T.ギロビッチ

『人間この信じやすきもの』

迷信・誤信はどうして生まれるか



守 一雄/守 秀子


新曜社1993年6月発行2900円(+税)

初版第2刷1993年8月
初版第3刷1994年1月
初版第4刷1994年10月
初版第5刷1995年9月
初版第6刷1997年1月
不明
初版16刷2008年12月

誤植情報

目 次


謝辞
1.はじめに
第一部  誤信の認知的要因
2.何もないところに何かを見る :ランダムデータの誤解釈
ランダムな現象の誤認知
因果関係の理論づけによって間違った考えがさらに補強される
統計的回帰現象の誤認
まとめ
3.わずかなことからすべてを決める :不完全で偏りのあるデータの誤解釈
信念と合致する情報の過大評価
仮説に合致する情報だけを捜そうとする傾向
隠れたデータや欠損データのもたらす問題
自己成就的予言--隠れたデータがもたらす問題点の特殊例
4.思い込みでものごとを見る :あいまいで一貫性のないデータのゆがんだ解釈
期待や先入観の功罪
期待や先入観の現われ方
科学的発見のゆがんだ解釈
玉虫色の解釈と玉虫色の期待
成功失敗の記憶と情報の一貫性

第二部  誤信の動機的要因と社会的要因
5.欲しいものが見えてしまう:動機によってゆがめられる信念
付言:所有物としての信念
6.噂を信じる :人づての情報のもつゆがみ
良いお話をする
「有益さ」と面白さのための脚色
自己本位の脚色
いかにもありそうな話
いらだたしいパラドックス
7.みんなも賛成してくれている? :過大視されやすい社会的承認
自己の考えの他人への投射と総意誤認効果
他人からの不適切なフィードバック

第三部  いろいろな誤信の実例
8.種々の「非医学的」健康法への誤信
信じようとする意志
このあとに、ゆえにこのために:時間の前後関係と因果関係の取り違え
失敗の窮地から成功を救い出す
もっともらしさの輝き
「新時代」の全体的健康法
9.人づきあいの方法への誤信:動機によってゆがめられる信念
その他の効果のない方略が使われ続けていること
10.超能力への誤信
超能力を否定する実験例
超能力はどの程度信じられているか
なぜ私たちは信じるのか?
信じたいという欲求
日常体験の解釈
超能力信仰の頑強さ

第四部  誤信を持たないための処方箋
11.誤信への挑戦 :社会科学の役割
科学教育の価値
社会科学者の義務

訳者あとがき
原註
索引
著者紹介
訳者紹介

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謝辞


 本書の刊行に際しては、次の4人の人たちの特に重要な貢献があった。まず格別の謝意を表したい。リー・ロス氏には、草稿の段階で多くの章について有益なコメントをしてもらった。彼独特の素晴らしいひらめきは、問題としていた現象を鮮やかに描き出す上で大いに役立った。しかしそれにもまして、リーには彼の存在そのものに感謝したいくらいである。彼は、最高の「直観的心理学者」であり、日常生活における人々の心理や行動について、彼と話し合うのは無上の喜びであった。妻のカレン・ダシフ・ギロビッチには、本書の一語一句に目を通してもらい、ほとんどそのすべてについて意見をもらった。彼女は、多くの点で私に最も厳しい批評家である。しかし、同時に、そうした批評を常に優しく、心暖かく、役に立つやり方で伝えてくれる愛すべき批評家である。デニス・リーガンとダリル・ベムの両氏もまた、原稿を何度も読んで、有益なフィードバックをしてくれた。さらに、本書の執筆期間中、くじけそうになる著者を常に勇気づけてもくれた。
 その他、数多くの人々のコメントを頂くことにより、多くの章が改善された。ロバート・フランク氏、マーク・フランク氏、デビット・ハミルトン氏、ロバート・ジョンストン氏、デビット・マイヤー氏、ジェームズ・ペンベイカー氏、バーバラ・ストラップ氏、リチャード・テイラー氏、イレーン・ウェシントン氏、これらすべての人々にも、心から感謝の意を表わしたい。しかし、本書に見いだされるいかなる間違った考えも彼らの責任ではないことを言明しておきたい。
 最後に、本書に報告されている多くの私の研究を可能にしてくれた多大なる研究助成に対して、アメリカ精神衛生協会に感謝したい。また、本書の出版まで1年半にわたって情熱と援助を著者に注ぎ込んでくれたフリー・プレス社のスーザン・ミルモー氏にも感謝の意を述べたい。
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訳者あとがき


