守一雄@KRからの再質問(1997/3/4)

Date: Tue, 4 Mar 1997 08:59:10 +0900
To: HDA02306@niftyserve.or.jp
From: kazmori@gipwc.shinshu-u.ac.jp (MORI Kazuo)
Subject: Re: 行動遺伝学−返事3
Cc: kazmori@gipwc.shinshu-u.ac.jp (MORI Kazuo)
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安藤@慶應大さま:守@KRです。

 お返事をよく読み直してみました。
 一読したときは、ほとんどの疑問点は晴れたように思ってましたが、よく読んで みると、かなりの部分が疑問点として残ります。

【安藤(1996)論文に対して】

疑問点(1)倉八論文のサンプルの記述との不一致について

 この疑問点は解消しました。

疑問点(2)-1「プリント活動」でも一卵性の相関が二卵性をうわまわっているのに、な ぜ「プリント活動」を除外しているか

  -2「プリント活動」と似た相関パターンを示す「発音への関心」で、共分散 構造分析での最適解が異なるのはなぜか

 この疑問点はそのまま残されました。

Juko> (2)-1については級内相関の表Table 4とadceの寄与率の表Table 5の両方から
Juko>判断しています。確かにTable 4では .29 vs -.11(P(MZ>DZ)=.86)ですが、Table
Juko>5の遺伝コンポーネントの寄与分析では a,dの遺伝的寄与は認められず、遺伝的
Juko>寄与の証拠を示すほどの上回り方ではないと判断されます。ちなみに「わかる」
Juko>では MZ と DZの差は .39 vs .36 (P(MZ>DZ)=.54) とごくわずかですが、Table
Juko>5ではaの寄与が大きく出ているので、この差は遺伝的寄与を示すと解釈します。
Juko>遺伝分散の大きさは、単純にMZとDZの見かけの級内相関の差だけでなく、それぞ
Juko>れの分散、共分散、サンプル数の大きさまでも考慮して推定せねばならず、共分
Juko>散構造分析はそこまで考慮されていると理解しています。(2)-2のような食い違
Juko>いも、同様の理由によると思われます。できればこれらの変数の分散・共分散行
Juko>列を示せばいいのかもしれません。(豊田先生、もっと詳しく教えてくださー
Juko>い!)
Juko>

 私の疑問は結局のところTable4のようなデータからTable5のような結論が出 てくるのはなぜかということです。豊田さんのお答えを待つことにします。(実は、 Table4のプリント活動のデータに関しては、「明らかにMZ>DZ」なので、ミ スプリントを疑っていました。上のお答えの「確かにTable 4では .29 vs -.11 (P(MZ>DZ)=.86)ですが、Table5の遺伝コンポーネントの寄与分析では a,dの遺伝的 寄与は認められず」の部分がどうしても腑に落ちないのです。)


【安藤(1992)展望論文に対して】

疑問点(1)「人間行動遺伝学による遺伝効果はあくまでも個人差への相対的効果」とい うが、遺伝の絶対的重要度を否定することにはならないのではないか

 これは無藤さん・豊田さんなどとの議論を通してだいたいわかりました。

疑問点(2)非共有環境とは誤差ではないか

Juko> これについては私の前のコメントでも豊田先生のコメントでも触れてあるよう
Juko>に、「誤差=1-信頼性」であり、誤差と非共有環境とは異なります。

 これはまだ多くの疑問点が残っています。非共有環境の重要性は理解していたつ もりです。ですから、私も「非共有環境=誤差」と考えているわけではありません。 ただ、「非共有環境」と呼ばれているものが誤差っぽい性格を持っていることは確 かで、しかも、誤差とはっきり区別して書いてくれていないので、「非共有環境」 とされる数値のうちのかなりの部分が誤差なのでは」と考えた次第です。

