豊田秀樹@立教大さんのご教示(1997/3/6)

From: toyoda@rikkyo.ac.jp
Date: Thu, 06 Mar 1997 08:57:52 +0900
To: kazmori@gipwc.shinshu-u.ac.jp, toyoda@ax252.rikkyo.ac.jp
Subject: Re: 行動遺伝学−返事3
X-Mailer: AL-Mail 0.94Beta
Content-Type: text/plain; charset=iso-2022-jp
Content-Length: 11426

豊田@立教社会です.

名指しで数理的な質問がされていますので,数理的な部分を中心に回答いたします. しかし紙面は限られていますので,全てに返答することは難しい状況です.

KRの読者の方で,行動遺伝学の数理的側面に関心のおありになる方が,いらっし ゃいましたら,下記講演の1部で解説をいたします,質問にもお答えいたしますので 是非,ご参加下さい.


       
第4回心理測定研究セミナー開催のご案内

 人事測定研究所では、心理・教育・人事測定の領域における最近の研究課題や研究方 法に関するテーマを取り上げた心理測定研究セミナーを定期的に開催いたしております 。昨年9月に行いました第3回セミナーでは、元シカゴ大学教授R.Darrell Bock博士に 、テスト測定の領域における大きなテーマであるIRT(項目反応理論)の応用に関する 最新の話題についてご講演をいただき、多数の研究者の方々にご参加いただきました。

 このたび、第4回心理測定研究セミナーとして下記の要領にて開催する運びとなりま した。昨今注目を集めている共分散構造分析について、立教大学社会学部の豊田秀樹先 生にご講演をいただくことになりました。統計的手法や研究法を専門としない方々にも お役立ていただけるように、特にわかりやすい講演をお願いしており、講演とともに質 疑応答を行える形式で進行いたします。

 ご多忙中とは存じますが、是非ご出席いただきたくご案内申し上げます。

                            平成9年2月
                            人事測定研究所

    第4回心理測定研究セミナー開催要項
・テーマ 共分散構造モデルによる応用的研究
・司会 芝祐順(東京大学名誉教授・人事測定研究所特別顧問)
・講師 豊田秀樹(立教大学社会学部助教授)
・日程 平成9年3月15日(土)15:00 から 17:30
  講演ならびに質疑応答を予定しています
・会場 人事測定研究所 本社 6F 会議室
(営団地下鉄日比谷線 神谷町駅下車徒歩3分)
・定員 50 名
・参加費用 無料
・申込方法 お名前・ご所属・ご住所・電話FAX番号・E-メイルアドレスを明記の上
下記 E-メイルにアドレスにお申し込み下さい。
宛先 LDM02327@niftyserve.or.jp
・お問い合わせ 人事測定研究所 測定技術部 舛田・笹子
 〒105 東京都港区虎ノ門4-3-1 城山ヒルズ
 Tel 03-5400-3252(直通)

・講演内容
 共分散構造モデルは,近年,その応用可能性が認識され,扱い易いソフトウェア(S W)の発展とともに,多くのデータ解析分野で使用されている統計手法である.構造方 程式モデル(SEM:Structural Equation Model)と呼ばれることも多いこの手法に関 して,本講演では,講演者がこれまで係わった応用的研究を3つ紹介する.
[1].テスト理論とSEM: SEMのSWを用いて「信頼性係数」「一般化可能性係 数」「項目反応曲線の母数」の推定を行うことが可能である.実際に大学の講義の中間 テストのデータを使用し,推定例を紹介していく.
[2].行動遺伝学モデルとSEM: YG性格検査で測定される性格特性が遺伝と環境 からどのような影響を受けるかという問題を,双生児データを用い,遺伝因子分析的観 点から考察を進める.村石幸正先生(東京大学付附属中・高等学校)との共同研究であ る.
[3].大学教育とSEM: 2年計画でSEMの基本的な技能を取得し,実習を体験す る文科系学部学生向けコースウェア開発の基本的な枠組み,現状,問題点,将来的な構 想について考察する.


以下,人名のない > は守さんの発言を意味します.

安藤>[2]しかしながら、相関も交互作用も、その研究はあまり蓄積され
安藤>ていません。それを示すには別々に育った一卵性双生児のデータが不可欠で、

不可欠では有りません.父親と母親のデータがあっても推定可能です.詳しくは 次号の「心理学研究」拙稿参照してください.

