新版こどものバイエル・下巻(全音)の指導体系


 このページのチャートでは、「新版子どものバイエル下巻」(全音)の各練習曲の右手のメロディーパートを、タイプ別に分類しています。それぞれの曲には当然左手のパートもあるわけですが、それを扱わなかったのは、左手も含めてタイプ別に図表化するとなると、大変複雑になって、かえって問題の把握を難しくすること。今回この研究で明らかにしたいことを知るためには、右手のパートの様々な要素を、体系的に図表化し明確化するだけで十分であり、その方が問題を簡潔に、かつ明確に把握することができると判断したからです。

[凡例]

調の色 ハ長調 ト長調 ニ長調 イ長調 ホ長調 ヘ長調 変ロ長調 イ短調 ニ短調

[記号と意味]



上行下行音階
による新調導入

上行下行音階
を含む曲
左に同じ。
長い破線=転
調あり
左に同じ。
短い破線=

楽がつまらない
上行音階のみ
を含む曲
下行音階のみ
を含む曲
7度以内の上
行音階を含む
7度以内の下
行音階を含む


音階なし。
メロディ音域
8度以上
左に同じ。
長い破線=転調あり
左に同じ。
短い破線=

楽がつまらない
音階なし。
メロディ音域
7度以内
音階なし。
メロディ音域
6度以内
左に同じ。
破線=転調あり
点線=音楽的
につまらない
◆記号の意味の補足◆
●右肩上がりの図形は、上りの音階が含まれていることを意味する。
●右肩下がりの図形は、下りの音階が含まれていることを意味する。
●短い破線の図形は、音楽的に冗長だったり陳腐だったりしてつまらない曲を意味する。
●長めの破線の図形は、途中で転調することを意味する。


新版子どものバイエル下巻の指導体系チャート

◆チャートで見るこのテキストの問題点◆
●各調の音階練習の後に、音階を含んだ練習曲がほとんど用意されていない。
●新調が導入された直後のその調に習熟していない段階で、転調を含んだ練習曲を配置している。
●調が色分けされているので、同じ色を追っていけば、各調の練習曲が適当な間隔をおいて、再三練習できるように体系化されていないことが分かる。(「音階の曲集」を使った「学習カリキュラム試案」と比べていただきたい。これに関する配慮の違いが明確にご理解いただけます。)
●挿入曲はいずれも、音楽的にまたひき易さの点から見て問題のある曲ばかりだが、これは各自楽譜に当たって見ていただきたい。

(番号は原書番号。番号以外の曲名のあるものは挿入曲。)

下巻
曲の形態
調 ハ長調 ハ長調 ハ長調 ハ長調 (ト長調) ト長調 ト長調 ト長調
曲名 ハ長調音階 65番 66番 67番 68番、69番 ト長調音階 70番、71番 72番
備考       6度の練習 3度の練習    3度の練習  

● ハ長調音階練習直後の65番には上行下行の音階が含まれているが、冗長でひきにくく、子どもの興味をあまりひかない。


ト長調 ト長調 ト長調 ニ長調 ニ長調 ニ長調 ハ長調 ハ長調 イ長調
74番 76番 鈴をならして
踊ろうよ
ニ長調音階 75番 夏の思い出 77番 73番 イ長調音階
冗長気味な曲   単純な繰り
返しの曲
  突然導音から
下る音階
    未習のヘ長調
への転調あり
 

●ト長調の音階を含む74番の曲も、この段階としては冗長な曲。
●ニ長調音階導入の後には、上行下行の音階を含むニ長調の曲の用意がない。


イ長調 イ長調 ホ長調 ホ長調 ホ長調 ヘ長調 ヘ長調 ヘ長調 ヘ長調
79番
81番 ホ長調音階 82番 かわいいアンナ ヘ長調音階 93番 85番 そよかぜに
ふかれて
  中間部ニ長調   中間部イ長調 スタッカートが
ひきにくい
       

