KRから坂田陽子さんへのお返事メール(2000/8/16)

Date: Wed, 16 Aug 2000 12:22:05 +0900
To: "SAKATA Yoko"
From: kazmori@gipwc.shinshu-u.ac.jp (守 一雄)
Subject: Re: KRの件

坂田さま:守@KRです。

 早速のレス、ありがとうございます。

At 8:38 PM 00.8.15, SAKATA Yoko wrote:
>  まず、データの件ですが、Fig1の4歳児の43点のデータが抜けておりました。ご
> 指摘くださりありがとうございました。全くこちらのミスでございます。意図的に隠
> そうとしたのではございません。ただし、43点のこどもは、両方の知識を持ってお
> りましたので、知識あり群に入ります。したがって、以下の分析も知識あり群の4歳
> 児は10人なく11人で、知識なし群の4歳児は10人ではなく9人となります。た
> だし、結果傾向は変わらないと思われます。また、知識あり群のみを対象とした分析
> も4歳児の高得点群は1名増え、9人となりますが、これも結果傾向は変わらないと
> 思われます。Fig2の件ですが、Table1の概念的関係課題の4歳児と6歳児の平均得点
> から算出した平均得点でしたので、35.00点になりました。ただし、Table1の4歳児の
> 平均得点が誤っている可能性もあり、現在ローデータを見直している最中です。
>
 どちらも結果を大きく左右するようなものではないと思いますが、
データへの信頼性は大きく揺らぎます。これからはぜひ慎重になさってください。

>  データに関してこちら側のミスではありますが、「著者にとって都合の悪いデータ
> なので、意図的なデータ隠しの疑いをもたれる可能性がある。」などと書かれます
> と、今後の研究生命に関わります。研究に関しては真摯な態度で望んでおりますの
> で、どうぞご理解ください。
>
 私は疑っているわけではありません。
しかし、誰かに「疑いをもたれる可能性がある」ことは真剣に受け止めるべきです。
「研究に関しては真摯な態度で望んで」いるということですが、
研究者がどんな態度なのかは読者は論文だけから判断するのです。
編集委員会に速やかに訂正を申し出て、次号に正誤表を載せてもらうことを依頼すべ
きです。

>  それと、ご指摘にありましたように、Miller & Weiss(1981)を誤解しているという
> 点ですが、どのように誤解しているのでしょうか。先行研究そのままの課題を使うよ
> り、多少改変して新たな知見を出すことを目指しました。その結果、Miller &
> Weiss(1981)が開発した選択的注意課題の遂行だけにとどまらず、より広義な意味で
> の子どもの選択的注意と知識の関連性が明らかになったと思われます。
>
 たとえば、坂田さんは「M&Wの第2の問題点」として、
M&Wは「課題として、当該の種類の刺激だけを選択させる」と書いています(p.65, l.11)が、
そうでしょうか?
私が読む限りでは、M&Wの与えた課題は、
「動物の絵を見せて、それがどこにあっ たか」
(asked the child to open the door where that animal was.)探すものでした。
そして、子どもが、たくさんのドアの中から、
「動物が隠れているはずのドア(relevant)」だけに注意を向けてその動物を探せるかが
M&Wで調べられたことだと思います。
まさに、
子どもたちの選択がそのままパフォーマンスレベルで確認できるうまい方法 です。

 一方、坂田さんの課題改変は、M&Wの「選択的注意課題」を
「概念分類課題」とでもいうべきものにしてしまっています。
知覚関係課題では「赤系の色」と「青系の色」の分類、
概念関係課題では「動物」と「家具」の分類をさせているにすぎません。

 坂田さんが実験で明らかにしたように、
M&Wの選択的注意課題の「課題」だけを取り出して考えれば、
その課題遂行に動物や家具の概念(知識)が要求されることは確かです。

 しかし、M&Wやその他の研究者が「選択的注意課題」で研究しようとしているのは、
子どもの「選択的注意」という現象です。
M&Wも課題遂行に動物や家具の概念(知識)が要求されることは折り込み済みで、
だからこそ、子どもたちが充分な知識を有しているかを何度も確認しているのです。
M&Wが調べたかったことは、
「その知識を生かすための注意を選択的に使うことができるか」
ということだったはずです。
M&Wはそのために、いろいろな課題を組み合わせて、
「子どもの注意がどこに向けられるのか」を
パフォーマンスレベルで測定しようとし ています。

 坂田さんの研究では、どの指標が「選択的注意」を測定するものなのでしょうか?
何度も読み直しましたが、
坂田さんの課題は子どもに概念分類をさせているだけとしか思えないのです。
「選択的注意課題」と言いつつその実は「概念分類課題」なのですから、
「知識測定課題」と結果が見事に照合するのもいわば当然なのです。

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