Mr.K's Letter #4

K氏からのお手紙(その4)

  
               1998年5月21日
 守 一雄 様

                                                         K 
 前略
 3月25日付でお返事をいただきながら,公私共に,多忙なためにお返事が遅くなっ てまことに失礼いたしました。適当に不十分なお返事を書くよりは,しっかりと検討し た上でお返事差し上げたいという思いから,遅くなったことに対し,ご理解いただきた いと思います。
 前回いただいたお手紙にありました通り,私も,お互いに意見が交換されることで, 社会的な差別や偏見の一面が明らかになることを願っております。

 ではまず,前回のお手紙にあった質問に対する答えを先に書かせてもらいます。
[質問1]で,ちび黒サンボという蔑称以外の問題性について質問されていますが,サ ンボという言葉が差別のすべてであるというお考えの反映ととらえています。質問の通 り,サンボ以外の問題性も私の考えに基づいて指摘することができますが,サンポとい う言葉の問題が共通理解されないまま問題を拡大していくことは,誤解が拡大すること も考えられるために,まずはサンボの蔑称の問題にしぼってお話ししたいと思っていま す。
 以前の手紙で,サンボという言葉を使わないことで,差別がなくなったということに 対して,なんら実証的研究が行われていない事実を確認させていただきました。まずは 「サンボ」という言葉,サンボの差別語としてのイメージに対し,十分な検討が必要で あると思います。しかし,おわかりいただけなかったようなので,再度,説明させてい ただきます。
 認知心理学を教えておられるとお聞きしてますので,当然,おわかりになると思いま すが,言葉には,言葉そのものの意味だけでなく,言語文化に規定され,その社会に共 通したイメージをもつものであり,時には,その意味を越えた意図を伝えたり,社会的 な背景を反映させたりすることがあります。例えば,先生の言われたような例を出させ ていただくなら,「4つ(よつ)」という言葉,あるいは指を4本たてること自体の意 味には,『数字として使ったとき』には,何ら情緒的な意味は持ちません。しかし,特 定の社会的グループをさして使うときには,これが,十分悪意のある差別語となるので す。ではサンボを使わないにしても,言い換えの言葉がそこに収まることにより,これ まで通りの意図を伝達しないということがありうるのでしょうか。だからこそ,最初に いただいた手紙の内容は例証としては不十分であると申し上げさせていただいているの です。
「チビクロさんぽには,サンポを使わないから差別がない」という根拠を実証的なある いは,科学的な視点に基づいて示してくださいますようお願いします。

[質問2]の黒人に対する具体的な被害については,まずは,サンボという言葉のもつ 被害について,当然,「差別本を改作した」と言われる先生の方が,より深くご存じで あると思います。差別を理解する事なく,差別問題図書の改作本は出せないと思います ので,まずは,先生の方からどのように理解されているかを教えてください。
 また,私はサンボという言葉のみが差別であるということを指摘しているのではなく ,社会的に黒人差別や偏見が日本に存在し,その意識と,ちび黒サンボのイメージは結 びついてきたという視点でとらえています。
 いずれにしろ,日本における黒人差別の実態については,まずは,当事者の体験を知 ることが必要であると思います。

[質問3]については上記の内容と重なりますが,実態の内容とは, 当事者の体験の みによって具体的に語られるべきであり,私は,それを総体として,この言葉にまとめ させてもらっています。具体的には,以前も書きましたが日本人の黒人観にある各ケー スを参照していただきたいと思います。

[質問4]ちび黒サンボとの因果関係ですが,先生が「残念に思う」と書いた「サンボ 」と呼びかけられている事実について,どうして,そのように呼びかけられ,嫌な想い をしているのかということについて,どうお考えなのでしょうか。私には日本の社会に は,ちび黒サンボのイメージと黒人差別意識が結びついていると考えられるのですが, どうでしょうか。

 以上の内容は,「サンボ」の差別性と「チビクロさんぽ」への問題の継続性を懸念す る説明ですが,説明や質問の意図を理解していただけたでしょうか。この内容にもからみ ,あらためてこちらから,質問させていただきます。

(質問1)当事者の意見を聞かずに差別が改善されたと結論づけたのはなぜですか。  これは前回の質問と重なりますが,「サンボという蔑称を取り除き,主人公を犬に代 えた」だけで,差別が改善されたという根拠としては,不足であると思います。詳しく は,上記の回答およびこれまでの手紙の内容をご検討ください。
 今のままでは,自分勝手な意見で「差別は改善された」と思われても仕方ありません 。実際,先生の添付された論文中で,差別が感じられなくなったことに対する実証はな されていません。

(質問2)「ちび黒サンボ絶版を考える」のどの内容から,あるいはどのような根拠で ,「サンボ」という言葉だけが問題であると理解されましたか。

(質問3)前回の質問の繰り返しですが前々回の手紙で「タブー語の本質である情緒的 意味は伝染しない」とする根拠を否定する説明をしましたが,それに対する反論あるい はちゃんとした根拠の提示がありますか。「明らかでない」と言うのであれば,(1)「 ちびく ろサンポ」と「ちび黒サンボ」は音のみでなく,本の改作であるため,本としての内容 的共通性と,マスコミ二ズムにおける取り上げ方についても同時性が存在することを証 明してください。
 あるいは,(2)チビクロさんぽの購買層が以前,ちび黒サンボを読んでいた人たちで あ るために,連続性が「明らか」(守註:原文は「明らか」に下線)です。購買層の関係性を否定する資料を提出してくださ い。

(質問4)日本社会の黒人差別意識と差別問題をどのように理解されていますか。(「 いけないことだと思う」なんて言葉を待っているのではないのです,[質問2]の内容 を検討した上で,お答えください)また,その内容と差別語「サンボ」が無関係である と考えていますか。また,その根拠を指摘してください。同時に,その根拠は差別語の 言い代えで,問題が伝達されなくなる内容であることを指摘してください。

 なお,フロッピーに関するお願いを受けていますが,現在のところ公開することに対 し反対するものではありませんが,先生のホームページがこの問題の解決や差別理解に つながるかどうかということに対し,疑念があります。あまりにも,単純化した差別問 題の指摘は実態をごまかす結果もあると,私は,差別事件の学習から学んでいます。
 また,内容が差別問題にからむ社会的に重要な内容のやり取りであり,改変可能な形 である電子情報でのやり取りは好ましくないものと考えます。
 そのため,フロッピーの提供はひかえさせていただきます。

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