第6巻第5号             2000/11/1
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Kyoshinken Review, or Knowledge of Results

学問の発展は
互いに批判しあうことで
なされるものである。

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不定期発行・発行責任者:信州大学教育学部・ 守 一雄
kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/krhp-j.html


目次


【『教心研』第48巻第3号掲載論文批評】

(その1)

○清水由紀(yuki@hss.ocha.ac.jp):
幼児における特性推論の発達
--特性・動機・行動の因果関係の理解--
 幼児が他人の行為の背景にある性格特性や動機についてどの程度理解しているのかを、3〜6歳児136名について個別面接法で調べた研究である。具体的には、8つの架空の場面を作り、登場人物の性格特性を判断させたり、別の場面でその登場人物がどう行動するかの予測をさせたりした。研究方法にも大きな問題はなく、結果も適切に図示されていて、分析方法も間違っていないので、それなりに「いい研究」なのだが、それ以上ではない。なにが足りないのかは私にもわからない。研究の結果が、一言で言えば「年齢の上昇とともにそれなりに発達していく」というようなことにすぎなかったからなのかもしれない。
○馬場安希・菅原健介(sugawara@u-sacred-heart.ac.jp):
女子青年における痩身願望についての研究
 女子大学生500名に対し、質問紙調査を行い、「痩身願望を規定する諸要因をパス図」に表した研究である。結果は、p.271のFigure1に集約されている。つまり、痩身願望への道筋は以下の3つである。@太っている→痩せたいA人気者になって注目されたい→痩せれば注目される→痩せたいB自分に自信がもてない→それは今の体型のせいだ→痩せればいい→痩せたい。なお、この結果は摂食障害など病的な痩身願望とは不連続であるそうだ。やってみたわけでもないしやってみる気もないが、おそらく、「発毛願望」で同じような調査をしても同じような結果が得られるにちがいない。つまり、発毛願望への道筋は以下の3つである。@禿げている→髪を増やしたいA人気者になって注目されたい→髪を増やせば注目される→髪を増やしたいB自分に自信がもてない→それは今の頭髪のせいだ→髪を増やせばいい→髪を増やしたい。
●西垣順子(Junko_Nishigaki@ma1.seikyou.ne.jp):
児童期における文章の非一貫性の検出
--包括的エラーと局所的エラーについて--
 「文章の要点とは何か?」「文章が一貫しているとはどういうことか?」Kintschたちは、こうした疑問から出発して文章の構造を分析し、マクロ構造とミクロ構造とを区別することで要点や一貫性を説明づけたのだと思う。そして、要点や一貫性に関わるマクロ構造のエラーが包括的エラーで、ミクロ構造のエラーが局所的エラーなのだ。ところが、この研究では、こうした言葉だけはKintschらから借りてきたものの、「文章中の最も重要な情報を不適切な文で置き換えたもの」を包括的エラーと操作的に定義してしまっている。じゃ「最も重要な情報って何?」とつっこみたくなるが、それは大学生20人の評定結果に基づいているだけだ。(この論文において、この操作的定義について述べた部分p.227右pp.12-16はおそらく「ミクロ構造」だと思うが、この種の研究の「最重要点」であり、ここに問題がある研究はダメだと思う。)
○上村恵津子(ek37222@ga2.so-net.ne.jp)・石隈利紀(ishikuma@human.tsukuba.ac.jp):
教師からのサポートの種類とそれに対する母親のとらえ方の関係
--特別な教育ニーズを持つ子どもの母親に焦点をあてて--
 学習障害およびその周辺児を抱える母親63名に、教師からどんなサポートを望むのかをアンケートで調べた研究。教師からのサポートは「指導的サポート(=口で指示するだけ)「情緒的サポート(=口で母親を褒めること)」」「道具的サポート(=具体的行動によるサポート)」に分けられるが、LD児の母親が求めるサポートはは「道具的」>「情緒的」>「指導的」の順であることがわかった。口ばっかりのサポートじゃ役に立たない、ちゃんと具体的に行動に移してくれ、それがダメならせめて褒めてくれということだ。(調べなくてもわかりきったことのような気もするが・・・)
○竹内朋香(ttomoka@spartan.ac.brocku.ca)・犬上牧・石原金由・福田一彦:
大学生における睡眠習慣尺度の構成および睡眠パタンの分類
 日本人大学生の睡眠習慣を分類できるような質問紙尺度を作り、それを使って、6つの睡眠習慣パタンを見つけだした研究である。睡眠習慣パタンには男女差があることもわかった。結果はp.298の2つの図だけでわかり、面白い研究だと思うのだが、なんだか日本語が読みにくいのが難点の論文である(第1著者が留学中のせい?)。それと、不可解な点が一つ。同じ著者グループが、20代から50代の健常成人3642人について同様の研究(Fukuda,et al,1999)を発表しているのだが、「具体的な分析方法が異なるために直接の比較ができない」という。なぜ研究を積み重ねる方向をとらず、研究ごとに分析方法を変えてしまうのだろう?
○山崎瑞紀(mizuki@mn.waseda.ac.jp)・倉元直樹・中村俊哉・横山剛:
アジア出身日本語学校生の対日態度及び対異文化態度形成におけるエスニシティの役割
 同じ著者グループによる「アジア出身留学生」についての研究(山崎ら、1997)を「アジア出身日本語学校生」について行い、両者の比較を行った研究で、題目も「留学生」が「日本語学校生」に代わっただけである。今回の研究で明らかにされた一番のポイントは、「同じアジア出身学生でも『中国大陸出身者』と『韓国出身者』とでは対日態度もその変化過程も大きく違う」ということであった。著者らは同じ調査票を使い、同じ時期に調査を行った先行研究との関連性からほとんど同じ題目を選んだのだろうが、この論文は「韓国からの留学生と中国からの留学生の日本滞在期間における対日態度変容過程の違い」とすべきだったと思う。「アジア出身日本語学校生」といっても、被調査者399名のうち、韓国人が251名、中国人が106名と2大グループを形成し、全体のほぼ9割を占めているほか、分析自体も韓国人と中国人の比較になっている。この研究はアジア出身日本語学校生についての研究というよりは、韓国人日本語学校生と中国人日本語学校生の比較研究なのだ。細かいことだが、「韓国出身の日本語学校生」を「韓国」と略記するのはどう考えても不適切だ。せめて「韓国出身者」にしてほしい。文中に「韓国」とあっても、国そのものを意味するのか、略記なのか区別がつかず紛らわしいし、留学生に対して礼儀も欠くのではないか。
第48巻第3号の残りの論文は次号をご覧下さい。