第9巻第9号              1996/6/1
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DOHC(年間百冊読書する会)MONTHLY

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毎月1日発行[発行責任者:守 一雄]

(PDC00137, kazmori@gipnc.shinshu-u.ac.jp)



 関西学術研究都市にある国際高等研究所というところで、先月30日から6月1日までの3日間「脳と心」国際シンポジウムがあり、初日朝から最終日の夜のパーティーまで全プログラムに皆勤し、「留学」した気分になってきました。実は、今月号には、後藤雄一『ザ・お役人天国』(フットワーク出版社\1,350)を紹介するつもりでいたのですが、この国際シンポジウムの興奮が残っていて、「カラ出張、カラ宴会、カラ残業にインチキ手当・・・お粗末行政に潜む悪徳慣行を摘発し続ける、パン屋さん4300日の痛快ルポ!」の中身を紹介する気分になれないのです。(この本は本当にスッゴク面白いですよ。)
 PDPモデルの提唱者であるカーネギー=メロン大学のMcClelland、ロボット研究の第一人者MITのBrooks、など8名の著名外国人スピーカーと、小脳研究の世界的権威である伊藤正男、ニューラルネット研究の甘利俊一など、国内からも蒼々たるメンバーが参加し、3日間一堂に会して「脳と心」について議論するという大変有意義なシンポジウムでした。内容的に得るところも多かったことはもちろんですが、10年ぶりに短期間の「留学」をして改めて痛感したことは、「やっぱりアメリカで勉強や研究をしなくっちゃダメだ」ということでした。要求される知識の深さと広さ、そしてそれを英語で論じる力が日本の研究者・大学生には決定的に欠けています。(慶應大学の波多野先生は例外中の例外。)
 ではどうするか。「日本の心理学専攻の大学生全員に以下の2点を課すことにする」というのが私の提案です。これだけでも現状は劇的に改善されるはずです。
(1)以下に紹介するアメリカの心理学の教科書をしっかり読み通す。
(アメリカでは心理学専攻学生だけでなく、大学生ほぼ全員が1年生でこの本を読みます。)
(2)この教科書の2章分(全体のほぼ10%)をスラスラと暗唱できるまで丸暗記する。
(導入となる第1章を全員が、第2章以降は興味分野から一つ選んでその章を憶える。)

【これは絶対お奨め】

Atkinson, et al.『An Introduction to Psychology (12th ed.)』

Harcourt Brace¥4,000


 1994年11月号の『DOHC月報』で、西林克彦『間違いだらけの学習論』(新曜社\1,854)を紹介したときに、次のようなことを書いた。
> 先月から、モンゴル人留学生を交えての英語での心理学の授業を始めました。教
>科書には、Atkinsonら(1993)の『Introduction to Psychology(11th ed.)』を使う
>ことにしました。この教科書はもともとは、40年以上も前にHilgard が書いたもの
>で、新しい知見を加えて改訂を繰り返しながら、ずっとアメリカの大学で使われて
>きている心理学教科書の「定番」です。豊富な図版、カラー写真、わかりやすい説
>明と、これ一冊で心理学の基礎が自習できます。(ちなみに、日本で買っても、ペ
>ーパーバック版なら4千円ちょっとです。24刷も売れていながら、20年以上も
>前の内容をまったく改訂しない有斐閣の『心理用語の基礎知識』\3,760より、内容
>的に優れているばかりでなく、価格的にもずっとお買得です。)

  この本の最新版が出た。大学生協でも注文すれば1カ月ほどで届く。しかも、円高や洋書の手数料の削減で、A4版で1000ページ近いこの教科書がなんとハードカバーでもわずか4千円ちょうどで買えるようになった。(1992年5月号に、立花隆『サル学の現在』(平凡社\3,200)が1頁あたり5円以下でこれほどページ単価が安い本は見当たらないと書いたが、ついに記録更新である。)
 当然のことであるが、値段は問題ではない。内容である。カラー図版や写真が豊富でわかりやすい・平易な英語で読みやすい・内容が豊富で漏れがない・改訂を繰り返し内容が新しい。断言する。この本より優れている心理学の教科書は残念ながら日本にはない。 (守 一雄)


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