>疑問点(2)-1「プリント活動」でも一卵性の相関が二卵性をうわまわっているのに、な
>ぜ「プリント活動」を除外しているか
>  -2「プリント活動」と似た相関パターンを示す「発音への関心」で、共分散構造分
>析での最適解が異なるのはなぜか
> この疑問点はそのまま残されました。
>Juko> (2)-1については級内相関の表Table 4とadceの寄与率の表Table 5の両方から
>Juko>判断しています。確かにTable 4では .29 vs -.11(P(MZ>DZ)=.86)ですが、Table
>Juko>5の遺伝コンポーネントの寄与分析では a,dの遺伝的寄与は認められず、遺伝的
>Juko>寄与の証拠を示すほどの上回り方ではないと判断されます。ちなみに「わかる」
>Juko>では MZと DZの差は .39 vs .36 (P(MZ>DZ)=.54)とごくわずかですが、Table
>Juko>5ではaの寄与が大きく出ているので、この差は遺伝的寄与を示すと解釈します。
>Juko>遺伝分散の大きさは、単純にMZとDZの見かけの級内相関の差だけでなく、それぞ
>Juko>れの分散、共分散、サンプル数の大きさまでも考慮して推定せねばならず、共分
>Juko>散構造分析はそこまで考慮されていると理解しています。(2)-2のような食い違
>Juko>いも、同様の理由によると思われます。できればこれらの変数の分散・共分散行
>Juko>列を示せばいいのかもしれません。(豊田先生、もっと詳しく教えてくださー
>Juko>い!)
>Juko>
> 私の疑問は結局のところTable4のようなデータからTable5のような結論が出てくる
>のはなぜかということです。豊田さんのお答えを待つことにします。(実は、 Table4
>のプリント活動のデータに関しては、「明らかにMZ>DZ」なので、ミスプリントを
>疑っていました。上のお答えの「確かにTable 4では .29 vs -.11 (P(MZ>DZ)=.86)です
>が、Table5の遺伝コンポーネントの寄与分析では a,dの遺伝的寄与は認められず」の部
>分がどうしても腑に落ちないのです。)

ACEモデルを計算することは,数理的には,確認的因子分析をするのと同じです. そうすると,TABLE 5 は因子分析の解として標本数が少なすぎます.試みに,遺伝率 5割のときの95%信頼区間を,この標本数で調べると約3割から8割の間位にも なります.その解を元に実質的な議論をするのは無理です.審査委員が気づかなかった 責任もありますが,標準誤差が示されていれば標本が少ないことによる不安定さ に気が付き,指摘されたのではないでしょうか.

旧来は,分析に級内相関を使う立場が多数派でした.データからユニークに 値が決まるからです.相関はデータをとった後にも,双生児をどう振り分けるか によって値が変動します.しかし,データ数が多い場合には,どう振り分けても 値の変動は少ないので本質的な欠点ではなくなります.加えて,相関や共分散を 利用すると,共分散構造分析が使えるので,現在ではこちらが主流になっています.

腑に落ちない現象が生じたカラクリは,TABLE4の値と,TABLE5を計算したとき の,級内相関と相関(分散・共分散)がそれぞれ別の傾向を示したからです.こ の例の様に標本数が少ない場合には,データをとった後に,双生児をどう振り分ける かによって相関係数の値は大きく変動するからです.因子分析としての標本数 が多くなれば,守氏が指摘している「腑に落ちない」現象はなくなるはずです.

>疑問点(2)非共有環境とは誤差ではないか
>Juko> これについては私の前のコメントでも豊田先生のコメントでも触れてあるよう
>Juko>に、「誤差=1-信頼性」であり、誤差と非共有環境とは異なります。
> これはまだ多くの疑問点が残っています。非共有環境の重要性は理解していたつもり
>です。ですから、私も「非共有環境=誤差」と考えているわけではありません。ただ、
>「非共有環境」と呼ばれているものが誤差っぽい性格を持っていることは確かで、しか
>も、誤差とはっきり区別して書いてくれていないので、「非共有環境」とされる数値の
>うちのかなりの部分が誤差なのでは」と考えた次第です。

御明察です.信頼性の低いデータを同じモデルで分析すれば,非共有環境の説明率は それ「だけ」で大きくなるし,乱数を分析すれば100%になります.

> 「非共有環境」と呼ばれているものが誤差っぽいのは、その計算方法にあります。並
>立する他の3つが、それぞれ計算された後で、「非共有環境=1-他の要因」で計算され
>るからです。この式は、上の誤差の式とまったく同じです。そうした意味で、この部分
>は、「誤差」ではないまでも「未知の要因」と名付けるほうがピッタリくる感じがしま
>す。

それは違います.誤差も非共有環境も,1回の測定では,同じ性質を示すので,数理的 に識別できないだけで,両者の和と考えるべきです.(2回以上測定すれば分離できま す)

> 「非共有環境」と呼ばれているものが誤差っぽいもう一つの理由は、上とも関わりま
>すが、他の要因と違ってモデルに「必ず組み込まれること」です。Table5にもあるよ
>うに、deモデルやceモデルなど、すべてのモデルにはeが組み込まれています。 adモデ
>ルやcdモデルはありません。

御明察です.eが組み込まれないと,母分散共分散行列のランクが落ちて,推定不能 になります.なんども言うようですが,誤差「も」含まれているからです.

