「絶版には、裁判もまともに受けられず”処刑”された感じを持っていた。まったくのえん罪事件」と、つい語気が荒くなる。
主人公の黒人少年を黒い子犬の「チビクロ」に、題名も『チビクロさんぽ』と変えた。出版を決意したのは平成三年。物語の面白さとは別に差別論議で、子どものころから親しんだ絵本が消えるのに納得がいかなかった。
ようやく出版にこぎつけた、この六年間を「差別の本質を見据えずに、ただ面倒だからと、理由もなく避けて通ろうとする(世間の)体質を感じ取った」と振り返る。
完成前の「チビクロさんぽ」を同四年、長野市内の幼稚園児らに読んでもらってアンケートを実施。主人公を代えても、子どもの心を引きつける物語に変わりがないことがわかった。その結果を論文にまとめ、日本教育心理学会の学会誌に発表しようとしたところ「明確な理由もなく」不採択に。
以後、何度も「掲載できない理由を明らかにするよう」質問状を出すなど、同学会との対立は今も続いている。
「原作をよく調べると、主人公の名前は黒人にとって生理的な嫌悪感を覚えることも分かった。でも、”臭い物にふた”では何も解決しない」と、あえて一石を投じる。
ペンネームは「森まりも」。長野市小島に妻と息子二人の四人暮らし。四十六歳。
(豊田雄二郎)