塘さん@甲子園短期大学の反論(1998/5/24)

塘さん@甲子園短期大学の反論(1998/5/24)

Date: Sun, 24 May 1998 12:32:00 +0900
From: 塘 利枝子
Subject: KRの反論
To: kazmori@gipwc.shinshu-u.ac.jp
MIME-Version: 1.0

信州大学教育学部学校教育講座 守 一雄 先生

KRのご送付ありがとうございます。またご批判いただきありがとうございま
す。おっしゃるように読者からの反応を得る機会がほとんどありませんので、
今回のご批判、非常に喜んでおります。
学生の教育実習前でいろいろと取り込んでおり、返事が遅くなって申し訳ござ
いません。以下の反論を是非KRウェブページに載せて下さい。
なお、まだウェブページに直接アクセスすることができません。ご考慮してい
ただければ幸いです。

******************************************************************

(1) 「教科書を買いかぶりすぎているのではないか」という点について

 確かに現代の子どもにとってテレビ、マンガ雑誌、ゲームソフトの方が教科
書よりもはるかに魅力的であり、それゆえにより影響力を持っていると言える
であろう。しかしどの子どもも一律にテレビやマンガに接しているとは限らな
いし、日本以外の子どもがすべて日本の子どもと同程度にテレビ、マンガ雑誌、
ゲームソフトを手に入れることができる環境に囲まれているとは言えない。そ
れに対して教科書は、どの社会においても小学校段階のほとんどの子どもが接
することができるものである。これが教科書を分析材料として異文化間比較を
行った1つ目の理由である。

さらに教科書を分析材料として用いた2つ目の理由としては、教科書がその社
会での理想的な価値観や行動を次世代に伝えるための道具として位置づけられ
ているからである。教科書は当然その社会の大人が作成したものであり、また
その作成目的からして、子どもに悪影響を及ぼそうと意図されて作成されてい
るものではない。むしろその社会の行動規範や価値観を教えようと思って作成
されている。もちろん教科書の中で扱われている行動規範や価値観はその社会
の理想像であって、現実像を必ずしも正確に反映しているものではないのかも
しれない(これは現在進めているドイツの教科書を入れた多文化間の比較分析
の中から得た結論なのだが)。したがって、教科書よりもテレビやマンガ雑誌
の方がその社会の子どものありようをよく映し出している可能性も考えられる。

しかし教科書の中には、次世代の子どもに是非学んでほしいと思われる理想像
が反映されていると考えるならば、各国の教科書を分析した上で、さらに次な
る研究の発展段階として、各社会の子どもの実際の行動を分析することによっ
て、各社会の大人と子どもの価値観のずれを分析することができると考えてい
る(すなわち現代日本が抱えている「子どもの姿が見えない」「子どもの行動
がわからない」という問題についても、大人社会と子ども社会の価値観のずれ
がその一つの理由として存在するのではと考えているため)。その意味で、教
科書を分析する意味があると筆者は考えている。

(2) 「なぜ日本とイギリスの比較なのか」という点について

著者がいま行っているのは日本とイギリスの分析だけではない。台湾、ドイツ
の教科書分析も併せて行っている。まず手始めに行ったのが日本とイギリスの
教科書なのであって、今後機会があれば台湾、ドイツ以外の教科書をも分析対
象の中に組み込みたいと思っている。

それではなぜ日本とイギリスの教科書分析から始めたか。これは論文にも書い
たように、ワイツのprimary control 、secondary controlを西欧文化と日本
文化で比較したいという意図があったからである。研究を始めた当初は比較研
究で多く扱われている日米比較を行おうかと計画していた。しかし、アメリカ
の教科書は州によってかなり異なり、その扱いもまちまちである。そこで同じ
英語圏であるイギリスの教科書をまず手始めに取り上げた。

 しかし、前述したように、今後は日本と同じアジア圏に位置する台湾と、イ
ギリスと同様に欧州に位置するドイツの教科書を取り上げ、2カ国間比較では
なく、多国間の比較を行っていきたいと思っている。このような多国間の比較
を行うことによって、欧米対アジアという二項対立の図式ではなく、同じアジ
アの中での相違点と類似点、欧米の中での類似点と相違点、そして4カ国に共
通に存在するもの、特殊なものを分析したいと考えている。

なお、教育心理学研究以外に、教科書の内容分析に関する異文化間比較につい
て行った筆者の拙文は次の通りである。入手困難もの、更にはまだ論文にはな
ってはいないが、学会での発表レジュメ(特にドイツの教科書分析に関しては
今年の夏、ISSBD及び日独教育社会学会で発表予定)などをほしい方は、直接
筆者に問い合わせて下さい。

塘 利枝子 1995 教科書に反映された親の育児観 母子研究 16号 p.79 -p.89
塘 利枝子 1995 日英の教科書に見る家族−子どもの社会化過程としての 教科書− 発達心理学研究 第6集第1号 p.1-p.16
塘 利枝子・童昭恵 1998 日本と台湾の国語教科書にみる育児行動―性役 割に関する内容分析的検討― 甲子園短期大学紀要16号 p.67-p.84

*********************************
塘 利枝子
甲子園短期大学 幼児教育科
663 兵庫県西宮市瓦林町4-25
e-mail: QZT01244@niftyserve.or.jp
Tel: +81-798-65-3300
Home Tel: +81-75-252-8463
************************************


KRからのお返事
  • KR vol.4-1へ戻る
  • KRメニューへ戻る