> 次に、非共有環境と誤差は違うにもかかわらず、なぜいっしょくたにされてしまうの
>かという疑問があります。この疑問も上の説明では解消しません。豊田さんは、 2/19
>のメールの中で、
>豊田>プロミンの本で非共有環境と誤差が別になってい
>豊田>るのは,たぶん,まず観測変数の信頼性を推定しておいて(これをaとする)
>豊田>「誤差」=1ーa
>豊田>「非共有環境」=VAR[E]-「誤差」
>豊田>と計算しているものと思われます(本に書かれていないのもご指摘の通りです
>豊田>)ただし不当に大きくという動機ではないのです.たとえていうと因子分析を
>豊田>して,我々は「独自分散というけど,これは本当は独自分散と誤差分散の和だ
>豊田>ろう.これは独自分散を不当に大きく...」などとは,いちいち言いません.
>豊田>因子分析のイロハだからです.上記のことも,ご指摘は理論的には「そのとお
>豊田>り」なのですが,それはコンセンサスなのです.
>
> とお答え下さいましたが、この文脈から判断すると、「非共有環境に誤差が含まれて
>いることは誰もが知っている合意事項だからいいのだ」ということのようです。ある推
>定値に誤差が含まれていることは、コンセンサスと言えることかも知れません。私も、
>相加的遺伝要因、非相加的遺伝要因、共有環境、それぞれに誤差が含まれているのだっ
>たら、それでいいと思うのですが、どうして「非共有環境」だけに誤差が含まれていて
>もいいのでしょう?それで、その4者の大きさを比べるのはどうみても不公平のように
>思えるのです。

「因子分析で共通因子と独自因子それぞれに誤差が含まれているのだっ たら、それでいいと思うのですが、どうして独自因子だけに誤差が含まれていて もいいのでしょう?」と何故,みんな言わないのでしょう,という茶々は置いておいて

なるほど,おっしゃるとおりです.同じ特性を2回以上測定して,分離した方が フェアですね.現に上記の講演で用意した分析例では,分離して計算した例を紹介 します.ご指摘の通り,分離すると相対的に遺伝の重要度が上昇する結果が得られて います.

>「推定に誤差はつきものだ」「難しい推定ほど誤差は大きく
>なる」「推定の確からしさは誤差の大きさを見ればわかる」
>といったイロハは知っています。

これは違ってます.今議論しているのは,単回帰式で例にたとえると
Y = a X + b + E
の中のV[E]です.つまり誤差変数の大きさです.守さんが例に挙げた3つの誤差は V[a]とか V[b]であり,母数の推定の誤差(標準誤差とか標本誤差)です.それらは 標本を多くすれば0に近づきます.しかしV[E]は標本数とは関係なく一定の 値を持っています.両者は,全く別ものです.

> 全体から比較的分離が容易な要因Aを同定し、それを取り出した残りを簡単に要因B
>としてしまっていいのか?ということです。この残りの部分に、もちろん要因Bが入っ
>ていることは確かなのでしょうが、その他にも「未知の要因」と「誤差」がかなりの割
>合で含まれているはずだと思うのです。

アルフア係数を使う方法は,アドホックな面がありますので,ご指摘の通り 積極的に薦めるべきものでは無いかもしれません(そんなに悪い方法とも 思わないのですが...).通常のACEモデルの識別の無さが,気に入らないなら 識別できるようにデータ収集の計画をたてて,それに応じて識別される方程式モデル を作ればいいと思います.

> 「意図」の問題はさておくとしても、そうした研究上の方法論をしっかり明示してお
>かないと、研究そのものの信頼性が疑われることになりませんか?

そうですね.因子分析からのアナロジーがあったので,私はほとんど意識していなか ったのですが,ご指摘のように,誤解を生む要因ですね.

----------------------------------------------------------------------
Hideki TOYODA Ph.D., Associate Professor, Department of Sociology
TEL +81-3-3985-2321 FAX +81-3-3985-2833, Rikkyo (St.Paul's) University
toyoda@rikkyo.ac.jp 3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan
----------------------------------------------------------------------