●イ長調音階導入後の2曲目は、ニ長調への転調を含む曲になっていて、その直後はもうホ長調の学習セクションに変わっている。
●ホ長調はシャープが多く難しい調にもかかわらず、第1曲はすでに中間部がイ長調に変わっている曲で、ホ長調に習熟するための曲としては不適当。その直後の挿入曲「かわいいアンナ」は、
82番の後の曲としては大変単純な感じの曲だが、そのわりにはスタッカートのひきにくい曲。編集者の意図を疑う。
●ヘ長調音階練習の後には、挿入曲「そよかぜにふかれて」に属音から7度上行する音階があるが、この曲の第5小節のOの和音と第13小節の和音には、違和感がある。


ニ長調 ヘ長調 イ短調 イ短調 ハ長調 イ短調 イ短調 ハ長調 イ短調
80番 小鳥たちの
メヌエット
イ短調音階 小さなメロディ 山のこだま 60番 くらい森の中で 夜明け 星を見つけよう
  中間部の左手
の指使いが大
変ひきにくい
  主音と属和音
の動きがぶつ
かるカノン
ひきにくくつま
らないカノン
転調の説明あるが
転調はすでに73、
81、82、80にある
ラからミまでの
ユニゾンのみ
   

●イ短調の説明に6頁も費やした後の曲が、左右の音域が5度しかないたった8小節の4分音符と2分音符程度の曲。しかも4小節目で右手の主音への終止と、左手の属和音のメロディが衝突する耳に不快な曲。●60番にも短調の音階はなく、短調の特徴音たる#ソの音もない。実はバイエルでは、この曲はイ短調を正式に導入するはるか前に置かれており、作者にはイ短調の学習曲としての考えはなかった。


ヘ長調 ハ長調 ハ長調 ハ長調 ト長調 ト長調 ハ長調 ハ長調 ハ長調
インヴェンション 83番 84番 95番 ミュゼット 78番 86番 87番 ウクライナの踊り
  このタイプの曲
は子どもには
好まれない
 
  6度の練習曲     3連音符と
16分音符
16分音符  

●86番と87番の3連音符と16分音符の学習曲は、なんと退屈な曲だろう。小さな子どものためのテキストとしてのバイエルの問題点が、最も象徴的に現れている曲だ。


イ長調 ホ長調 イ長調 ハ長調 ハ長調 イ短調 イ短調 ヘ長調 ト長調 ハ長調
短いおとぎ話 ゴバック 新年のポルカ 90番 97番 91番 93番 94番 88番 89番
      3度、6度
同音連打
3度の練習          

●ようやくイ長調とホ長調の挿入曲が数曲用意されているが、遅きに失している上に、これらの調の学習曲としては不適当。
●91番、93番で久しぶりにイ短調の曲が用意されたが、生徒はすでに前に習ったイ短調のことはすっかり忘れているであろう。


ト長調 ヘ長調 ヘ長調 ニ短調 ヘ長調 ヘ長調 変ロ長調 変ロ長調 ハ長調
小さなテーマ メヌエット 96番 お人形の
かなしみ
98番 104番 変ロ長調音階 99番 103番
右手と左手の
曲想に違和感
あり
この段階では
大変ひきにく
い曲
 
  突然のニ短調
導入。しかも
中間部で転調
 
      どの子も好き
になれない曲
 

●ここでも挿入曲は、どこか理解に苦しむ選曲がなされている。
●ニ短調の音階の学習がないままに突然のニ短調導入。このテキストに対する編集者の編集姿勢を物語っているように思う。
●変ロ長調の場合は音階の学習から入るように編集されているが、その後に続く99番はどの子も気乗りのしない曲。


ハ長調 ヘ長調 ヘ長調 ハ長調 ハ長調 ヘ長調 変ロ長調
101番 100番 102番 105番 106番 アクロバット 卒業の日に
      半音階の学習 半音階の学習   この段階で、この左手16
分音符の動きを柔らかい
ピアノで弾くことは至難

●最後の2曲の挿入曲も、音楽的にもテクニック的にも型にはまった繰り返しの多いだらだらと長く続く曲。●最後に変ロ長調の曲を用意してあるのはいいが、カンタービレなメロディにこの16分音符の伴奏形をドルチェ・レガートでつけるのは、この段階では不可能に近いのではないか。

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