指導の実際

〈コスモスのダンス〉(イ長調第1曲)

 この曲は題名の「コスモスのダンス」から連想できるように、とても柔らかなフレーズの揺れを表現することが大切です。そのためには柔軟な手首の動きを使って、1小節ごとの柔らかいスラーの波を出すひき方ができるようになって欲しいと思います。

◆右手の指導の実際◆

●手首の上下運動は腕の動きがリードする
 これらのスラーの波は手首の上下動を使ってひきますが、その際に大切なことは、手首だけを上下に動かすのではないということです。手首の動きはあくまでも結果の動きで、大切なことは肘からの腕の動きが先行して、手首の動きをリードするということです。先行する腕の動きに、力の抜けた手首がついていくように動くだけなのです。ですから、第1小節目の波の動きに入る前のアウフタクトでは、手首を上げて用意をしますが、まず腕からリードするようにして下さい。
譜例1
記号の
意味
赤い上下の実線の矢印=手首の上下の動き /テヌート記号=重みのかかるところ
点線の矢印=肘の右回りの動き
●1拍目への重みが後の動きを誘い出すように
 最初の二つのフレーズが山形のフレーズであることと、2拍目に長い音符が来ることで、この付点4分音符に重みをかけすぎて、1拍目の重みが浮いたようにひいてしまう生徒がいます。しかし、このフレーズの動きは、まず1拍目に手首の重みが降りて、その重みが次の動きを誘うようにして自動的に波運動が起きるようにひく方がいいでしょう。そのようにひくことで、心地よい3拍子のリズムが生まれ、音楽を前へ前へと動かしてくれます。(譜例1の赤い下向きの矢印と、音符についたテヌート記号を参照) 

●スラーの切れ目でいつも切るとは限らない
 第1小節目と第2小節の右手のメロディーには、それぞれ1小節間のスラーが書かれています。先生の中には、「スラーの終わるところが切るところ」といった杓子定規な考えで指導する方がいるようですが、これらのスラーはそれぞれのスラーを切ってひくために、このように書かれているのではありません。これは第1小節から第4小節までの最初のフレーズが、1+1+2小節のフレーズから成っていること。そして最初の2小節が、1小節ごとの同じ形の波を持っていることを示しています。そして、それぞれの波は、ちょうど海の波がつながっているようにつなげてひきます。

 このつなぎをうまくやるには、譜例1の赤い点線のスラーに従って、肘を右回りに動かします。そして、その運動の後半で、肘をやや上げていくようにしながら内側に戻してきます。次に、第2小節目の第1拍のところで手首を下げて、1拍目に重みをかけるようにしながら、また肘を外側に回して、次の腕の動きのサイクルに入っていくようにするとよいでしょう。このように柔らかい腕の動きを使うことで、スラーの波が自然につながっていきます。しかし、このやり方は生まれつき腕や手首の柔軟性に恵まれた生徒でないと、難しい面があります。生徒の能力や適性を見て、指導するようにしましょう。

●曲のニュアンスを感じ取って手首を上げる
 第1小節に入る前のアウフタクトでの手首の上げ方は、次にひくフレーズの曲想や動きを先取りするようにします。この曲の場合はコスモスが柔らかい風に優しく揺れている様子ですから、第1小節目の波の感覚にふさわしい、柔らかい動きで手首を上げるようにしましょう。このようなアウフタクトの取り方をよく分からせるためには、正しい手首の使い方と間違った手首の使い方で(例えば急な手首の上げ方)、どんなに曲想が変わってしまうかを、先生がひいてみせてあげたり、生徒にひかせてみるといいと思います。
◆左手の指導の実際◆

●2、3拍は柔らかいポルタートのひき方で
 小さな子どもたちは、右手の表情には注意していても、無造作に左の伴奏をひくものです。この曲の場合も、2拍目と3拍目の和音を短く切って、およそこの曲の雰囲気とはかけ離れたひき方をしがちですから、注意して下さい。譜例2のように、1拍目に腕の重みを軽くかけた後、2拍目、3拍目の和音は、柔らかい手首の動きを少し使って、ソフトなタッチでひきましょう。
譜例2
記号の
意味
テヌート記号=重みのかかるところ
皿の形の記号=ひとつひとつの音を柔らかく区切るポルタメントの音

●跳躍する左手に注意
 一番下の段の2小節目から3小節目へ移行するところの左手に注意して下さい。(譜例3参照) ここでは2小節目の3拍目の#ファの音から、次の小節の1拍目のミの音へ、9度の跳躍をしなければなりません。小さい子どもの手でこの9度の跳躍をなめらかに行うことは、たいへん難しいものです。勢い多くの生徒は、跳躍前の#ファの音を蹴るように短くタッチして、ミの音に飛び移るようにして弾きます。

 しかし、前の項でも説明しましたように、この曲の伴奏は柔らかくコスモスを揺する風のように、あるいは柔らかく揺れるコスモスのイメージで弾きたいものです。この#ファの音には特に注意をさせて、そっと押すようにして小指のミの音へ移ることができるように指導しましょう。
譜例3
●左手の柔らかいタッチがうまくできない生徒の場合
 手の堅い子どもや不器用な子どもの場合、左手を柔らかいタッチで弾くことが難しい子どもがいます。この場合は、4小節目ごとに来る各楽節の最後の小節の左手だけに注意させ(譜例4の赤くまるで囲ったところ)、そこだけは柔らかいタッチで弾かせるようにします。これらの小節では左手が2拍、3拍を弾いているときに、右手は静止したままですので、どの子も左手のタッチに気をつけることが、比較的楽にできます。そして、ここでのタッチに慣れてくると、次第にその他の小節のタッチも、少しずつ良くなってくるものです。
譜例4
◆指先のお腹を使ったタッチについて◆

 今でもその傾向は残っているようですが、昔はよく「指をボールのように丸くして、指の先を使ってひくように」と教えたものです。バイエルのようなタイプの曲以上にあまり進む生徒がなかった時代には、それでもよかったかも知れません。しかし、ピアノをひくレベルの上がった今日、1から10まで丸い指では、色々な曲の表情にあった演奏はできません。むしろ、指はやや丸く伸ばした形でひくようにした方が、無理のない自然な手の構えを取ることができるのではないかと思います。

 この曲の場合、柔らかい風に揺れるコスモスの表情を考えると、なおのこと丸く立てた形の指ではなく、やや丸く伸ばした指の形を保って、指先の斜め腹が鍵盤に接触するようにしてタッチするひき方でひくようにしたいものです。この曲は、初歩のうちからこのような柔らかいタッチを勉強するには、とても適した曲のひとつだと思います。

 なお、この指を伸ばした形のタッチについては、「山崎先生のホームページ」で山崎先生が具体的な説明をされていますので、参照してみるのもいいでしょう。
山崎先生の「ワンポイントピアノレッスン〈第1回〉

「コスモスのダンス」の旋律構造を分析したページがあります。以下のリンクをクリックしてください。
「コスモスのダンス」の旋律構造

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