DOHC1804
第31巻第7号                         2018/4/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]
(kazuo.mori[at-sign]t.matsu.ac.jp)
http://www.avis.ne.jp/~uriuri/kaz/dohc/dohchp-j.html

 松本大学教育学部新入生の皆さんご入学おめでとうございます。大学時代にすることはたくさんありますが、私がこのDOHC (Dokusho One Hundred Club)を始めた30年以上前から変わらない大事なことは「本をたくさん読むこと」です。だからこそ、大学には必ず図書館があるのです。DOHCというのは、「年間百冊読書する会」という読書クラブです。といっても、大学の正式なサークルではなく、どこかに集まって本を読むわけではありません。「よし本を読もう」と思ったら、それでDOHC会員になれます。あとは、各自が「1年間に100冊本を読む」という目標達成に向けてたくさん本を読むだけです。

 この『DOHC月報』は会長の私が「これは絶対面白い」というおススメの本を毎月一回紹介するミニコミ誌です。過去30年間分のバックナンバーもウェブ (http://www.avis.ne.jp/~uriuri/kaz/dohc/dohchp-j.html) で読めます。このDOHC月報を面白い本を見つける道しるべにしてください。(守 一雄)


(c)北大路書房
 

【これは絶対面白い】

内田昭利・守 一雄
『中学生の数学嫌いは本当なのか』

北大路書房(¥2,200+税)

 前世紀の1999年4月号で『チビクロこころ:中学生高校生のための心理学入門』(北大路書房)を紹介して以来、19年ぶりの自著の紹介である。「19年間も本を書かずに何をしていたんだ」とお叱りを受けそうだが、21世紀の初めに「まずは研究者として論文を書くことに力を注ぎ、定年になってもう論文が書けなくなったらまた本を書くことにしよう」と決意して、英文論文を書くことに専念してきたからである。昨年3月に定年を迎えたので、決意通りにまた本を書くことにしたというわけだ。といっても、この本の下敷きになったのは、2017年に"International Journal of Science and Mathematics Education"という学術誌に発表した論文であり、さらに2008年に公刊した「集団式潜在連想テスト(FUMIEテスト)」開発の論文が活用されている。結局は重要なのは論文であることに違いはない。

 「潜在連想テスト」というのは、普段から潜在意識の中で捉えている物事の結びつき(=潜在連想構造)を、単純な分類課題の遂行時間を計測することであぶり出そうとする新しい心理テストである。本書では「心のX線検査」という比喩も使った。さらに、私たちが開発した「FUMIEテスト」は、その「潜在連想テスト」を紙と鉛筆だけでやれるように改良し、学校などで生徒たち一斉に実施できるようにしたものである。本書では、基となった「潜在連想テスト」の原理をわかりやすく説明し、新しく開発されたFUMIEテストの「実施マニュアル」も付録につけてある。

 では、その「心のX線検査」を使って何を調べるのか。それは、アンケートで「数学が嫌い」と答える中学生のホンネである。だから、本書の書名もこうなった。実は、日本の子どもたちは国際的な学力調査で、数学の成績が世界でもトップクラスであることがわかっている。ところが、「数学ができる」にもかかわらず、日本の子どもたちは「数学が嫌い」と答える傾向があるのだ。

 「日本の子どもたちは数学がよくできるのに、なぜ数学が嫌いなのだろう」と世界中の研究者が不思議に思っていた。私たちは、日本の子どもたちがアンケートに本当のことを答えていないのではないかと考え、新しく開発したFUMIEテストでホンネを探ってみたのである。そうしたら、予想した通り、かなりの子どもたちがホンネではそんなに数学を嫌っているわけではないことがわかった。

 本書には「証拠に基づく教育のススメ」という副題がついている。共著者の内田氏は、私の信州大学時代の教え子で、中学校の数学の教員である。私たちが一番述べたかったことは、教育に関わる諸現象を科学的に研究することの重要性である。現場の教員と大学の研究者が共同研究をすれば「教育の科学的研究」が実現するということも、この本で伝えたかった大事なメッセージである。(守 一雄)

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