第35巻第9号                2022/6/1
XXXV-XXXV-XXXV-XXXV-XXXV-XXXV-XXXV-XXXV-XXXV-XXXV-XXXV

DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

XXXV-XXXV-XXXV-XXXV-XXXV-XXXV-XXXV-XXXV-XXXV-XXXV-XXXV

毎月1日発行 [発行責任者:守 一雄]
(kazuo.mori[at-sign]t.matsu.ac.jp)
http://www.avis.ne.jp/~uriuri/kaz/dohc/dohchp-j.html


 退職したら暇になるので『DOHC月報』の発行は続けるつもりでしたが、いざ退職してしまうとモチベーションが下がってしまい、3月号は結局「欠号」となってしまいました。ところが、「今月のDOHCはどうしたんだ?」という問い合わせがどこからも1件も来ないという現実にさらにモチベーションを下げ、そのまま4月号も5月号も「欠号」となり、このままフェードアウトになりそうでした。

 今回、気を取り直してこれを書き始めたのは、面白い本に出会って、ぜひ著者にエールを送りたいと思ったからです。著者の加藤司さんとは確か面識はなかったと思うのですが、私の思い違いでなければ、20数年以上前にメールでやりとりをしたことがありました。当時はまだ、加藤さんが大学院学生だったので、鍛えてやろうと厳しく論文批評をしたのでした。その後は研究分野も違うことからほとんど交流もないままでしたが、いつ頃だったか、加藤さんのブログが面白いのに気づき、更新されるのを楽しみにしていました。その後、ブログの更新がされなくなって残念に思っていましたが、今回、十数年分のブログをまとめたような内容の本書を見つけ、早速読んでみた次第です。加藤さん、あんたはエライ。

 松本大学で最後の仕事を始めてすぐに大学院設置の動きがあり、準備委員をしていたときに、この加藤さんと同じような本を書こうと計画していました。数学教育の本教育心理学の教科書、そして教育系大学教員のための研究指南書、を毎年1冊ずつ書こうと計画していたのですが、その後、大学院設置計画は頓挫してしまい、3冊目の本の執筆も幻に終わりました。加藤さんのこの本のように社会科学者全般を対象としたものではなく、学校教育現場しか知らない教育学部教員を対象にしたレベルのものでしたが、内容的にはこんな本を書くつもりでした。今回、この本を読みながら、そうそうと何度もうなづき、まるで私が書いた本のようだと思いました。

 ただ、読み終わってから加藤さんの矛盾に気づきました。だって、加藤さんが研究者を続けるのなら、こんな本を書いている時間はないはずなんです。その疑問は、最後の方の「コラム52」を読んで少し解けました。おそらく加藤さんはもう研究者をやめる覚悟でこの本を書いたのだろうと思います。若い大学院生の皆さんには、加藤さんが貴重な研究時間と残り少ない命を削ってまで伝えようとした研究の極意をしっかりと受け止めてください。でも、加藤さん、まだ老け込むのは早いよ。(守 一雄)

(c)ナカニシヤ出版
 

【これは絶対面白い】

加藤 司『なぜあなたは国際誌に論文を掲載できないのか
―誰も教えてくれなかった本当に必要なこと

ナカニシヤ出版(¥2,970)

 書名の問いへの著者の回答は「誰も教えてくれなかったから」である。そして、著者は努力することで自力でそれを見い出し、多くの国際誌論文を公刊してきた。この本では、その「誰も教えてくれなかった国際誌論文の書き方」を、心構えから具体的な手順まで、懇切丁寧に教えてくれる。

 なぜ誰も教えてくれないのかというと、日本の人文社会系の大学教員のほとんどは「自称研究者」に過ぎず、彼ら自身が国際誌に論文を公刊した経験がなく、そうしたノウハウを知らないからである。そして、そうした「自称研究者」の指導を受けた学生は、真の研究者にはなれずに自身も「自称研究者」になってしまうのである。無理もない、見習うべき先輩学生たちも皆「自称研究者」だからだ。

 そこで、まず心構えとして「自分は真の研究者になる」という強い決意が必要なのだ。そして、それには当然ながら努力が必要である。この本の初め四分の一を読んで決意ができたなら、あとは、「執筆編」以降に書かれている具体的な方法を一つずつ実践していけば良い。道は険しいが、やりがいのあるものである。日本でも理系の研究者なら皆そうやっている。大学教授が研究者づらしているのは人文社会系だけである。そして、そんな時代はもうそう長くは続かないだろう。あなたは、国際誌論文が一本もないような恥ずかしい「自称研究者」の大学教授になってはいけない。(守 一雄)

DOHCメニュー