松田文子大先生からのメール(2000/8/31)

Date: Thu, 31 Aug 2000 15:59:57 +0900
From: Fumiko Matsuda
To: kazmori@gipwc.shinshu-u.ac.jp (守 一雄 )
Subject: Re: KR vol.6-3
MIME-Version: 1.0

守 一雄先生

>     【『教心研』第48巻第2号掲載論文批評(その1)】
>
>◎松田文子(matsudaf@hiroshima-u.ac.jp)・永瀬美帆・小嶋佳子
>・三宅幹子・谷村亮・森田愛子:【KRベスト論文賞】
>関係概念としての「混みぐあい」概念の発達
>  密度(混みぐあい)という概念は小学校5年算数の「単位量あたり」の
>単元に出てくるが、(1)単位面積あたりの人口である人口密度などの「混み
>ぐあい」と(2)単位時間あたりに進む距離としての速さがこの順に学習され
>るという。つまり、子どもにとって「混みぐあい」のほうが「速さ」よりも
>理解しやすいと仮定されているわけである。この研究では、5歳から10歳ま
>での136名の子どもについて、長さの異なるプランターに一定間隔でチュー
>リップを植えたときのチューリップの数と混みぐあい(「プランターの長さ」
>「チューリップの数」「混みぐあい」)の関係の理解度を調べたものである。
>その結果、(混みが一定ならば)「長さ」と「数」は比例するなどの2者関
>係については8歳ごろまでにかなり理解が進むが、「混みぐあい=数/長さ」
>という統合された3者関係の理解は10歳でも25%程度の子どもしかできてい
>ないことがわかった。速度概念についての先行研究(Matsuda,1994)を考慮
>すると「混みぐあい」の学習より前に「速さ」を学習するほうがよいという
>提言は説得力がある。ベテランの松田大先生に賞をあげてもかえって失礼か
>もしれないが、あえて【KRベスト論文賞】をさしあげることにした。それ
>は、前回のKR第4巻1号での批判が受け入れられて、今回は略語の命名もわ
>かりやすいものになり、図表も日本語表記になっていたことが大変嬉しかっ
>たからである。

上記コメントありがとうございました。私も先生から前回受けた指摘の2点はしっかり憶
えていましたが,先生もしっかりご記憶だったのですね。しかし分かりよくて短い略号に
は,いつも苦労しています。(もう1点については,英文の投稿論文の比率を増やすこと
で対応しています) そういうわけで,KRベスト論文賞は喜んでいただくことにします
。ところでこの論文は受稿から受理まで1年4か月かかっていることが示しているように,
なかなか審査をパスせず苦労惨憺の作です。常任編集委員と思われる先生が終始「教育心
理学研究の学術研究のレベルに達していない」というような理由で不採択で,4人目の審
査に回ったからです。私ももうすっかり年を取って好々婆になったので,3度の書き直し
と4人の審査員のコメントのおかげで,論文がずいぶんよくなったと,その最初の審査員
の先生に感謝し,「教育心理学研究」がもはや私の手の届きがたいハイレベルの学術雑誌
になったことを喜ぶことにしましょう。(院生が第一著者であったら,私もこうは寛大に
ならなかったでしょうが・・・。審査員には研究者を育てるという気持ちが不可欠だと思
いますから)

忙しくしていて,返事が遅くなり済みませんでした。それにしても,先生もよく続きます
ね。

松田文子
2000.8.31
広島大学教育学部心理学教室
〒739-8524 東広島市鏡山1丁目
Tel:0824-24-6770, Fax:0824-22-7174
E-mail:matsudaf@hiroshima-u.ac.jp