杉浦健@京都大学さんのコメント(1997/2/19)

杉浦健@京都大学さんのコメント(1997/2/19)

From: "杉浦 健"
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Subject: KRへのコメントFrom杉浦 健
Date: Wed, 19 Feb 1997 08:39:03 +0900
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杉浦からKRへのコメント

私の問題意識は,「失敗が努力不足と分かっているんやったら,なんで努力せーへ んねん!?」という非常に素朴な考えでした.私の論文は,間接的には樋口他(1983) やMarsh(1984),桜井(1989)などの論文から触発されたものでしたが,もともとは自 分自身の問題,自分自身への問いかけでした.この論文は,その一つの答えとして ,成績目標の重視とそれに続く無気力感を仮定し,実際にうまいこと「努力不足は 分かっとるけど努力したってどうせ無駄やから(おれはどうせ人より劣っとるさか い)努力せーへんねん」という心性を明らかにしたと思っています.

しかし,「学業成績・原因帰属・効力感研究特集号に思う」に書かれていた通り, 私の研究も質問紙調査に過ぎないわけで,やはり教育への介入という点で不十分で あることは重々承知しています.結果からどういう教育的介入ができるかは,やは り教育心理学の論文にとって非常に重要なことだと思います(So What?(それがどうした?)というやつですよね).この論文では「クラスの 学習目標」を問題とすることで,少しは考慮したつもりですが....

なお,無気力感は得点から見ればそれほど高くはなく, 小学生に蔓延しているというわけではなさそうです.もちろんそれを感じているも のがいるということは事実ですが,話を聞く限り小学校の先生はよく配慮している と思います.


「学業成績・原因帰属・効力感研究特集号に思う」についてのコメント

第44巻3号にいわば動機づけの論文が多く掲載されていたという事実は非常に興 味深いですね.私が動機づけの研究をしているからひいきのひきだおしで言うわけ ではないのですが,教育心理学では(学校では)今,動機づけの問題が非常に重要 になっていると思います.つまり,どのように学ぶか(HOW)ということよりも 先になぜ学ぶかという疑問(WHY)が児童や生徒の学習を妨げているようにおも えるのです.この原因は,社会の不透明感や価値観の多様性(実は全然多様でない ともいえるが)などが考えられますが,結局のところ,「勉強して何がいいことあ るんかい?」といった疑問に多くの生徒達が苦しんでいるように思えるのです.そ してその疑問に対して今の社会は答えを与えてくれず(例えば昔だったらいい会社 に入って出世して...という答えがそれが正しいかどうかは別にしてあった), 一人一人が答えを出さないといけなくなっていると思うのです.

動機づけの研究が多くなっているのは,そこらへんを学校も研究者もうすうす感じ 取っているからではないかと私は思うのですが,どうでしょうか????