市川伸一さん@東大の回答(その1)


Date: Mon, 14 Dec 1998 22:13:53 +0900 (JST)
From: d32771
To: d32771@m-unix.cc.u-tokyo.ac.jp, debate@educhan.p.u-tokyo.ac.jp,kazmori@gipwc.shinshu-u.ac.jp
Subject: Re: Sampo Debate:17 Questions


守さん/さんぽ討論の皆様:

市川です.守さんの17項目に対する回答を,本日第9項目まで出します.
なお,先日書きましたように,私の回答に対して質問や反論をされても,
今はそれに答える余裕はありません.また,私の回答をたてにして,編集
委員会にねじこむことは御遠慮願いますということも書きました.以上,
確認のため.

なお,この文章をどこかに転載したり引用したりする場合には,当方に連
絡してください.無断掲載は御遠慮願います.


--------------------------------------------------------------------
以下の回答は,質問文の「貴編集委員会」というところを「市川個人」と読
みかえて回答したものです.
--------------------------------------------------------------------


貴編集委員会へ質問@:編集委員会も「ちびくろサンボ」が絶版となった経
緯について、現状を無条件に肯定するのか?

回答:出版社がこぞって自主的に絶版にしたことに個人的には賛成する.た
だし,「絶版にすべきではなかった」という趣旨の研究が出ることは悪いこ
とではないと思う.


貴編集委員会へ質問A:「改作を子どもに与える必要はない。」というA先
生の独断的な判断に貴編集委員会は賛成ですか?

回答:A氏がそう判断することは自由だが,改作して子どもに与えたいとい
う人が現れてもかまわないと思う.改作を与えることの意義を裏付ける研究
が行われることもよいと思う.むしろ,守論文は,改作を与えるべきだとい
うことを示す研究なのか,もとのままを与えてよいことを示す研究なのか目
的がはっきりしないのが当初から気になっていた.


貴編集委員会へ質問B:「他に良い話があるから、特定の話の存在意義を認
めない」というA先生の独断的な判断に貴編集委員会は賛成ですか?

回答:A氏の真意はわからないが,他によい話があっても,別のよい話が出
ることはあってよいと思う.A氏のこのコメントは,最終的に不採択判断の
根拠とされているわけではなく,研究の意義を再考してほしいというアドバ
イスとして理解している.


貴編集委員会へ質問C:A先生の自己矛盾的な発言と、それを正した私の指
摘と貴編集委員会はどちらに賛成ですか?

回答:このA氏のコメントもアドバイス的なものであり,査読者コメントと
しては不要なものと考えられるが,その趣旨は,「チビクロサンボを読んで
育った世代が,(その後)サンボがなぜ問題なのか知った上で,新しい物語
をつくっていくだろう」と考えれば,自己矛盾ではない.


貴編集委員会へ質問D:貴委員会も、根拠もなしに「ちびくろサンボ」が悪
書であるという立場を取るのですか?

回答:根拠なしにサンボが悪書であるという立場をとることはしない.サン
ボのいかなる点がまずく,いかなる点が良いかという両面的な評価をしてい
くべきで,悪書であるか,ないかといった二者択一的な判断はそもそもでき
ない.


貴編集委員会へ質問E:貴委員会も、「タイトルを語感のよく似た「チビク
ロさんぽ」とするのは反対」ですか? その理由は何ですか?

回答:反対する.サンボが差別語として使われた経緯があり,黒人の不快感
をあおる大きな原因になっていたというのに,あえてそれに良く似たタイト
ルをつけた改作本をつくるのはよくない.とりわけ,実験用ではなく出版し
て社会的に広く供給しようという場合には,断固反対である.
 ただ,ここでの「良く似た語感」というのは,「サンボ」と「さんぽ」の
類似ということよりも,「チビクロのさんぽ」ではなく「チビクロさんぽ」
として「チビクロさんぼ」に似せたという意味だとすれば,「わざわざ変な
日本語にしてまで似せたい」というダジャレ感覚をどう評価するかというこ
とであり,「誤読を招く」という難点はあるにせよ,単にセンスの問題であ
ると思う.


貴編集委員会へ質問F:「この年齢、このやり方ではどのお話を聞かせても
同じ様な結果が出るのではないか。」という疑問が残される余地があること
は、投稿論文を「不採択」とするような決定的な欠陥であると貴委員会も判
断なさいますか?

回答:これは判断が難しい.だからこそ,文献的にでも補足することを求め
たい.私(市川)は当時から,自分なら「不採択」ではなく「修正再審査」
にすると言ってきた.残される余地があることは確かだが,だめだというこ
とがこの分野で確かめられていないなら,即不採択にはしない.


貴編集委員会へ質問G:あたらしいアイディアに基づく先駆的な研究も「素
朴でシンプル」であるという理由で「不採択」にするべきであるというのが
貴編集委員会の意見と考えていいのですか?

回答:「素朴でシンプル」というのは,相手が幼児なのだから,行動観察や
もっと意味の通じやすい教示方法を工夫するべきではなかったかという意見
だと解釈した.それに同意する.ただし,一般に,そうした点が不満足でも,
他のアイデア等にそれを上回る先駆性があれば,即不採択にするべきではな
い.


貴編集委員会へ質問H:投稿論文に「参照すべき論文が全く引用されていな
い」という審査者B氏の判断は事実誤認ではありませんか?

回答:B氏は,物語のおもしろさに関する論文のことを言っているものと思
う.言葉と差別に関する文献を引用しているとして反論するのは不適当であ
る.幼児における物語のおもしろさの測定や分析といった心理学的方法論に
関する文献を参照してほしい.


貴編集委員会へ質問I:投稿論文には、「面白さが明示的に定義されていな
い」という理由で批判がなされているのに、その批判者が引用する秋田論文
にはおもしろさが定義されていないのは、審査者の判断の自己矛盾ではあり
ませんか? 貴編集委員会は、この矛盾に(慎重審議しても)気が付かない
のですか?

秋田論文を読んで確認してから,回答したいので,本日はここまで.



****-- 東京大学教育学研究科  市川 伸一 ------****
****---- ichikawa@educhan.p.u-tokyo.ac.jp  ----****
****------ TEL & FAX 03-5802-8651 研究室直通 --****
市川さんの回答(その2)へ進む

さんぽ問題の経緯へ戻る
ホームページへ戻る