岩男さん@関東学院大学からのご返答(1999/5/28)

岩男さん@関東学院大学からのご返答(1999/5/28)


From: IWAO Takumi
Date: Fri, 28 May 1999 14:57:28 +0900
To: kazmori@gipwc.shinshu-u.ac.jp (守 一雄)
Subject: Re: KR's comment on your paper
MIME-Version: 1.0

こんにちは.岩男@関東学院大学です.
早速のお返事ありがとうございます.

message "Re: KR's comment on your paper"で,
守 一雄さんは書きました.
> ありがとうございます。
> ご就職も決まって、期限に追われなくてもすむ研究ができるようになった
>わけですから、ぜひ縦断的な研究を計画していただきたいと思います。専門
>性が高まるに連れて帰納推論の仕方が変わっていくことを縦断的研究で示せ
>れば、とても「面白い研究」になると思います。

ありがとうございます.本来であれば,
『専門性』→『専門性と関連する知識や信念』→『カテゴリ推論の方略』と
なっているはずで,真ん中の『専門性と関連する知識や信念』こそ問題にし
なければならなかったのでしょうが,この部分が本論文ではすっぽり抜け落
ちており,今後の検討課題となってしまっています.それが,この論文の面
白くなさの原因だと思いますし,私自身も投稿すべきかためらったところで
す.ただ,『専門性と関連する知識や信念』を実際に扱う前の探索的な結果
を論文にしておくのも一つのステップだろうと思い投稿したものです.守先
生のご指摘通り,個人内で縦断的に変化するものを調べられれば,もう少し
面白い研究になるでしょう.

また,論文の書き方のスタイルもあるな,と感じました.守先生は,やはり
探索的な研究よりは,理論駆動的な,きちんとした仮説のある研究を重んじ
られているのではないかと思います.私自身もやはり「行き当たりばったり」
な研究よりは,きちんとした仮説のある理論駆動的な研究の方が面白いこと
が多いと思います.ただ,本論文では,上記のように肝心の『専門性と関連
する知識や信念』に関する仮説を出す以前に,『カテゴリ推論の方略』がど
のように違うかすら,予想が立たない状況であったので(言い換えれば,私
が当初予測した結果とは異なるものになってしまったので),最初にすべて
の仮説を明示するのでなく,『結果』の途中で,「被覆方略v.s.分散方略」
のように新たな仮説が突然浮上してくることになりました.むろん,論文の
スタイルとして,このようなものを最初の『問題』の部分で仮説として提示
する,つまり研究を開始する以前から,専門家の方が分散方略になり,一般
大学生の方が被覆方略になるだろうという予測を立てていたことにして,論
文を書くことも可能であったと思います.つまり,本当は探索的に行った研
究でたまたま結果が得られただけであるのに,始めから理論駆動的・仮説演
繹的な研究をしていたような「ふり」をして,論文を書くことも可能だった
と思います.その方が,「行きあたりばったり」な印象は弱まったのかもし
れません.

しかし,私はこの論文ではあえてそのような仮説演繹的な論文のスタイルを
取らないことにしたのです.それよりは,私自身がどう考えたか,という思
考のプロセスを読者に共有してもらいたいと思い,結果の中でまた新たな仮
説を提示して再分析を行うという書き方をしました.これによって,私が感
じた驚きや面白さを伝えることができるのではないかと考えたのですが,そ
のようなスタイルを取ることで,かえって論文としての面白さを減じてしまっ
たのだとすれば,うまくゆかないなあ,というのが感想です.

やはり研究というものは,分析を行う前に明確な仮説をもって臨むべきであ
り,得られたデータを「いじくりまわす」ことによって得た結果を重視すべ
きではないのでしょうか?(以前豊田秀樹先生もそんなことをおっしゃって
いた気がしますが,間違っていたら申し訳ありません).ただ,たとえそう
であるとしても,論文を書く段階では,始めから仮説演繹的な研究である
「ふり」をすることはできるのだから,その辺りは研究者個人の倫理観によ
るのかもしれません.そう言う意味では,本論文は「馬鹿正直」に書いてし
まったかなとも思いますが,いかがでしょうか?(私個人の論文の問題とい
うよりは,より一般的な問題としてfpr等で論ずる問題でしょうか).

> ただ、どこにも「修士論文に基づいたものである」旨の記述がなく、
>岩男(1994)との関連がまったく感じられませんでした。
中略
>「おかしいですねえ、教心研に投稿したときには、
>もうすでに審査もおわっていたんじゃありませんか?」と言いそうですね。

これについては,全くご指摘の通りです.心理学研究の論文は私の最初の投稿
論文だったため,修士論文に基づくものである旨の記述がないなど,不備の多
いものとなってしまいました.また,読んでらっしゃったとしても関連が感じ
られなかったというのは,完全に私の方の論文の書き方・リファレンスの仕方
の問題だと思います.やはり両論文を関連づけて読んでもらいたいときには,
たとえ(印刷中)のものであってもきちんと付けるべきでした.今後は気を付
けたいと思います.

私のメールの一本一本に丁寧にご返事くださりありがとうございます.私自身
考えされられることが多く,今後の参考にしたいと思います.

提案の方につきましては,私自身本当に差し出がましいものだと汗顔の至りで
す.改めて非礼をお詫びいたします.

それでは.

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岩男 卓実(Iwao Takumi)
関東学院大学 法学部
E-mail: iwao@kanto-gakuin.ac.jp
tel: 0465-32-2624(研究室直通)
Fax: 042-746-1832
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