なのでしょうか? また、「ある程度」という表現にも問題があります。私は実験であろうとも、調査であろうとも、手続きが一番大切であると考えています。先生もおっしゃっているように、この問題に関しては、より多くの方々の意見をお伺いたいと考えています。残念なことに、(先生と私のメールでのやり取りは公開されていますが)私の論文に対する守先生のコメントがKRの紙面上で公開されていないため、多くのKR読者の方々には、どのようなやり取りをしているのか、正確な情報が伝わっていないようです。

 私も守先生にコメントいただき、改めて、この問題について考えたいと思っています。ぜひとも、多くの助言をお願いします。学部学生や大学院生などの方々で、意見をお持ちの方々もいらっしゃると思います。しかし、気後れして、意見を送れない人もいると思います。そういった方々は、守先生、KRの読者の方々には申し訳ないですが、匿名でもかまいませんので、私のメールmtsukasa@kwansei.ac.jp、あるいは、郵送で郵便番号662-8501 西宮市上が原一番町1-155 関西学院大学 文学部 心理学研究室 加藤 司まで、様々な領域の方々からご助言お待ちしております。

守 先生wrote:
「まだ、ISIの信頼性と妥当性の検証は十分であるとは考えていません。」とありますし、確かに教心研論文でも妥当性は問題ありという結果ですね。そうすると、加藤さんの基準ではこの尺度を使用した研究はできないことになります。ところが、前のメールでは「この尺度が広く汎用されることを望んでいます」とあります。 さらには、加藤さんご自身も「現在も、ISIを使用した研究は続けております。」とも言っています。ISIは研究に使える尺度なんでしょうか?それとも、まだ使えない尺度なんでしょうか?どうもいろいろなところで自己矛盾に陥っているように思うのです。

 さて、ISI(対人ストレスコーピング尺度)は使用可能であるのかどうか?ということですが、私の説明が不十分であったために、誤解を生じている点があると思われますので、訂正させてください。
 本研究の分析が終了して、もう、2年間過ぎようとしています。この間、ISIの信頼性と妥当性に関する多くの検証を行いました。それでもなお、今後、ISIに関する問題点が生じるでしょう。そういった意味では、尺度作成を行った以上、研究者として生涯にわたり、その尺度に関する責任を持たなければならないと考えています。私が「まだ、ISIの信頼性と妥当性の検証は十分であるとは考えていません。」と記述したのは、そういった意味が含まれているのです。もちろん、多くの人にISIを使用していただきたいと思っています。だからこそ、ISIの信頼性と妥当性の検証は続くのです。
 一方、教育心理学研究で、私がISIの妥当性に関して問題点が残ると記述したのは、実は、そこが、既存のコーピング尺度とは異なる、(先生の言葉をおかりしますると)新しい発見なのです。コーピング研究者の中には、この点に気づいていただいた方もいるのではないでしょうか。しかしながら、既存のコーピング尺度とISIとの相違が、新たな発見なのか、それとも、ISIの妥当性の問題なのか、教育心理学研究に掲載されたデータだけでは結論づけることはできません。そのため、教育心理学研究では、ISIの妥当性に問題が残るということを示唆する記述にしたのです。既存のコーピング尺度とISIとの相違が新たな発見であるという結論を導き出すためには、新たな研究が必要であり、その研究を報告するためには、紙面に限界がありました。そこで、研究をわけて投稿することにしました(その研究論文は審査中です)。

守 先生wrote:
もう一つ、新しい尺度作りについての方法論的な疑問点を述べます。それは、加藤さんの作ったISIの作り方が「いわゆる尺度作りの典型的パターン」にしたがったものでしかないことへの疑問です。「予備調査で尺度項目の候補を探し、それを用いて本調査を行い、因子分析をして、α係数を求め、既存の尺度との相関を調べる」というおきまりのパターンです。「特性的コーピング」や「対人関係ストレス」に的を絞った項目選択をしたことが加藤さんの工夫した点だと思いますが、この程度の工夫で「既に数百も作られているという自己報告式コーピング尺度」よりも優れたものがすぐにできるものなのでしょうか?

   従来のコーピング尺度の問題点を指摘し、それを改善し、ISIを作成しました。そのことに意義がないといわれれば、それまでです。ISIの開発には意義がなかったのでしょう。
 私の主観ではありますが、従来のコーピング尺度の問題点を指摘している本論文の「問題」の章だけでも、レヴュー論文として意義深いものであると思っています。また、現在作成されているコーピング尺度の中で、対人ストレスイベントに対するコーピングの個人差を測定できる尺度として、ISIは最も優れていると思っています。その理由は、本論文の「問題」の章を読んでいただければわかると思います。また、そのことを明確にするための実証的研究も実施中です。

   お忙しい中、私の研究のために時間を割き、多くのご助言をいただきましてありがとうございました。先生の時間が許すならば、ご意見いただけませんでしょうか。

 関西学院大学 加藤 司