 本書は、Thomas Gilovichによる How We Know What Isn't So :The Fallibility of Human Reason in Everyday Life. (The Free Press, 1991) の全訳である。原題をそのまま直訳すると、『人はなぜ間違った信念をもってしまうのか:日常生活における人間の推論の欠陥』となるが、本書の内容に基づいて、わかりやすくコンパクトなタイトルとなるよう、『人間この信じやすきもの:迷信・誤信はなぜ生まれるか』というものにした。本書は、教養ある知的な人であってもしばしば事実を誤ってとらえがちであることを、豊富な事例によって示し、その原因を、認知的・社会的・動機的な要因に分けて解明した大変面白い本である。本書の構成は、第1章の前半に原著者が紹介しているので、ここで繰り返す必要はないであろう。以下では、訳者の個人的な感想を述べたいと思う。
 本書は、学術書ではなく、原著者の言葉を借りれば、「知的な一般人」を読者に想定した教養書であると考えるべきであろう。物事を論理的に考えることができ、科学的に物事をとらえることができると考えている多くの知的な人々にぜひ読んでもらいたい本である。翻訳を担当した私たちも、自分たちこそは血液型占いも超能力も信じない科学者(のはしくれ)であると自負してきたが、それでもなお多くの誤信に陥っていたことに気づかされた。さらには、「超能力なんてインチキさ」と笑い飛ばしながらも、なぜ多くの人々がそれでも超能力を信じているのか、その原因までは考えてみることはなかった。本書でのギロビッチ氏の鋭い分析には、ほんとうに感心させられた。そうした意味で、誤信に陥っている人たちだけでなく、自分は誤信に陥っていないと自信がある人たちにもぜひ読んでいただきたい本である。
  一方、本書は学術書としても充分な価値を持っている。本書に述べられた種々の指摘は、それぞれ学術的な研究に裏付けられたものであり、原論文が註として掲げられている。興味関心のある読者はぜひ原論文にもあたっていただきたい。人間の認知における誤りがなぜどのように起きるのかは、急速に発展している認知科学の重要なトピックのひとつである。本書は、認知心理学や社会心理学の研究者にとっても、こうしたトピックを一望したうえで、原論文にあたることができる本として、ぜひ手元に置いておきたい本となるであろう。
 そういうわけで、知的教養人を自負し、認知心理学者でもある訳者たちは、まさに本書の最適の読者であったことになる。本書を翻訳する機会を与えられたことは、本当に幸運であった。初めて本書を手にしたとき、平易で分かりやすい英文と興味深い例が多用されているため、どんどんと読み進むことができ、あっという間に読み終わってしまった。しかし、読むことと訳すこととはまた別である。どういう日本語にしたら原著者の言いたいことがうまく日本の読者に伝えられるだろうかと訳者の知識を総動員して最適の訳文となるよう努めねばならない。これは、訳者が専門としている認知心理学や教育心理学の実践でもある。そこで、日本の読者に分かりやすくなるよう例や表現を改めたところもある。(ただし、本書の第6章を「戒め」として、脚色は最小限にとどめた。)幸い、出版社からは充分な時間を与えていただいたため、かなり「楽しんで」翻訳作業を進めることもできた。原著を読んで楽しんで、訳文を作って楽しんで、と二度おいしい仕事であったわけである。
 翻訳は、はじめ守一雄一人であたっていたが、平成4年の秋に日本教育心理学会の総会が信州大学教育学部で開かれたこともあって、多忙となり、またその後体調を崩したこともあって、第1章から第7章までの草訳を終えた時点で、守秀子が第8章から第10章までを引き継ぎ、並行して守一雄が第11章の翻訳を行った。訳文は最後に二人で何度も読み直し、思い違いによる誤訳のチェックはもちろんのこと、読んですぐわかる日本語になっているかどうかを確認した。こうした訳出の過程で、私たちの力不足でわからない部分については原著者のギロビッチ氏に手紙で問い合わせ、ギロビッチ氏から丁寧な回答をいただいた。また、信州大学教育学部の同僚のレベッカ・マークさんにも手助けを受けた。それでも、原著者やネイティブスピーカーに手助けをお願いしなかった大部分の中にこそ、私たちの思い違いが含まれているはずである。読者からのご指摘がいただければありがたいと思う。
1993年1月7日           守 一雄・守 秀子
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【著者紹介】

Thomas Gilovich (トーマス・ギロビッチ)e-mail
1954年カリフォルニア生まれ。1976年カリフォルニア大学サンタバーバラ校卒業。1981年スタンフォード大学大学院博士課程修了。Ph.D. 現在、コーネル大学心理学科準教授。専門は、実験社会心理学・認知心理学。編書に "Readings in Experimental Social Psychology"(1985, Ginn Publishing)、学術論文には、本書に引用されたものの他に、"The hidden and not-so-hidden persuaders"(1993, "Contemporary Psychology" Vol.38)などがある。

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【訳者紹介】

守 一雄(もりかずお):第1〜7章、第11章担当
1951年埼玉県生まれ。1974年東京教育大学心理学科卒業。1976年同大学院修士課程修了。カナダ・ニューファンドランド=メモリアル大学人間能力研究所研究員、筑波大学大学院博士課程を経て、現在、信州大学教育学部助教授。教育学博士。専門は認知心理学。著書に『ミニチュア人工言語研究:言語習得の実験心理学』(1992年、風間書房)など、訳書に『心のシミュレーション:ジョンソン=レアードの認知科学入門』(1989、新曜社)など、学術論文に「こめかみ鏡映書字の謎」(1991、『認知科学の発展』第4巻所載)などがある。
守 秀子(もりひでこ):第8〜10章担当
1956年青森県生まれ。1979年筑波大学人間学類卒業(心理学専攻)。1993年信州大学大学院教育学研究科修了。1980-81、1985-86の2年間夫に同行してカナダ生活を送る。現在、長野工業高等専門学校非常勤講師。専門は教育心理学。学術論文に「ワープロ作成文書の印字形式の見やすさについての実証的研究」(1993、『読書科学』第36巻所載)、「法則学習における説明的方法と発見的方法の比較研究のメタ分析」(1992、『信州大学教育学部紀要』第77号所載)などがある。

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