「コスモスのダンス」の旋律構造を探る

音楽的な充足感の得られるわけ

「コスモスのダンス」の楽譜はこちらを参照ください。

「音階の曲集」の曲はそれぞれ1ページに収まる小さな曲ですが、どの曲も音楽的な充実感を感じる曲になっています。このような音楽的満足感を得られるのは何故なのか、ここではメロディーの構成を探ることで、その理由を考えてみようと思います。

昔から、まとまりの良い緊張感に満ちた詩歌を作るための処方として、「起承転結」ということが言われてきましたが、この小さな曲も、以下の分析に見るように、正にそのような原理に沿った旋律構成になっていることが分かります。


」に当たる第1楽節の最初の2小節は、柔らかに揺れながら2度下降する二つの波のフレーズから始まります。この音型は、#ドと順次に下降しますが、これがいわばバックスウィングの役目をして、第3小節のの音から反転して、しなやかに上昇するメロディーを引き出し、第4小節での音に落ち着きます。
」を受け継ぐ「」の部分に当たる第2楽節は、第1楽節の後半で大きく上昇したメロディーの高さから、最初は第1、2小節と同様の音型で揺れた後、穏やかに下降しての音に落ち着きます。赤丸で囲った#ファ#ドの音を見ていくと、なだらかに下降していく旋律の流れを、見て取ることが出来ます。

このようにして、「」「」の部分に当たる第1楽節、第2楽節は、穏やかな起伏を持ったバランスの良いまとまりになっていることが、よく分かります。
第3楽節に入ると、最初の2小節は、第1、第2小節と同じ音型のフレーズで始まります。しかし、「」に当たるこの部分では、2度下降するだけ「」の部分に対して、第9小節から第10小節へは3度下降しています。この大きく下降する音の動きの反動として、第11小節目ではすでに上行に転じ、そこから大きく上昇するメロディーは、第4小節のミより2度高い#ファの音に落ち着きます。
」に当たる第4楽節は、第3楽節のやや大きく振幅するメロディーの動きを引き継いで、この曲のクライマックスを形作ります。第13小節は第1小節と同じ音型で始まりますが、ここでは始めの二つの音は3度の跳躍をして大きく揺れます。また、次の小節では、いったんの音に下げてから大きく5度の広がりを上昇しクライマックスに達します。そして、最後の2小節では、その高みから一気に主音に向かって下降して、曲を終わります。

このように第4楽節では、メロディー線は大きく揺れて、感情の大きな高まりを表現しますが、同時に曲の終わりに向かって、ゆとりと落ち着きも感じさせます。それは、赤丸で囲った#ドの音の流れを見ると分かるとおり、メロディーの大きな流れは、この順次に下降する音の輪郭に沿いながら、下がっているからです。

実は、この曲の形式を分析してみると、この曲はリズム的にはすべての楽節が、第1楽節のリズムを踏襲して書かれています。その限りでは、とても単純な形式の曲です。しかし、それにもかかわらず、この曲が変化に富み豊かな情感を感じさせるのは、ここで考察したように、それぞれの楽節の旋律の構成がお互いに有機的に絡み合い、起承転結のもっとも理想的な構成法にかなっているからだと思います。

ちなみに、このような音楽的構成に対する配慮が欠けた場合、音楽がどれほど退屈になってしまうかの例を、グローバーのピアノ教本から「トランペット吹き」を例に分析しているので、ご覧下さい。
「トランペット吹き」が退屈なわけ

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