南風原さん@東京大学のご指摘1998/9/8)

南風原さん@東京大学のご指摘(1998/9/8)

Date: Tue, 08 Sep 1998 18:45:01 +0900
To: fpr@nuis.ac.jp
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Subject: [fpr 1181] Re: 守さんからの問い合わせに対して
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南風原@東大教育心理です。

守 一雄 さんが以下のように書いています:[fpr 1180]

>  以下は、服部さんからいただいた数値の表です。
>
> >  2群の場合の検定力をspaで計算しますと,
> > ----------------------------------------------
> > 仮説    d   n1(=n2)   α   検定力
> > ----------------------------------------------
> > 両側仮説 0.2 142 0.05 0.39
> > 両側仮説 0.5 142 0.05 0.99
> > 片側仮説  0.2 142 0.05 0.52
> > 片側仮説  0.5 142 0.05 0.99
> > ----------------------------------------------
> >
> > また,1群のt検定(対応のあるt検定)の場合は
> > ----------------------------------------------
> > 仮説    d    n    α   検定力
> > ----------------------------------------------
> > 両側仮説 0.2 142 0.05 0.66
> > 両側仮説 0.5 142 0.05 1.00
> > 片側仮説  0.2 142 0.05 0.77
> > 片側仮説  0.5 142 0.05 1.00
> > ----------------------------------------------

ちょっとテクニカルな話になります。

2つめの表のことですが,1群のt検定(一組のデータの母平均がある定数に等
しいという仮説の検定)と,対応のあるt検定(事前事後データやマッチングさ
れた対のデータによる検定)は,ここでは区別して考える必要があると思います。
1群のt検定の場合は,母平均μと定数cの差を,母標準偏差σで割ることによ
って,効果量が
ES_1=(μ−c)/σ (1)
と定義されます。

対応のあるデータの場合は,各対ごとの差をDとして,効果量を
ES_2=μD/σD (2)
によって定義すれば,これは(1)でc=0とした場合と同じ扱いができますから,
1群のt検定の検定力分析のプログラム(GPOWERなら"Other t-tests")がその
まま使えます。しかし,これら2つの効果量は,分母の意味がまったく違います
から,その値を同じように解釈することはできません。また,独立な2群のとき
に用いられる効果量
ES_3=(μ1−μ2)/σ (3)
は,(1)とは同じように解釈できますが,(2)とはやはり分母の意味が違います。

そこで,対応のある場合にも,独立な場合と同様に(3)によって効果量をまず定
義し,それを検定力分析の目的のために(2)に変換することを考えてみます。た
とえば事前と事後,それぞれの母平均をμ1,μ2とし,事前と事後に共通の母標
準偏差をσとすると,(2)の分子は
μD=μ1−μ2 (4)
分母は
σD=σ{2(1−ρ)}^.5 (5)
となります。ここでρは対応のあるデータ間の母相関係数です。このρの見当を
つければ,それを用いて,
ES_2=μD/σD
=(μ1−μ2)/[σ{2(1−ρ)}^.5]
=ES_3/{2(1−ρ)}^.5 (6)
のように,設定に便利な効果量ES_3から計算に直接必要な効果量ES_2が求められ
ます。

上の2つめの表は,効果量dとして(2)のES_2が用いられているようです。もし
上の1つめの表と比較可能なように(3)のES_3のほうをdとするのなら,表のd
の値を(6)で変換した値を効果量として入力する必要があります。(なお,(6)
から分かるように,ρをちょうど .5 とするなら変換は不要になります。今回の
一連の議論の発端となったデータではr=.48でしたから,これをρとして使用
すれば,上の2つめの表は,ほぼそのまま利用できることになります。)


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南風原朝和 haebara@educhan.p.u-tokyo.ac.jp
〒113-0033 東京大学 大学院教育学研究科
TEL:03-5802-3350 FAX:03-3813-8807

 


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