図表の英文表記に反対するもう一つの理由(1998/5/9)

図表の英文表記に反対するもう一つの理由(1998/5/9)

Date: Mon, 11 May 1998 09:57:34 +0900
To: 小林 春美
From: kazmori@gipwc.shinshu-u.ac.jp (守 一雄)
Subject: KR counterreply to Dr.Kobayashi(英文表記について)
Cc: krmlist, Psycho_INET@reitaku-u.ac.jp

小林春美さま:守@KRです。

 『KR』第4巻第1号へのコメントありがとうございました。

小林さんが図表の英語表記を支持する理由として
(1)図表が英語表記であっても比較的シンプルなのであれば、
英語でもよいのではないか
(2)最低限のアクセスは、非日本語圏の人でもできるほうが
便利ではないか(最低限のアクセス、とは、アブストラクトと図表)
の2点が主要なものと読みとりました。

私もこれら理由の意義を認めます。
(1)に関して言えば、英文雑誌の図表はもちろん英文表記なの
ですが、あまり読みにくいと感じたことはありません。著者なり
エディターなりが、「図表を読者にわかりやすいものにしよう」
と努力しているからだと思います。
もともと図表はわかりやすく表現するためのもので、図表が見に
くいのでは本末転倒です。
ただ、日本語の雑誌の場合は(2)の問題がからむので話が難しく
なります。

ここからの議論はスペースの関係で『KR』では割愛したのですが、
小林さんの考えと共通する「心研・投稿の手引き」にある考え方は
「昔はそうだったが、今は違う」というのが私の意見です。

10年くらい前までなら、私も「図表は英文」派だったと思います。
私の『教心研』デビュー論文(1977)でも図表は英文表記でした。
当時は、英文アブストラクトも英文サマリーで分量も多く、このサ
マリーと図表で、確かに最低限の内容がわかるようになっていました。

では、なぜ「昔は英文OKで今はダメ」なのでしょうか?
昔は図を描くのが大変でした。図の線はカラス口で描き、文字は
インスタントレタリングという今で言う「フォントセット」みたいな
ものを買ってきて、1字1字張り付けました。漢字のインレタはない
ので図中に漢字を入れるときは「ていねいに手書きするか」「高い
費用を払って写植文字を入れるか」でした。
だから、「図は1枚だけ作っていろいろな場合に使い回しをする」
というのが当然でした。

図を1枚しか作らないとすれば、非日本語圏にも通用し、しかも
レタリングも容易な英文にするほうがいいに決まっています。
しかし、今は図表作りが信じられないくらい楽になりました。図表中
の文字も英語でも日本語でも自由に設定でき、同じ図のキャプションを
英語版・日本語版両方作ることだって簡単です。

比喩的に言えば、スーツが1着しかないとすれば、どんなときにも
着られる紺のスーツが一番のオススメということになりますが、
何着もスーツを持てるなら、TPOに合わせて着替える方がいい
ということです。スーツを1着しか買えないときの発想をいつまでも
持ち続けてはいけません。


日本の雑誌に発表する時は日本の読者に一番わかりやすいものにして、
(English version is available from the author)と付記しておく方が
現実的だと思うわけです。
そのためにも、論文に著者の連絡先が明記されているべきなのですが、
編集委員会はそうした発想を持たないようです。

だから「しかたなく英文の図表にするのだ」ということにしないで、
新しい時代にあった雑誌論文のあり方をどんどん編集委員会に提案して
いきましょうよ。

それにしても、昔に比べてこんなにも図を描くのが簡単になったのに、
教心研には図が少なすぎるとは思いませんか?

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守 一雄@380-8544信州大学教育学部学校教育講座(これだけで郵便が届きます。)
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