 「非共有環境」と呼ばれているものが誤差っぽいのは、その計算方法にあります。 並立する他の3つが、それぞれ計算された後で、「非共有環境=1-他の要因」で計 算されるからです。この式は、上の誤差の式とまったく同じです。そうした意味で、 この部分は、「誤差」ではないまでも「未知の要因」と名付けるほうがピッタリく る感じがします。

 「非共有環境」と呼ばれているものが誤差っぽいもう一つの理由は、上とも関わ りますが、他の要因と違ってモデルに「必ず組み込まれること」です。Table5にも あるように、deモデルやceモデルなど、すべてのモデルにはeが組み込まれています。 adモデルやcdモデルはありません。

 次に、非共有環境と誤差は違うにもかかわらず、なぜいっしょくたにされてしま うのかという疑問があります。この疑問も上の説明では解消しません。豊田さんは、 2/19のメールの中で、
豊田>プロミンの本で非共有環境と誤差が別になってい
豊田>るのは,たぶん,まず観測変数の信頼性を推定しておいて(これをaとする)
豊田>「誤差」=1ーa
豊田>「非共有環境」=VAR[E]-「誤差」
豊田>と計算しているものと思われます(本に書かれていないのもご指摘の通りです
豊田>)ただし不当に大きくという動機ではないのです.たとえていうと因子分析を
豊田>して,我々は「独自分散というけど,これは本当は独自分散と誤差分散の和だ
豊田>ろう.これは独自分散を不当に大きく...」などとは,いちいち言いません.
豊田>因子分析のイロハだからです.上記のことも,ご指摘は理論的には「そのとお
豊田>り」なのですが,それはコンセンサスなのです.

 とお答え下さいましたが、この文脈から判断すると、「非共有環境に誤差が含まれ ていることは誰もが知っている合意事項だからいいのだ」ということのようです。あ る推定値に誤差が含まれていることは、コンセンサスと言えることかも知れません。 私も、相加的遺伝要因、非相加的遺伝要因、共有環境、それぞれに誤差が含まれてい るのだったら、それでいいと思うのですが、どうして「非共有環境」だけに誤差が含 まれていてもいいのでしょう?それで、その4者の大きさを比べるのはどうみても不 公平のように思えるのです。

 そもそもなぜ、誤差の大きさ(あるいはそれを計算するための信頼性α)が明示さ れないのでしょう?私は上の豊田さんの解説の中の「因子分析のイロハ」も知らない 程度の知識しかないのですが、「推定に誤差はつきものだ」「難しい推定ほど誤差は 大きくなる」「推定の確からしさは誤差の大きさを見ればわかる」といったイロハは 知っています。

疑問点(3)遺伝要因には直接的(=主効果的)、交互作用的、相関的の3つがあるにも 関わらず、遺伝の主効果を全体からさっ引いたものだけを環境効果として扱うこ とに、環境を不当に大きく見せる意図があるのでは?

 この疑問点へのお答えは以下の3点でした。

Juko> 「不当」かどうかは別として、おっしゃることはわかります。この問題のあつ
Juko>かいのあいまいさには、以下のような背景があります。
Juko> [1]遺伝と環境の相関と交互作用は、文字通り遺伝と環境の「両方の」影響な
Juko>のであって、どちらか一方からの「所有権」を主張することそのものがそもそも
Juko>ナンセンスであること。
Juko> [2]しかしながら、相関も交互作用も、その研究はあまり蓄積されていません。
Juko> [3]とはいえ、環境の主効果として算出される部分の中に、遺伝と環境の高次交
Juko>互作用が多く含まれていると私は考えています。

 純粋に方法論的な疑問点だけを繰り返します。

 全体から比較的分離が容易な要因Aを同定し、それを取り出した残りを簡単に要因B としてしまっていいのか?ということです。この残りの部分に、もちろん要因Bが入っ ていることは確かなのでしょうが、その他にも「未知の要因」と「誤差」がかなりの割 合で含まれているはずだと思うのです。

 「意図」の問題はさておくとしても、そうした研究上の方法論をしっかり明示してお かないと、研究そのものの信頼性が疑われることになりませんか?